第928話 闘技場にて観戦を。7(ご対面。)
「この5名ですか。」
武雄が連れて来られたエルフ5名を見て言う。
壮年の男性と痩せている女性。青年と女の子は立っているが、女性は座り込んでいた。
5名とも目から生気が感じられない。死んだような眼をしていた。
側近達は契約者変更の準備をしている。
「買って14日目だがな。
12連勝だとこうなることも良くある。」
「過酷ということでしょうか。」
武雄はそう言う物の「なんでピカピカにしないんだ?」とカファロの意図がわからなかった。
武雄は人身売買の経験は多くはないが、普通商品を高く売るためには綺麗にさせ、傷を隠すのが普通でその傷を見つけるのが目利きとしての素養だと思っていたのだが・・・「4名は立っているが何かしらの故障をしているし、残りの1名は歩行困難・・・これはどんな裏があるのだろうか・・・」
武雄は考えるがカファロの考えが全くわからなく首を傾げるのだった。
「ケアが出来る者が少なくてどうしてもな・・・運営の一人としてこの事態は憂慮するべき事ではあるんだが、なかなか資金も潤沢にある訳でもなくて大変だ。
このあとも会議がある。」
「場所は違っても人材不足はどこも一緒・・・ですか?」
「まぁそうとも言う。
キタミザト殿の言を借りれば奴隷から良いのを集めてはいるが、なかなか手に入らないんだ。
目利きとは難しいものだな。」
「なるほど。」
武雄とカファロは軽口を叩きながら5名を見ている。
やっぱりカファロが何を考えているのかわからない・・・
「値段も想定よりかは安いから二つ返事で頷いちゃったけど・・・何か見落としがあるのか?国に対して何かマズい内容になってないよね?
あくまで5名の買取の価格しか話していないし・・・んー・・・わからない。どうするか・・・」
武雄は有益すぎて怖くなるのだった。
「カファロ様。ご用意が出来ました。」
「そうか。
キタミザト殿。こちらに。」
「はい。
確か。継続はカファロ殿が名前を言って私が貰い受ける言葉を言えば良いのでしたかね?」
「そうだな。
俺も継続は久しぶりだ。
闘技場で敗れた者は保護施設行きがほとんどだからな。」
「保護施設ですか?」
「ああ。使用出来なくなった奴隷は金しかかからない。
所有者が手放したいと思うことは多々あるものだ。
武力が高いから奴隷契約を解除して街中に放り出す訳にはいかん。なら最後の時まで施設で管理するんだ。
広大な土地を用意している。
闘技場の売り上げから賄われているはずだ。」
「なるほど。」
武雄が頷く。
「さ。キタミザト殿。始めようか。」
「わかりました。」
カファロと武雄が5名の契約書を前に並ぶのだった。
・・・
・・
・
「では。カファロ殿。エマ殿。
貴重な時間を頂きありがとうございました。」
武雄がエルフたち5名の前に立ち、カファロとエマに頭を下げる。
エルフ5名は契約する直前に武雄が一人一人ハグをして少し言葉をかけると目に生気を戻して大人しくしていた。
武雄とマイヤー以外は「戦闘から遠ざかるからだな」と納得し、「キタミザト殿が楽しそうだからかな?」と武雄の包容力が高いからとも考えていた。
武雄は実際には「早く撤収しよう」と考えていた。
「いえ。楽しい一時だったわ。」
「はぁ・・・ま。キタミザト殿。貴殿の活躍を期待すると言っておこう。」
エマは楽しそうに手を振り、カファロは疲れた顔をさせている。
「ええ。
ですが、私が活躍してしまうのは貴国にとっては微妙でしょうね。
ま。ほどほどにしますと言っておきましょうかね。」
「ふふ。キタミザト殿。欲をかかねば男が廃りますよ?
特に女の前では良い所を見せた方が良いですね。」
エマが楽しそうに言う。
「ま。評価は各々に任せましょう。
それに口では弱気。結果は上々の方が見た目は良いでしょう?
私はそこを狙っています。」
武雄がエマに笑みを向けながら言う。
「ふふ。キタミザト殿はあまりこの辺には居ない方ね。
じゃ。キタミザト殿。また会いましょう。」
「ええ。
機会があれば。
旅に来られた際は言ってください。それなりに対応させて貰います。
では。これにて失礼します。
ベルテさん達。行きますよ。
と。エンマは歩けませんでしたか。」
「所長。私が連れて行きます。」
マイヤーが武雄に言う。
「わかりました。
では。失礼をします。」
武雄達が退出していく。
・・
・
「ふふふ。」
エマはその後も楽しそうにお茶を飲んでいる。
「・・・そんなに楽しかったか?
それにしてもあまり強引な事を言わなかったが・・・いつもこうであってほしいな。」
「ロターリオ。決めたわ。」
「何がだ?」
「4年半後の戦争。
私達ドローレス家は金銭以外に得る物はなさそうだったけど。
報酬はキタミザト殿を貰う事にするわ。」
「あ~・・・そう来たか。
だが、領主であるエスタバン殿と話さなくて良いのか?」
「構わないわ。どうせ父様はその辺は相応の金額であれば良いと思っているし。
他に有益な物があれば喜ぶでしょう。」
「だが、あの者がその対価に見合う者なのか?
こう言っては何だが・・・普通より上程度だろう?」
「・・・そぉ?
ふふ。そうね。でもそれで良いのよ。」
エマの笑いをカファロがわからないのだった。
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「戻りましたよ。」
武雄達が穴の開けた貴賓室に戻って来る。
「「おかえりなさい。」」
全員が立ち上がり武雄達を出迎える。
「はい。お待たせしました。」
「後ろの5人がそうですね。
交渉は思惑通りでしたか?」
アンダーセンが聞いて来る。
「・・・まぁ。良い経験にはなったかもしれませんが・・・少なくともこの国の娘がいましたね。」
「厄介な者が居ましたね。
とりあえず宿に戻りましょう。」
「そうですね。
宿で詳しい話し合いをしましょう。
とりあえず。こっちの一番歳をとっている男性がドナート・ベルテ。
隣が奥さんのボーナ・ベルテ。長男のジッロ・ベルテ。
マイヤーさんに抱えられているのがエンマ・ベルテ。最後にフローラ・ベルテです。
ベルテさん方。こちらが私の部下の」
武雄が順々に挨拶をさせていく。
・・
・
「バートさんとフォレットさんは付き添いみたいなものですね。
最後に。ミア。パナ。ビエラ。」
「はーい。」
「よろしく。」
「あ。」
2人が武雄の胸ポケットから顔を出し、床に座っていたビエラが両手を上げる。
ベルテ一家が少し驚く。
「以上がうちの人員です。
あ。そうだ。帰りに冒険者組合で湯浴み場を借りましょうか。」
「前と同じですね。
冒険者組合の場所もわかっています。」
フォレットが頷く。
「パナとフォレットさんは少し人数は多いですがよろしく。」
「はい。」
「わかりました。」
フォレットとパナが頷く。
「では。早々に移動しましょう。
バートさん。冒険者組合まで先導をお願いします。」
「了解しました。」
武雄達が部屋を退出していくのだった。
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