第721話 王都守備隊と試験小隊。
ここは王都の第八兵舎近くの酒場。
試験小隊に採用されている若い2人が来るとあって王都守備隊の有志で歓迎会(酒はなし)がしめやかに(?)実施されていた。
「あ!ありがとうございます!」
「ははは!良いって事だ!
ミルコ!いっぱい食べていっぱい訓練をするんだぞ!」
「はい!」
ミルコの皿には隣の王都守備隊員から山盛りに肉が乗せられていた。
「ミルコ!食べろ食べろ!食べる事も訓練だ!」
「はいっ!頂きます!」
「良い食べっぷりだ!」
「アハハ!!!」
ミルコは男性隊員達から大歓迎を受けている。
「はぁ、美味しい。」
「アニータ、こっちも食べてみる?」
「はい、ありがとうございます。お姉様。」
「はぁ~~♪なんて良い子なの?
こんな妹欲しいかったわ♪
これも食べて良いわよ。」
「はい、ありがとうございます。」
女性隊員達もアニータを気に入ったようだ。
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アーキンとブルックは違う席でアニータとミルコの様子を伺っているが、「問題なさそうだ」と安堵していた。
「ん~・・・おかしいなぁ。
何で第一近衛と第三近衛、第三魔法と第二情報が居るんだ?」
「そうですね。
確か試験小隊の面々だけでやろうと企画しましたよね。」
マイヤーとアンダーセンが首を傾げている。
「良いじゃないですか!」
第二情報分隊長のラックが声をかけて来る。
「まぁ、別に悪いとは思っていないが、良いのか?主力が結構集まっているが?」
「平気ですよ。
今日の当番は第1騎士団ですし、飲酒はしていませんから。
今日は前半分が明日の昼まで、明日は後ろ半分が明後日の昼まで休息日ですよ。
明後日の授与式と明々後日の挙式が本番ですから。」
「まぁ、良いですけどね。
アーキン、さっき報告は受けたが・・・実際2人はどうだ?」
アンダーセンがアーキンに聞いてくる。
「報告の通りです。
資質という観点ではここにいる人員の中でもダントツな2人ですよ。
所長の引きの強さでしょうか。
教育がしっかり行き届けば最強の一角に成り得ます。」
「そうかぁ。
やはりキタミザト殿の引きの強さか。
まぁエルフの時点で人間とは比べても意味ないが。
ヴィクター殿とジーナ殿はどうだ?」
マイヤーが頷く。
「・・・所長からは何とも。
『種族的な問題で発動出来ないので身体強化のみ勝手にかかる』らしいので魔力量うんぬんは気にもしないらしいです。」
ブルックが報告してくる。
「そうか、まぁ執事兼家令だからな。気にもしていないのだろう。
だが、ジーナ殿は今年から寄宿舎に来るのだったな?」
「はい、所長から旅の途中に言われています。
たぶん所長からは授与式と挙式の後で落ち着いたら報告すると思いますが。」
「ジーナ殿は戦闘等の経験はあると報告書で見ましたが・・・護衛者としてはどうなんでしょうね。」
試験小隊のベテランの一人が言ってくる。
「わからんな。
ブルック、その辺は聞いているか?」
「えーっと・・・向こうに戻ってから寄宿舎に行くまでにジーナ殿は騎士団から剣の稽古を受け、実践感覚はアリス殿と模擬戦、学力についてはエルヴィス家のスミス殿が教える事になっていると言っていました。」
「うん!問題ないな!」
マイヤーが即頷く。
「地方の・・・それもエルヴィス家という事は魔物の襲撃等で実戦経験が豊富でしょう。
さらには鮮紅相手に模擬戦をバンバンしてくるのですか。
寄宿舎で暴れたらどうするのですか?」
他のベテランが言ってくる。
「・・・さぁな。
そもそもジーナ殿は元貴族だぞ?種族の違いも分かっているし、何かあってもそうそう怒らんとは思うがそれの逆鱗に触れるんだ。
仕掛けた者は相当卑劣な手か陰湿な事をするんだろうさ。
確か、総監局と人事局が何か動いているそうだな。」
「ええ。王都守備隊と第1騎士団で魔法師専門学院に行かない子供達に声がかかっているそうです。」
ラックが言ってくる。
「ふむ・・・」
「確かマイヤー殿の息子さんは今年でしたね。適性はどうでしたか?」
「うちかぁ・・・ちょっとな・・・」
マイヤーが悩む。
「遅れてすみません。」
「「失礼します。」」
と部屋の扉が開きトレーシーとケイとパメラがやって来る。
「あ!女の子来た!こっちよ!こっち!
