第682話 武雄と魔法師商店の今後の話。3(鈴音への宿題。チャックとベアリングとミシン。)
アーキン達は一足先に店を後にしていた。
店内に残っているのは武雄と鈴音とテイラーとチビッ子達だ。
「さてと、一通り終わりましたかね。」
「あ、そうだ。
武雄さん、ベインズさんからスコープの試作品を預かってきました。
『同じ物が出来たはずです』と。試験して感想を教えてくださいとも言っていました。」
「そうですか。
何個預かってきましたか?」
「えーっと・・・2個作ったそうで両方預かってきました。
少し覗いた感じだと平気そうです。」
「ふむ。
じゃあテイラー店長に預けている小銃改3と私の方にある予備の小銃改1を持ってきますから付けてください。」
「わかりました。
テイラーさんと付けます。」
鈴音が頷く。
「そう言えば鈴音はヴァイオリンを弾いていましたが、あれは持ってきた物ですか?」
「武雄さん、覚えていたのですか・・・
はい、あれはこっちに来たときに持ってきた物です。」
「弦とか弾く棒みたいなのはどうしたのですか?
5年も保つとは考え辛いですが。」
「ウィリプ連合国から仕入れていました。
あの国はヴァイオリンと似た弦楽器があるようなんです。
なのでそこから弦とか消耗品を買っていました。」
「ふむ。
それは王都に行った時に探してみますが、最悪は自分達で作らないといけないですかね。
鈴音、ウィリプ連合国側の問屋さんか販売店の手掛かりはありますか?」
「確か・・・箱か何かに名前が書いてあったかと。
後で調べます。」
「テイラー店長、鈴音から店の場所や名前がわかるものが来たら王都の小銃を扱っていた問屋のおじさんに捜索依頼をしておいてください。
私も王都に着いたら顔を出しておきます。」
「あ、わかりました。」
テイラーが頷く。
「あとは・・・鈴音、私が王都に行っている間に考えておいて欲しい物があります。」
「・・・武雄さん、何を作るんですか?」
「これです。」
武雄はポケットから何やら取り出す。
「?」
「あ・・・」
テイラーはわからないようだが鈴音は「なるほど」とうんうん頷く。
「チャックを作りましょう。」
「確かに、これがあれば便利ですね。
ですが・・・出来ますか?」
「ん~・・・技研に入らない人達で1つの工房を立ち上げますが、彼らの定期収入を作らないといけないでしょう?
なのでこれなら競合はいなさそうですから作ろうかと思ったのですが・・・まぁダメ元ですね。」
「なるほど。
でも試してみる価値はあるのでしょうね。」
鈴音が考えながら頷く。
「あと、簡単で良いのでベアリングも欲しいですね。」
「「ベアリング?」」
「ええ。駆動している物の大半は摩擦との闘いなのですが、ベアリングは駆動軸と本体との間に設置して摩擦抵抗を低くする働きがあります
・・・まぁ簡単に書いてみましょうか。」
「「お願いします。」」
武雄はその場に有った紙にベアリングの概要を書き始めるのだった。
・・
・
「なるほど・・・馬車とかに使えそうですね。
でも似た機構を使っているかもしれません。」
テイラーが考えながら言ってくる。
「それならそれでも構いませんよ。
ただし、このベアリングは考え方としては簡単ですが、かなり重要な役目がありますから精度を高くしないといけません。
例えばこの周りに配置してある球体の大きさにばらつきがあれば大きい球体にのみ負荷がかかって磨耗で鉄粉がでますし、ベアリング全体の消耗が早いと思います。」
「ん~・・・キタミザト様、球体でないといけませんか?
