第940話 105日目 夕飯後の話し合い。4(エルヴィス家の話。)
エルヴィス家の客間。
夕食のティータイムを楽しんでいた。
「ほぉ。マリとニオがのぉ。
精霊同士で魔法なしの武器勝負とは面白い事を考えたの。
うむ。わしも見たいの。」
ジーナが昼間の説明をしてエルヴィス爺さんがお茶を飲みながら頷いていた。
「はい。
あとはどこでするかなのですが、伯爵様やゴドウィン伯爵様も観覧されると考えますとどこで実施すれば良いか・・・考えをお聞きしたいのです。」
「ふむ。
フレデリック。昼前が良いかの?」
エルヴィス爺さんが自身の後ろに控えるフレデリックに顔を向け聞く。
「はい。そうですね。
昼前の城門前の演習場でよろしいのではないでしょうか。
先ほどジーナからも説明を受けましたが、剣技での組手のようですので、周りに被害がないでしょうからその辺で良いでしょう。
それに槍の戦闘は私共は考えておりませんので、騎士団や兵士達で主だった者達も呼びましょう。
新しい発想が浮かぶかもしれません。」
「うむ。そうじゃの。
タケオの出現で戦闘形態が変わろうとしておる。
わしらも常に今よりも良い武器を生み出し、良い戦い方をして負傷者を少なくしないといけないからの。」
「お爺さま。槍の戦闘は普通しないのですよね。」
スミスが聞いて来る。
「少なくとも戦争ではしないの。
フレデリック。槍を1本持って来てくれ。」
「はい。畏まりました。
すみませんが、1本。」
「はい。畏まりました。」
フレデリックが頷き、執事が退出していった。
「槍が来たら見せようかの。
ところでニオが感心したマリの剣を見せて貰えるかの?」
「こちらです。」
マリが人間大になり一文字を伯爵に渡す。
「うむ。」
エルヴィス伯爵が鞘から剣を抜き刀身を見る。
「ほぉ・・・」
「これは凄いですね。」
エルヴィス爺さんとフレデリックが感嘆をもらす。
「お爺さまは剣に詳しかったのですか?」
ジェシーが聞いて来る。
「詳しくはないの。
だが・・・この剣は良すぎるの。雰囲気が違うの。
ふむ。年を取るとショートソードが良いのじゃが・・・
わしは小太刀にするかの。」
エルヴィス爺さんが座りながら構え、すぐに納刀する。
「マリ。ありがとう。」
「いえ。」
エルヴィス爺さんがマリに一文字を戻す。
「親父殿。どう思われたか?」
ゴドウィン伯爵が聞いて来る。
「普通なら実戦に不向きじゃの。
兵士相手には斬れてもフルプレート相手では当たり所が悪ければこの薄さじゃ。
刃が欠けるじゃろう。
この手の剣は狙った所に正確に打ち込める技術がある者のみが使用できる上級者向けじゃの。」
エルヴィス爺さんが背もたれにゆっくりと背もたれに体重をかけながら言う。
「ですが、今親父殿がタケオの小太刀にするかと言ったのは。」
「わしに剣の才能はないの。
それに年じゃ。剣を振るって武勇をなんて出来ん。
ショートソードより短いからわしでもそれなりに取り回しが出来そうじゃしの。
まぁ恰好がそれなりに付いて見た目も綺麗な小太刀を傍に置いておけば良いじゃろう。」
「そうですか。」
ゴドウィン伯爵がエルヴィス爺さんの言に少し落胆した表情を浮かべ頷く。
「アナタ・・・お爺さまに擁護して欲しかったんでしょう。」
「ち・・・違うぞ!?」
「ふーん・・・」
「失礼します。
伯爵様。お持ちしました。」
客間の扉がノックされ執事が槍を持って入って来る。
槍は3mの木製の長柄で穂先は鉄製の菱形だった。
「うむ。
それをマリに渡してくれるかの。」
「はい。
こちらになります。」
「かたじけない。
・・・?」
マリが執事から槍を受け取った瞬間に首を傾げる。
「・・・伯爵。これは・・・普通の槍なのですか?」
「アズパール王国の標準的な槍じゃ。」
エルヴィス爺さんが目線をマリに向ける。
「これは・・・確かにこれを主兵装にするのは・・・」
マリが難しい顔をさせる。
「ん?マリ。どうしたのですか?」
スミスが聞いて来る。
「主。槍の利点は間合いの広さが最大の特徴です。
そして振りまわす。相手の上段への打撃や刺突など基本操作や用途が簡便なので本来なら主兵装は槍になるはずなのですが・・・」
マリは難しい顔のままだ。
「そうなのですね。
でも何でならなかったのですか?」
「・・・主。この柄はダメです。
戦場での使用は控え・・・いや。確かに防御での2、3度なら保つでしょうか。」
「柄?
ああ。先の剣以外の所ですね。
適した物とはどんな物なのでしょうか?」
「主。槍の柄の部分に適している材料は『頑丈である事』、『しなやかさがある事』、『量産できること』です。
この柄は・・・強度もしなやかさもが圧倒的に足りていません。
伯爵。もっと良い材料はないのですか?」
マリが聞いて来る。
「ないの・・・」
「ありませんね。
建物の梁等に使う固いのはあるのですが、材料である木が真っ直ぐに生えないのです・・・魔法による強化で継ぎ足しし、太くするから強度が保っている場合がほとんどです。
太い幹から1本物を用意して強化の魔法をかければ良い物は出来るとは思いますが・・・魔法の特性がない者も居ますので・・・それにそこまで金をかけれるのか・・・」
エルヴィス爺さんとフレデリックがため息を漏らす。
「マリ殿。よろしいですか?」
「ああ。」
ヴィクターがマリの横に行き槍を受け取る。
「・・・」
ヴィクターが槍を軽く構える。堂に入った感じになる。
「・・・んー・・・」
ヴィクターがすぐに構えを解いて槍を持って来た執事に渡す。
「ヴィクターはどう思うかの?」
「失礼ながらこの槍は構えただけでも穂先までのしなりが異常にあり、確かに防御のみにしか使えないかと思います。
魔王国に良い木材がございます。
この槍よりは構えた際のずれがなくなるかもしれません。」
「ふむ・・・魔王国では槍は一般的かの?」
「ファロン子爵領では戦場でほぼ使用しません。
攻撃時は狼の姿になりますのでそちらの方が威力があります・・・槍は防御時に使いはしますが・・・これよりはマシですね。
魔王国の王軍は槍と剣だったはずです。
騎馬は確か・・・いや。戦場で見た事ないですね。
いつもは剣を持っていたはずですが。」
「うむ・・・
他国に武器の柄を頼むのものぉ・・・自領で賄えないと意味ないからの・・・」
「検討課題ですね。」
エルヴィス爺さんとフレデリックがため息を漏らすのだった。
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