第711話 75日目 エルヴィス家の夕食後のマッタリ時間。(夕霧達の役目。)
エルヴィス家の客間にて若者たちが居なくなって寂しいはずなのだが。
「ん~・・・」
「伯爵、早く。」
「夕霧、もう少し考えさせれてくれぬかの?」
エルヴィス爺さんと夕霧が将棋を指している。
「フレデリック、強いっスね!」
「それほどでもありませんよ。」
「シグレが弱いだけ。」
時雨とフレデリックがリバーシをしていて初雪がそれを眺めていた。
なんでこんな事になっているかというと・・・時雨が彩雲と接触した時にエルヴィス爺さんに報告と相談に3人で来たのだが、相談後に暇を持て余していたエルヴィス爺さんと将棋とリバーシをしたのが始まりだった。
それから3人は毎日夕飯後の時間帯に遊びに来ていた。
「んー・・・これでどうじゃ?」
「じゃあ私はここに。」
「んんー・・・」
エルヴィス爺さんが考えながら1手を指すと間を置かずに夕霧が指して再びエルヴィス爺さんが悩むという展開が先ほどから繰り広げられている。
「ハツユキ、そろそろあの鳥がタケオに会ったっスかね?」
「会ったと思う。
けど、タケオがどう判断するかわからない。」
「タケオ様なら無下にはしないと思いますが。
時雨様はどう思っておいでですか?」
「わかんないっス。
タケオはあたし達に『無理はするな』と言ったっス。
なのであたしもすぐに逃げれるようにしてから会ったっスが・・・南の鳥はすんなりとこっちの考えを聞き入れたっス。
タケオは優しいから大丈夫だとは思うっスが・・・」
「フレデリック、人間はタケオみたいなの、多い?」
「初雪様、タケオ様のように他種族に寛容な方は珍しいと言わざるを得ません。」
「そう。」
「ええ。かく言う私もタケオ様が事前に皆様とお話をしており、『3名は信用が置ける』という報告があって初めてお会いする勇気が持てたのは否めません。
ほとんどの人間は他種族や自分達と違う生活をしてる者に対し慎重であると思います。」
「「慎重?」」
時雨と初雪が同時に言う。
「はい。
基本的に人間は他者が怖い生き物です。
害意を向けられたり、生態がわかっていない者が居たならなおの事怖がる生き物です。
ですが、簡単に言うと信頼する者が勧めるとそれを信じてしまうという生き物でもあります。」
「???」
初雪が首を傾げる。
「それは変っスね。
その者は怖いのに信頼を置ける者から言われると信用するっスか?」
「ええ。そこが人間の不思議な所でしょう。
確かに信頼を置いている者からの推薦があったからと言って無条件ですぐに信用を置くという安易な行動をしている訳はありませんが、皆様の場合はタケオ様と何度もやり取りをし、問題なく樽の件を進めておいでですし、タケオ様が依頼している周囲の調査もこなされている。
仕事への姿勢も私が皆様を信頼する理由でもあります。
また夕霧様がこの屋敷で何事もなく過ごしておいでという事も良い方向に捉えております。」
フレデリックが説明する。
「ん、人間は複雑ですね。
だからこそ私達が学ぶべきことが多いのです。」
夕霧が将棋盤を見ながら言う。
「人間は見ていて飽きないっス。」
「そうね。」
時雨も初雪も頷く。
「うむ。じゃがわしらがこんなんだからと言って夕霧達がどんな人間でも接触して良いかというとそういう訳ではないの。
ここでどうじゃ?」
「私はここに。
それはわかっています。
私も数百年と人間や魔物を見ています。
少し遠出もして山の方に行った事もありますが・・・首輪をされた者達も見ました。
強欲であり自分達が一番と考える者も居るのは知っています。
そして慈愛に生き他者の為に尽くす者も居るのも知っています。
それはシグレやハツユキにも教えています。」
「そうか・・・奴隷を見たのか・・・
わしらは基本的に奴隷制はしておらぬし、する気もないから安心するのじゃ。」
「タケオの下に首輪をした者が居ましたが?
目があの時の者達と違って活き活きとしているので不思議ではありますが。」
「あれは・・・特例としているの。
あの首輪はヴィクターもジーナも受け入れておる。
タケオは25年契約で解放する旨を言っているし、契約書は大事に保管されておる。
タケオは奴隷が欲しいのでなくての、良い部下が欲しいのじゃ。
ヴィクターとジーナはたまたま出会いが奴隷の売買だっただけなのじゃよ。
そして首輪で自分の意思で魔王国側に越境する事を禁止する為に付けているだけじゃの。
じゃが今となってはヴィクターもジーナも執事として25年働く気でいてくれるからの。
首輪を外しても良いかもしれぬが・・・それはタケオ達が戻って来てからの話じゃの。」
「ん、それはわかった。
どちらにしてもスライムは安住の地を手に入れた。
多くのエルダームーンスライム達がここを目指すかもしれない。」
「ふむ・・・
今の広さは夕霧達3人と100体のスライム用じゃの。
鳥の姿のエルダームーンスライムはどうするのじゃ?」
「タケオの見解を待ちます。でもエルダームーンスライムは1か所に集めたいです。
そうすれば情報の共有が簡単です。
これからはいろいろな情報を皆で共有しないといけないから。」
「そうじゃの。
とりあえず調べるだけ調べておく必要はあるかもしれないの。
ゆくゆくは組織化しないといけないかもしれぬが。」
「組織化?」
「うむ。
例えば夕霧、時雨、初雪を最終決定の組織上の頂点に置き、その下に樽係、各森の維持係、他種族の監視係といった風にやる事を分けて配置させると割と動きやすいのじゃ。
今は夕霧達だけで行える範囲じゃが、これが領内全域となると全ての報告を聞くのに1日はかかるかもしれぬ。
なら夕霧達はある程度指示を出すだけで後は結果のみ知れば良い事じゃと思うがの。」
「・・・わからない。」
夕霧が首を傾げる。
「まぁ組織の事も今はまだ考えなくて良いじゃろう。
今後、エルダームーンスライムが多くなるかもわからないしの。
それに基本的には森の維持管理をしてくれて森に入って来た他種族を報告してくれるだけでありがたいからの。
無理をさせるつもりはないの。」
「ん、そこまで複雑なことではないです。
やる事も簡単、アサギリ達に指示を出すだけ。
何かあればすぐに来て様子がわかるようにしています。」
「うむ、そうじゃの。
じゃが、夕霧達も本当に無理はしてはならぬぞ?
お主達の代わりはいないからの。」
「伯爵もタケオと同じことを言うのですね。
それについてはわかっています。
私達は前面には出ないし、まずはスライム達が見て来てくれる。
脅威があれば伯爵に相談するし勝手に接触はしない。」
「すまんがそれでお願いする。」
「わかりました。
はい、王手。これでおしまいです。」
「なぬ!?」
「次はフレデリックと?」
夕霧がフレデリックを見上げる。
「はい。
主、場所を代わりましょう。」
「う・・・うむ。」
エルヴィス爺さんが席をフレデリックに譲る。
「伯爵、こっちでリバーシやるっス!」
「うむうむ。
こちらなら負けんぞ。」
「へへ~ん。伯爵になら負ける気ないっスからね!」
「シグレ、そう言って、昨日も負けた。」
「あ・・・あれは昨日は本気じゃなかったっス。
今日は本気っス!」
「うむ、期待大じゃの。」
エルヴィス爺さんが朗らかに頷く。
今日も夕食後のエルヴィス邸の客間はまったりとしているのだった。
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