この国の工房で球体の精度を均一にするのは厳しいですね。」
「そうですか・・・
球体でなく円筒形でも良いかもしれませんね。
円筒形なら何とか均一な物は出来そうですか?」
「球体よりかは難度は低いかと。
試作するとして・・・粘土で試作しても良いでしょうか?」
「・・・セラミック?」
武雄がボソッと呟く。
「え?なんですか?」
テイラーが聞き返してくる。
「いえ・・・んー・・・陶器ですか。
陶器のベアリング・・・んー・・・・」
武雄が悩む。
確かベアリングでセラミック製はあったと思うけど車に採用されているかわからなかった。
武雄的には鉄だろうがセラミックだろうがどちらでも良いのだが、今後の使用方法を考えるとどうなのだろうとは思う。
「まぁ試作で作るのに鉄を弄るよりかは楽そうですね。」
「はい。
まずはキタミザト様が書いたこのベアリングを忠実に粘土で再現してみようかと。
その後に鉄製の物に挑戦しようかと思います。」
テイラーがやる気を見せて来る。
「まぁ、とりあえず作ってみてください。
上手く行けばその作り方を先の工房に教えて普及させても良いでしょうね。」
「「はい。」」
テイラーと鈴音が頷くのだった。
「あとですね。」
「武雄さん、まだあるのですか?」
鈴音が苦笑をしてくる。
「最後ですよ。
鈴音、この世界にミシンはあると思いますか?」
「ありませんね・・・少なくともカトランダ帝国では見たことはありませんでした。
武雄さん、最後はミシンですか?」
「ええ。
私の祖母の実家に足踏みミシンというのがあったのです。
つま先の上下の動きを棒を使って隣に置いた大滑車の中心から少しズラした位置に付けます。」
武雄がまた書きながら説明する。
「そして上下する事でこの滑車を回せて・・・上にあるミシンを主軸を回す仕組みです。」
「「ほぉ。」」
鈴音とテイラーが感嘆の声を上げる。
「そしてミシンの主軸と針が連動し、針が上下に動きます。
そしてこの上下運動に合わせてこう・・・布を奥に送る機構なんですけどね・・・」
武雄がそこで言葉を止め難しい顔をさせる。
「ん?武雄さん、十分にミシンになっています。
まぁ出来るかはわかりませんが、動きはその通りですよね。」
「ええ、そうですね。
私でも説明できるくらいの簡単な機構です。
・・・鈴音、針の先端に付ける糸はわかりますが・・・それをどうやって裏で固定しているか。
そこが私ではわかりません。
確かミシンは針の先端に付ける糸がありますが・・・裏側に糸を止める方法を考えないといけません。」
「んー・・・んー・・・
あれ?でもミシンって下糸という針の下側にも糸を入れていましたよね?」
「下糸・・・確かに家庭科の授業でしたような・・・小さい丸いのでしたよね。」
「はい。
あれをどうにかして針の先端の糸に絡めているのだと思います。」
「ふむ・・・
鈴音、とりあえずエンジンよりもミシンの事を第1に研究してください。」
「え?良いのですか?」
「ええ。足踏みミシンを思いついた時に思ったのですが、この機構はエンジンにも使えそうです。
足踏みの所を魔法で補えば駆動部が回せますからね。
それにミシンを作り出せばラルフ店長達に売れるかもしれません。
まずは開発資金を入手する為にミシンを考えましょう。そしてそれを応用して船用のエンジンを考えましょう。」
「わかりました。
あ、ラルフ店長にアドバイスを貰っても良いですか?」
「ええ、構いません。
なので私が留守の間、チャックとベアリング、そしてミシンの素案を考えてください。」
「わかりました。
・・・んー・・・もしかするとミシンを作る事によってチャックも出来るかもしれませんね。
いや、それよりも部品が大量生産が出来る体制が・・・あ!そうか・・・そうなんだ。」
何やら鈴音がウンウン頷いている。
「あの~、僕だけ置いてけぼりなのですけど?」
テイラーが武雄と鈴音の会話に付いて行けずに苦笑している。
「鈴音、テイラー店長にはベアリングを作らせてください。
他は鈴音が考えてください。」
「はい、わかりました。」
鈴音の目つきがやる気に満ちるのだった。
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「「・・・」」
武雄達の様子を仁王とテトがボーっと見ている。
「主がまた変な事を言いだしていますね。」
ミアが両手で首を支えて机に肘をついて言ってくる。
「・・・ねぇ、ニオ。」
「なんだ?テト。」
「タケオはこの世界の加速には必要な人材ね。」
「我らに少ししか頼らないがな。」
「何でも頼る人だったらこういう行動力はないわよ。
自分で考えるから行動出来るのだしね。」
「違いない。
答えを教えて貰うより自ら考える方が好きなのだろう。
そして今回のミシンも大きな一歩だろうな。」
「ええ、そうね。
あとはどう使うか・・・まぁタケオとスズネを見ていると危険はなさそうね。」
「良い方向に行きそうだ。」
仁王とテトが頷き合うのだった。
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