第799話 86日目 朝から研修。
武雄はまだ日が昇る前に目を覚ます。
「・・・」
見渡せば隣にはぐっすりと寝ているアリスと少し離れて子供用ベッドで寝ているスーとミアとパイディアーとパナとコノハ。
「・・・コノハ、何で下敷きになっていますかね?」
他のチビッ子達に乗っかられていて「うーうー」唸りながら寝ている。
「・・・ん・・・タケオ様?・・・」
アリスが軽く身じろぎをして目を開けて来る。
「起こしましたか。
まだ日の出前です。寝ていてください。」
「・・・昨日は遅くまで・・・起こされていましたから・・・寝ます。」
「皆に気づかれないようにするの」
「はい!寝ましょう!」
アリスが武雄を引っ張り強引にベッドに寝かすのだった。
・・・
・・
・
武雄達の部屋では皆が起床して着替えも終わっていた。
ヴィクターとジーナも朝の支度を済ませ、朝のお茶を用意し皆に配膳していた。
「うぅ・・・何だか寝不足です。
あ、美味しい。」
アリスが朝食前のお茶を飲みながら言ってくる。
「あ、このお茶の香り・・・流石はパイディアーね。」
コノハがパイディアーが入れたお茶を飲みながら感心する。
「ありがとうございます。」
パイディアーが会釈をする。
「・・・パイディアー殿・・・これは・・・」
武雄がプルプルしながらパイディアーに聞いて来る。
「タケオ、どうしましたか?」
パイディアーが聞いて来る。
「こ・・・このお茶はどうやって淹れたのですか?」
「?・・・あの茶器を使ってですが?」
パイディアーがお茶セットが乗ったお盆を見る。
「何も魔法を使わずに?」
「はい。特に何も使わずに用意されたお湯と茶器で普通に淹れただけです。」
「・・・パイディアー殿!何卒、ご教授ください!」
武雄が立ち上がりパイディアーに跪く。
「あ・・・タケオ様の病気が発症しましたね。」
アリスが呆れる。ヴィクターとジーナは驚いている。
「何卒!簡易的なお茶セットで美味しいお茶の淹れ方を教授願います!」
武雄が深々と頭を下げる。
「え?え?」
パイディアーは自分を実体化させた立役者が頭を下げていて面食らっている。
「はぁ・・・タケオ、お茶ぐらいで必死ね~。」
コノハが苦笑する。
「何をおっしゃいます、お嬢さん。
茶葉も茶器も同じ物を使って味が違うという事は淹れ方だけの問題です!
逆に考えれば淹れ方だけでこうも味が変わるというのがわかったのです!
これは美味しいお茶を飲むために教えて貰う必要があります!
コノハだって飲むのなら美味しい方が良いでしょう?」
「あ・・・それもそうね。
じゃ、私もしようっと。」
コノハが席を立ち武雄の横に跪く。
「パイディアー殿、何卒、タケオの要望をお聞きくださいますようお願いいたします。」
「「「な!?」」」
パラスとパナ、パイディアーが驚く。
「あ・・・あ・・・平気です!コノハ殿!タケオ殿!
お教えしますから頭を上げてください!」
パイディアーがもう良くわからない状況に置かれ慌てながら言ってくる。
「タケオ、やったわ。」
「力添え感謝します。」
「んふふ、良いのよ~。」
武雄とコノハが立ち上がり席に戻るのだった。
「コホンっ・・・では、皆さまにお茶の淹れ方を教えます。」
「「「はい!お願いします!」」」
武雄とヴィクターとジーナがメモを片手に聞き入るのだった。
・・
・
「・・・んー・・・この3番目が私は好きですね。」
「私は2番目ね。
でも料理次第では3番目も良いかもしれないわ。」
アリスとコノハが武雄達が淹れたお茶の品評会をしていた。
武雄とヴィクターとジーナは淹れては試飲を繰り返しメモを重ねて行く。
「はぁ・・・私の契約者であるタケオも相当変人ですね。」
パナがため息交じりに言う。
「・・・パナとタケオは似た者同士でしょう。
自分の執事と一緒に研修を受けるなんてこの世界の普通の人間ならプライドが許さないと思うのですけどね。」
パラスも若干呆れながら言ってくる。
「主らしいですね。」
「チュン。」
ミアとスーが机に座りながらボーっと作業を見ている。
アリスとコノハは武雄達の研修を朗らかに見ているのだった。
・・・
・・
・
「3人ともまずは及第点でしょう。
お疲れ様でした。」
パイディアーが3人が作り出した各種お茶を1口飲んで総評を言う。
「「「ありがとうございます。」」」
「いつか再び会う時に再度確認をさせて貰います。
それまでお茶の淹れ方を忘れないようお願いします。」
「「「はい!ありがとうございます!」」」
武雄達が深々とパイディアーに頭を下げると武雄は席に戻って来る。
「タケオ、どう?わかった?」
コノハが聞いて来る。
「はい、とりあえず淹れ方を教えて貰いました。
あとは一緒に出す料理やその場の状況で濃さや温度を変えて対応しようとかと思います。」
「ふむふむ、なるほど。
一番美味しいお茶だけではないのね?」
「はい。
美味しい淹れ方を教えて貰いましたが、パイディアー殿曰く、『状況にあったお茶を出す事が一番相手を思っている』という事でした。
『喉が渇いて水を一気に飲みたいという人に出すお茶』と『茶菓子を用意して人を招いての茶会用のお茶』では味や温度が違うのは当たり前だという事でしたね。
ですけど、基本は招く際のお茶を基本に淹れる事を知っておけば無難だろうという事でした。」
「ふむふむ。確かに肉料理も魚料理も同じお茶という訳には行かないか。
タケオ、これはタケオ達の街にも教えるの?」
「はい。エルヴィス家や私の研究室の下の喫茶店には教えます。
あとは自然と普及されれば良いなぁという安易な事を考えていますよ。」
「それで良いかもね。
何事もこれが正道と押し付けるのはマズいわね。
その土地に合った飲み方が普及すれば良い事だし。」
コノハの言葉に皆が頷くのだった。
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