第687話 魔王国の新年会。2(米はどこから流そうか。対アズパール王国との戦争指示。)
「さてと、アズパール王国への対応はそんな物だろう。
と、そうだ、侍女から聞いたのだがな。
ブリアーニ殿、ブリーニ、2人に聞きたい事がある。」
ヴァレーリが「そう言えば」という感じで切り出す。
「はい。ヴァレーリ殿、何でしょうか。」
「はっ!」
ちなみにだが、ヴァレーリは性別的には女性だが女王と呼ばれていない。
魔王国は最強の者が王となる。そこに性別、種別に関係ないのだから常に『王』と呼べと言われており皆が「何だかおかしいけどそれも良いのかな?」と従っていた。
何処かの段階で誰かが変えるかもしれないがヴァレーリはする気がなかったし、女王と呼ばれる気もない。
「ふむ。
エルフは米という穀物を作っているのか?」
「え?・・・ヴァレーリ殿は米を知っているのですか?」
ブリアーニと呼ばれたエルフの女性が少し驚きながら聞き返してくる。
「この酒・・・ウォルトウィスキーを入手する時にな。
何でもアズパール王国エルヴィス領の者が米を入手したくて問い合わせをしてきたとの事でうちの侍女が相談にのったのだが、我もだが侍女も米を知らなくてな・・・後程その店に入手の可能性の有無を報告する事になっている。
ブリアーニ殿それは輸出が出来る物か?」
「はい、ヴァレーリ殿、それは可能です。
確かに地理的に考えればヴァレーリ国王の部下の方の所よりもうちからの方がアズパール王国に近いでしょうか。」
「陛下、我が領地からも米は採れます。
他国へ依頼をするのも手続きが大変かと思われます。
我が領地より輸出をされた方がよろしいのではないのですか。」
「ふむ・・・
それにしても米は抵抗なく輸出出来るのになんで流通されてないのだ?」
ヴァレーリがどちらから送るのかは決めずに質問をしてくる。
「・・・ヴァレーリ殿。
米ですが、他の穀物と一緒に煮てしまうと溶けてしまって煮汁がトロトロになってしまいます。
単体で煮ればそれなりに食べられますが・・・
それに小麦のように挽いて粉状にしてもパンには出来ないのです。
挽いた粉に水を加えて団子には出来ますが・・・パンに比べて食べられていません。
お恥ずかしい話、伝統的に栽培をしていて式典や緊急時の食用と見なしています。」
「陛下、我が領地でも同じ感じです。
小麦のパンに比べてしまうとどうしても・・・米粉と小麦粉の食べれられている割合としては1:9でしょうか。」
「そうか・・・米と言う穀物はそれほど食べられていないのか・・・
商店の者の話では籾状態で250㎏を欲しているそうだが・・・難しいか?」
「ヴァレーリ殿、ぜひ我が国から米を輸出させて頂けないでしょうか。
250㎏であれば現状で問題なく輸出出来ます。
何卒、我が国から!」
「いえ、陛下、我が領地から!」
ブリアーニもブリーニも実は「外貨獲得のチャンス!」と思っている。
領内運営自体はこれといって不備はないが、やはり外貨の獲得手段は確保しておきたいという考えもあった。
それに売るのは不人気の穀物。これほど楽な取引はない条件だ。
「ん~・・・?」
ヴァレーリが腕を組んで悩む「これは在庫を処分できるから必死なのか?」と考える。
「ふむ。
わかった。ブリアーニ殿、卸し先を紹介しよう。
あとでタローマティに教えさせよう。
それとブリーニ、今回はブリアーニ国を優先するが、次に輸出拡大の要請が来たら頼むぞ。」
「はい!ありがとうございます。」
「はっ!陛下。」
「だが・・・向こうも試験的な輸入だろうからなぁ。
価格はそれなりにしないと今後が続かないと思うのだが・・・
まぁ侍女も向こうの買値は聞いていないな。
それは実務者同士で話し合って貰わないといけないだろう。」
「はい。我が国としては魔王国と同じようにアズパール王国は敵国ではありますが、出来るだけこの後も卸して貰えるように価格は頑張りましょう。
それに隣のテンプル領でなく、遠いエルヴィス領というのも良いですね。
あの地の伯爵は元辺境伯でしたでしょうか。
隣接している領主にも影響力はあるでしょう。
我が国の防衛に関して押さえておきたいとも思います。」
「ふむ、それは我が国もそうだがな。
いかせんファロンが領主として新人だからな。
こちらからは10年間仕掛ける事はないだろうが、その間に向こうから仕掛けられると少し厄介だな。
かと言ってファロンの方の守備を上げ、その意図を悟られるのもマズいか・・・
・・・パーニ。」
「はっ!」
パーニと呼ばれた獣人が返事をする。
「パーニ、アズパール王国といつもの戦争を行え。」
「はっ!」
「ただし、パーニ、お前もわかるだろうが我らは領地は欲していない。
現状の国境線を10年保持する為に相手の戦力を減らして置け。
配下にファロンと・・・ベッリ、お前のとこのリッチ部隊は行けるか?」
「はい、陛下・・・口減らしですね?」
「すまんが出張ってくれ。
時期は・・・選定中の8月半ばから9月までとするか。
それとあまりやり過ぎて向こうの幹部は殺るなよ?
交渉事が出来なくなる。」
「了解しました。」
エルダーリッチが頷く。
「パーニはどうだ?出来そうか?」
「お任せください。
口減らし程度なら我らの被害も少ないでしょう。
それにファロン殿やベッリ殿が加勢してくれるなら敗北はありません。」
パーニが恭しく答える。
「敗北・・・か。
最悪は我が方が壊滅する事だ。
それに口減らしは指示するがな・・・難しい様なら数は関係ないぞ。
仕掛けるだけでも効果はあるだろう。
この程度の事でこちらに被害があるのも馬鹿らしいからな。
では。パーニを総大将とし、ベッリとファロンを指揮して8月に向け準備を進めろ。」
「「「はっ!」」」
「それとだが・・・ブリアーニ殿、蟲の件はまだ持ちそうか?」
「まぁ・・・今はまだ追い払う事は出来ていますが・・・
将来的には難しくなると考えられます。」
「そうか・・・フレッディ。」
「はい、陛下。何でしょうか。」
「お前の第1軍から数小隊を選出し、ある程度退治して来い。
ブリアーニ殿、すまないが今はそれでお願いする。
今はその程度の事しか対応はしてやれん。」
「ヴァレーリ殿、ご助力頂けるだけでも有難く・・・感謝いたします。」
ブリアーニが深々と頭を下げる。
「はぁ、楽しい食事会のはずが政策の話ばかりだ・・・
皆、何か面白い話はないか?」
「そうですなぁ・・・そう言えば最近作った剣の仕様で面白い物が出来ましたぞ。」
「ほぉ、説明できるか?」
「当然です。」
ドワーフのボナが話題を変え始めるのだった。
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