第710話 中間地点。3(信用と信頼。)
今はボールド達の入浴時間です。
「・・・タケオ様、私、聞いていません。」
アリスが武雄に不満顔を向けていた。
「そうですね、彩雲の事は言っていませんから知っていたら怖いですね。
と、動かないでください。乾かし辛いです。」
武雄は気にせずにアリスの髪を乾かしながら話す。
「あ・・・すみません。
いや!そうじゃなくて!
うちの街の周囲にもう1体のエルダームーンスライムが居ることをなんで言わないのですか!?」
「私が時雨から言われたのは『エルダームーンスライムらしき物』が居るから接触して良いかという事であの時点では何者が居るかは不明でした。
万が一の際は即撤収を指示していましたし、私に取っては南側のエルダームーンスライムよりも夕霧、時雨、初雪の生存が最優先です。
どうなるかもわからない事を報告はしません。
それに挨拶に来るなんて知りもしませんし、この話は戻ってからだと思っていました。」
「むぅ・・・」
アリスが何も言えずに脹れている。
「タケオさん、スライムを束ねる気?」
一足先に武雄に髪を乾かして貰ったジェシーが湯あみ後のお茶を飲みながら言ってくる。
「束ねる・・・それも良いかもしれませんね。
夕霧達を見ているとその能力の高さがわかります。」
「そうね。
タケオさんに説明して貰ったけど、擬態が出来るというのは大きいわね。
さっきの・・・彩雲?だったかしら。擬態で鳥の状態を維持してここまで飛んで来れて、私達と話せるのは十分に価値があるわ。
でも今まで誰もそれをした事ないわね。
まぁそもそもスライムに上位種がいるなんて知らないわよ。」
「エルヴィスさん達もスライムの上位種であるエルダースライム、最上位種のエルダームーンスライムについて知らなかったと言っていましたね。」
「街の拡張計画では魔物は調べるけどスライムは調べないし。
スライムの生態も良くわかっていない事の方が多いかな?
脅威がないから知る必要もないといった感じでもあるのだけど。」
「所長、王都守備隊もその辺は知らないんですけど・・・
これからは知った方が良いのですか?」
ブルックが武雄を真似してアニータの髪を乾かしながら言ってくる。
「ん~・・・どうでしょう?
私はたまたま夕霧と知り合いになったからいろいろさせていますが、そもそもどの魔物が使えるかはわかりません。
スライムは能力が高いのは確かです。そして今まで誰もしていないようなので先んじて組織化して自分たちの陣営に組み込みたいと思っただけですよ。
他にどんな魔物がいてどんな能力があり、何に活用できるかは見てみないとわかりませんね。」
「タケオさんは運が良いのと発想力と行動力が高いからなぁ・・・」
ジェシーがため息をつく。
「まぁ、闇雲にどんな魔物でも受け入れるわけではないですよ。
たまたま無害で能力が高く、人間と共存を望む魔物に会えただけです。
そして私達はスライムの生息地を保護する代わりにスライムには地域の調査等をして貰う。
お互いにしたい事が一致した関係ですね。」
「スライムと関係を築くなんて普通は考えないだろうけど・・・
スライムからはかなり確度の高い情報が流れてくるんでしょう?」
「確度が高いかどうかは聞き手側と情報をもたらす側との信用関係に寄りますよ。
それは相手がスライムだろうが、人間だろうが種族は関係ありませんね。
どんな情報でも信用がなければ噂話の域を出ません。
それこそ最初のスライムの話をエルヴィスさんにしてすぐに許可が出たのはエルヴィスさんが私を信用してくれているからでしょう。」
「まぁ、そうね。
はぁ・・・うちもエルダームーンスライムを保護してみたいけど、そもそも会えなそうだしなぁ・・・」
ジェシーが首を傾げながら難しい顔をさせる。
「夕霧達はあげませんからね?」
武雄が顔も向けずに言う。
「・・・お気に入り?」
「エルダームーンスライム自体が希少ですが、さらにその中で人型なのです。
もしかしたら二度と会えないかもしれない希少中の希少でしょう。
それにあの3人は人間と共存を望んだ。性格も温和、融通も利くしこちらの指示には従ってくれる。
