第881話 92日目 皇子一家の出立。
3時課の鐘(9時)が鳴り終えていた。
王城の城門に第1皇子一家と第2皇子一家の馬車が並んでおり、皆が集合していた。
「よし、終了です。」
エイミーが詰め込みが終わった馬車に向かって胸を張る。
「相変わらず早いわね。
それにしてもエイミーは帰りもしないのにさっさと詰めちゃうのね。」
ローナが感心しながら言う。
「私の分が無いので隙間だらけで楽ですけどね。
で・・・第1皇子一家は・・・」
エイミーが顔を向ける。
「こっちは相変わらず遅いわね。」
セリーナが苦笑している。
「さてと・・・先に乗込んでおくか。
パット、王立学院での残りの日々を楽しめ。」
「はい、父上。」
「じゃあねパット。しばしの別れだわ。」
「もう卒業だけどのんびりと帰って来なさい。」
「パット兄上、またね。」
第1皇子一家も馬車に乗り込む。
「あ~・・・エイミー、学院頑張れよ。」
「私の事よりお母様の方が心配です。
私は王都に居て上手く過ごしていますからご安心を。」
「そうだな。
ま、何かあれば言ってくれ。」
「はい、お父さま。」
「アル殿、エイミーの事をよろしく頼む。」
「お任せをニール殿下。」
「えーっと・・・エイミー、一緒に帰らない?」
「何を不安がっているのでしょうか?
一緒に帰っても出来る事はありません。
あとは夫婦で頑張ってください。」
「は~い。」
「エイミーお姉様、また。」
「うん、その片手を挙げての挨拶止めなさいね。
そんなのどこで知ったのかしら・・・
クリナ、私達の弟をお願いね。」
「はい!」
第2皇子一家も馬車に乗り込む。
「じゃあ兄上達もお元気で。
次は・・・いつ会えますかね?」
「私達は良くて交代の時だろうな。」
「俺達は・・・戦争の時くらいか?面倒な事だ。」
「どちらにしても当分先ですね。」
ウィリアムが2人の兄と苦笑交じりに話している。
「うむ。では皆、別れだな。
まぁ暇だったらまた王都に来い。」
アズパール王が両家族に声をかける。
「「出立!」」
御者台から声が上がり馬車が動き始める。
・・
・
王城の門を過ぎると騎乗した各騎士団が馬車の周りを固めるのだった。
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「行ったな。」
「行きましたね。
・・・父上はどうされますか?」
アズパール王の呟きにウィリアムが聞き返す。
「疲れたから今日はのんびりと過ごしたい物だが・・・」
「陛下、書類が溜まっております。
執務室にお戻りください。」
「相変わらず我に休まる時間はないのか・・・」
いつの間にか現れたオルコットがアズパール王を連行していく。
・・
・
「いつも通りね。」
王族の出立を見守っていたレイラがそんな光景を見ながら呟く。
「ウィリアム、私達はどうするの?」
アルマが聞いてくる。
「そうだね・・・んー・・・僕は貴族会議だけど。
ま、アルマ達は緊急のことがない限り今日は休んで良いかもね。
結構慌ただしかったし。」
「じゃあのんびりとお茶でもしましょう。」
「はい、わかりました。
ジェシーお姉様とアリスとスミスも呼びましょうか。」
「そうね。
あの3人・・・レイラも含めてだけど何やらここ2日くらい話し合っていたわよね?
その話も聞いておこうかな。」
「あ~4姉弟の話ですか?まぁ他愛もない話ですよ。
エリカさんは・・・うん、その顔を見ればわかるわ。」
レイラは隣にいるエリカを見て言う。
「・・・お茶を飲みながらタケオさんの宿題を考えますよ・・・」
エリカが儚げに言ってくる。
「あまり根を詰め過ぎないでね・・・ほんと誰でも相談して良いから。」
「そこはわかっているんですけど・・・もう少し考えます。」
エリカが涙目で頷くのだった。
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王城の一室の窓際より。
「殿下方は行きましたね。」
「行ったわね。」
スミスとジェシーが呟く。
「コノハ、マリ、何もありませんでしたか?」
「アリス、あの場でも王城内にも何もなかったと思うわ。
アルちゃんが何かあれば動く予定だったけど何もなかったから向こうでも何もないんだろうけど・・・
ん~・・・おかしいわね。」
「某も不穏な者は何も・・・絶対におかしいですね。
一見隙だらけにして仕掛け易くしましたので、来るだろうと踏んでいましたが、狼藉者は達人かも知れません。」
バスタードソードを片手にいつでも駆けつけられるように臨戦状態で待機していたアリスがコノハとマリと話している。
「達人ならそもそも視線を他人に気付かせないのではないですか?」
「然り。
少なくとも毎回バレたりはしないはずです。」
「確かにね。
それにしても何で皇子妃ばかりなのかなぁ。」
「普通に考えれば妊娠したから。
それも私が監視されないなら明らかに何かしらの組織が王家の子を狙っているとなるわね。
この時点で少なくとも野良の魔物という線はないわ。」
ジェシーが腕を組んで考える。
「そうですね。
これはまたレイラお姉様と話さないといけませんね。」
アリスも考えるのだった。
アリス達の室内にてジーナは一人窓際に立っていて皆を見ている。
正確には見る風を装っている
「そうですか。昨日今日と王立学院内での怪しい会話をしている者は居ませんでしたか。
ロロ、引き続き寄宿舎と王立学院内で怪しい行動や言動をしている者を監視しなさい。
・・・いえ、この建物内の事は精霊や人間がします。貴方達が来たら混乱します。
なので決してこの建物内の者に悟られてはいけません。気を付けて戻りなさい。
・・・ええ、そうです。監視のみです。
・・・わかっています。報酬はこの間の穀物40kgで。ここ数日の報告は明日の早朝の寄宿舎でして貰います。その時に穀物も渡します。
では行きなさい。」
ジーナが呟いている足元の壁の隙間で何かが出て行く。
少し考えてジーナがアリス達に近寄っていくのだった。
「アリス様、スミス様、ジェシー様。
先日の話の続きになりますが、下手人が捕まりませんでしたので、予定通り王城にあと2日滞在とするという事でよろしいでしょうか。」
「うん。ジーナ。そうなるわね。
今日明日で王城内から人を少なくさせるのは少し危険な状況ね。
アルマお姉様もレイラも少し不安だろうし・・・あと2日延ばす事にしましょう。
アリスとスミスは平気?」
「僕は平気です。
アリスお姉様は?」
「こればっかりはね・・・あと2日は様子見でしょうね。
ですが、2日待っても結果が出ないようなら私達も退去せざるを得ないでしょう。
流石に表立っての用がないのにいつまでも居れませんね。」
アリスが考えながら言う。
「畏まりました。
アーキン殿達とゴドウィン家の者に3日後の出発と伝言をしてきます。」
「うん。ジーナちゃん、お願いね。」
「はい。まずは第八兵舎に向かいます。
失礼いたします。」
ジーナが退出していく。
「ヴィクター、彩雲にお爺さまへの伝言を頼みます。
3日後に王都を出立。
標準的な日程にて戻ると伝えて貰います。」
「はい。
では3日後の朝に出立と伝える事と、厨房に行って残飯を用意いたします。」
「うん、よろしく。」
「はい。
では私も一旦失礼いたします。」
ヴィクターも退出していくのだった。
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