そっちのむさくるしい方にいっちゃダメよ!」
アニータの居る机の女性隊員が手招きする。
「あの・・・学院長・・・」
パメラが恐る恐るトレーシーに聞いてくる。
「行っといで。無理はしてはいけませんよ?」
「は・・・はぁ。
ケイちゃん、行くしかないみたい。」
「行こうか・・・」
ケイとパメラは戦場に赴くのだった。
「マイヤー殿、アンダーセン、皆さま、お疲れ様です。」
「うん。トレーシー研究室長、お疲れ様。
学院は忙しいのか?」
マイヤーが聞いてくる。
「ええ・・・入学希望の件でちょっと。」
トレーシーが苦笑する。
「・・・それは王立学院の方に取られている件か?」
ラックが言ってくる。
「そうとも言えるし、そうでないとも言えますね。
実は今回の研究所の設立等々に相まって総監局と軍務局と人事局とで話合いが先月末に行われました。」
「面倒な部署が一堂に会したんだな。」
アンダーセンがため息をつく。
「まぁね。王立学院はほぼ人事局管轄だし、魔法師専門学院はほぼ軍務局管轄だしね。
その場で決まったのが魔法師専門学院の定数増員案でね。
各地方の貴族の文官達、特に軍務局に通達がなされる運びになったんだよ。」
「増員に動くのか?
まぁ前々から魔法師は足りていないという嘆きは軍務局から上がってはいたが・・・」
アンダーセンがそう言うとその席の他の王都守備隊員達も会話を止めて聞き入る。
「そこね・・・何で今なのかなんだけど。
実は第二研究所の試験小隊が理由にされたんだよ。」
「うちか?」
アンダーセンが不思議がる。
「どちらかといえば総長が言った奴隷からの異種族雇用の方がうち絡みの理由だろうとは思うんだがな。」
マイヤーがちらりとミルコ達を見る。
「・・・言わないでくださいね。
パメラ・コーエンです。」
「あの子が?キタミザト殿が名指しして雇用した子だし、確か魔力量が2500を超えている逸材だろう?
何が問題なんだ?」
ラックが聞いてくる。
「魔法師専門学院の成績上で言うと彼女は成績下位5名の内の1人です。
そんな者を王都守備隊と同格の組織が拾った事が人事局と軍務局で話題になりましてね。
キタミザト殿はパメラの魔力量に惹かれて引き抜いたという事実は無視し、下位の者でも上部組織に引き抜かれるという事のみで入学時の魔力量の引き下げ案を出してきました。」
「おいおい・・・平気か?」
ラックが心配そうに言ってくる。
「初期の魔力量が低くとも大成する者が居るのは確かなのですけどね。
学院長として言うなら賭けとしか言えません。
どうして魔力量を規定しているのかという所が抜けた議論をさせられましたよ。」
トレーシーがヤレヤレと腕を上げる。
「いくつがいくつになったんだ?」
「皆さんも知っての通り13歳の年の1月時点で測定するんですけど。
現在は魔力量はだいたい50あって各軍務局からの推薦状があれば入れているんだけど。
50から40に引き下げられた。まぁ何とか40で収めて貰ったよ。」
トレーシーが苦笑する。
その姿に皆が「もっと下げようとしたのか」と難しい顔をさせる。
「事実、魔力量が50近い者は卒業時も成績下位にいるのがほとんどなんですよ。
中間以上になれる割合は・・・20%あるかないかでしょうか。
魔力量も教育すればちゃんと増えますから魔法師としても使えると言えますけど。
トップクラスは相当の素質がないと難しいですね・・・生徒の心持としては果たしてそれはどうなんでしょうかね。」
トレーシーが教育者の立場から難しい顔をさせる。
「ふぅ・・・だが、王城として決まった事なのだな?」
マイヤーが厳しい顔をさせながら聞く。
「ええ。決まった事で今年から実施されます。
なので今は受け入れの寮を大急ぎで用意しています。
たぶん魔力量が10下がっただけでも1.3倍は入学者が増えそうですからね。
さらに講師陣も増やしますので・・・第1と第2騎士団のベテランさんを回して貰うようにお願いして、早々に教師陣の教育を始めないといけません。
もう大変ですよ。後任に任せようかと思っていたのに・・・駆り出されています。」
「トレーシーも大変だな。」
「アンダーセン、もっと労わってくれないかな?」
アンダーセンの言葉にトレーシーが苦笑する。
「少し飲むか?
この面子なら2杯くらいなら平気だ。」
「マイヤー殿、すみません。
少し愚痴っぽくなりますが。」
「構わんさ。
魔法師専門学院では愚痴は言えんだろうし、言われる立場だからな。」
マイヤー達幹部はトレーシーと雑談にふけるのだった。
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