もちろんこちらからも対価は払いますけどそれ以上の物を提供してくれています。
そして私達に友好的な魔物なので手放す理由はないですし、大切に付き合っていきたい物です。
ただ・・・話に聞くテンプル領と魔王国の間の森のスライムではこうは行かなかったかもしれないのは確かです。」
「そうね。
私も話だけだけど、あそこは余所者を排除するらしいからね。
・・・タケオさん、襲うと思う?」
「さて・・・ですが、普通に考えると人間が一番の栄養源と言うのはほぼ確定かと思います。」
「タケオ様、その理由は何ですか?」
アリスが聞いてくる。
「人間ほど雑食なのは居ませんよ。
肉も野菜も魚も穀物も食べるのです。
栄養という観点のみで言えばほぼ全ての栄養素を持っていると考えるのが普通です。」
「そう言われるとそうですね。
ならスライムは人間を捕食すると?」
「自身の体の弱さがある為、普段は仕掛けはしないでしょうが・・・特定の条件でなら捕食に動いても不思議はないでしょう。」
「・・・特定の条件・・・森の不作かしら?」
「それも1つ。私が考える最悪な条件は『余計な知識を手にいれたら』だと思います。
森の中の栄養より遥かに栄養価が高くそして量もあるのが近くにあり、罠等の知識を手に入れたりしたら仕掛けて来ても不思議はないでしょう。」
「タケオ様、夕霧ちゃん達は平気でしょうか。」
「平気ではないですか?
仕事をこなせれば栄養価の高い報酬が貰えるという割と楽な条件が提示されています。
それに私達がスライムに戦闘をさせる気がないのも知っているので種族の安定的な生活は手に入れています。
あの3人は今初めて外と関わりを持ち、いろいろな情報に触れています。
夕霧のあの積極性・・・夕霧は数百年生きたスライムです。
知識を得るのが楽しいのでしょうね。
なので当分はこっち側ですよ。」
「当分・・・数年ですか?」
「数年で人間社会がわかるのですかね?
まぁそもそも私達の数年は夕霧達からしたら数日感覚なのかもしれませんが。
楽しんでくれているならそれはそれで好ましい事でしょう。
それにその時になったらその時に考えれば良いのですよ。
今から不安だけを並べるのは意味がありません。
そんな事をしていたら外も歩けませんよ。」
武雄が苦笑する。
「要はどんな種族であろうとも信用と信頼の構築が必要という事ね。
・・・基本だわ。」
ジェシーがヤレヤレと手を挙げて言う。
「ええ、基本です。
ですが、だからこそ難しいのですよ。」
「まぁね~・・・政略という言葉があるのも確かだし。
裏の事まで考えて信頼を作るのは大変よね。
タケオさんも裏があるのかしら?」
「当然ありますよ。
ですが・・・今の所裏を考えての行動はしていませんね。
私は優雅に田舎暮らしを目指しているのです。
ある程度コネが出来たら維持する以外は考えていませんよ。
裏も考えて行動すると疲れますし。」
「豪胆ね。
でも自分がしたいようにして意見が同じような者が集まって来るならそれはそれで良いのかもね。
余計な詮索をしてもタケオさんの言う通り疲れるだけだろうし。」
「基本的に所属している国の方針に沿っていればあまり苦労はないかと思いますけどね。
自分の都合の良いように国を動かしたいと思うから面倒なのです。
国の方針に沿うように自分のしたい事をすれば割と楽ですよ。」
「それは国の方針とやりたい事が全く同じ者の言い分ね。
だけど世の中そうじゃない事が多いのも事実よ。」
「ええ。だからこそある程度のコネが必要なのでしょう?」
「そうよ。
私としたらその一端がボールドでありレイラなんだけど・・・
上手く行くかなぁ?」
「必要なら向こうから来ますよ。
こっちのやりたい事を声高々と言っても良からぬ考えの者しか近寄ってこないと思いますけどね。」
「・・・政争は難しいわね。」
「私的には結局の所『なるようにしかならない』と思っています。」
「ある意味正しいかもね~。」
ジェシーが空を見上げるのだった。
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