第664話 試験だ!4(武雄の対アーキンの強襲作戦。)
ミアが開始線手前で先ほどの説明をし終わっていた。
アーキンはミアに頷くとその場に一旦止まりブルックの時のように精神を集中する。
アーキンは覚悟を決めて開始線を越えるのだった。
「・・・」
アーキンは周囲に気を配りながらゆっくりと歩いている。
「小道の入り口から遠目に見ていたが、ブルックはミア殿がホイッスルを鳴らしてすぐに襲われた。
キタミザト殿は同じ手は使わないだろう・・・だが・・・」
アーキンが更に周囲を見回すがそれらしき影は見当たらない。
「木の上、茂み、異常なし・・・」
ゆっくりと歩みを進める。
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「・・・あれは警戒し過ぎだよね~・・・
どうやったら良いのでしょうかね。」
武雄はアーキンの警戒体制を遠目に見ながら呟く。
「・・・何とか注意を反らさないといけないかぁ・・・」
武雄は紐を握るのだった。
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「・・・」
アーキンは順調に(?)中間地点を通過していた。
木と木を打ち付ける音が微かに鳴る。
「!」
アーキンは、即座に音がした方と小道を挟んでしない方に目配せをするが、周囲に変化は無いように感じる。
本来なら音の原因を調べに行くのが正しい行動だが、あくまで小道からの目視での発見が課題になっている。
「明らかに自然ではない音が聞こえたが・・・絶対にキタミザト殿だな・・・」
アーキンは注意を払いつつ歩き出そうとする。
と、また木と木を打ち付ける音が聞こえる。
「・・・」
アーキンは改めて周囲を警戒する。
しかし武雄を発見は出来ない。
アーキンは注意を払いつつ再び歩き出そうとする。
と、またまた木と木を打ち付ける音が聞こえる。
「・・・」
・・
・
何度目かになる木と木を打ち付ける音が聞こえる。
アーキンは先程の位置からほとんど動けずに焦っていた。
音が聞こえる度に周囲を警戒するが、襲ってくる気配がない。
だが、音がする以上確認しないわけにはいかない。
「これはまずいだろうな・・・無意識に焦れてきている。
それにしてもやはり目視だけというのは辛い。
普通なら班単位で行動し、音の発生源の確認役、周囲の警戒役に別れるべきか。」
アーキンが難しい顔をさせながら呟き、注意を払いつつ再度歩き出そうとする。
と、また木と木を打ち付ける音が聞こえる。
「・・・」
アーキンが厳しい顔つきで先程よりも身を屈めて茂みを覗いた瞬間に覗いた所から訓練場方向に6mくらい先の茂みから誰かが飛び出し襲ってくる。
「!」
アーキンは「このタイミングか!」と一瞬対応が遅れるが直ぐに体を武雄に向け迎撃体勢を取るが、初動が遅れた為、体勢を整えられた時には武雄が腕を伸ばしている時だった。
だが、そこは王都守備隊、難なく武雄の腕を取り突っ込んできた威力そのままに投げる。
綺麗に投げ始められたのだが、アーキンは途中で掴んでいた手を離したので言葉の如く投げ飛ばされる。
アーキンは武雄を投げ飛ばした後、直ぐに木剣を構えて追撃の構えを取る。
「終~了~!」
ミアが終わりを宣言する。
「・・・はぁ・・・降参です。」
武雄が小道に大の字になりながら答える。
「痛てて・・・はぁ・・・普通、上司を思いっきり投げますかね?」
武雄がケアをかけながら上半身を起こしぼやいてくる。
「普通の上司は茂みに隠れて襲ってきませんよ。」
アーキンがため息交じりに答え武雄に手を貸す。
「・・・それもそうですね。」
武雄はアーキンの言葉に納得しながらアーキンの手を借りて立ち上がる。
「さてと・・・一旦訓練場に行きますか。」
「わかりました。」
「はい、主。」
武雄とアーキンとミアは訓練場に歩いて行く。
・・
・
「ふむ、4戦全勝かの。」
エルヴィス爺さんが座りながら武雄に言う。
ちなみに皆は各々机を囲みお茶を片手に観戦している。
仕立て屋達は「上手くいってくれ~」と心から祈り、他の面々は「あぁ・・・キタミザト様の掌だよ。」と眺めていたりする。
エルヴィス家の面々は成り行きを見守っているだけだった。
「・・・そうですね。
当初の目的の通りです。」
武雄がエルヴィズ爺さんの前に立ちながら頷く。
「タケオ様、座っているタケオ様も発見できず、近寄っても発見できず・・・次も発見できないのでは?」
「「うぐっ・・・」」
スミスの言葉にアーキンとブルックが軽く落ち込む。
「ふむ・・・フレデリック、最後は何であったかの?」
「はい、小道横を移動しているタケオ様を小道から発見するという事なのですが・・・
何だか結果がわかりそうですね。
タケオ様、他に何か出来そうですか?」
「・・・他にですか?・・・ないですね。」
武雄が一瞬考えるが直ぐに嫌そうな顔をさせて答える。
「なら武雄さんが移動している最中に周囲に魔法で攻撃を仕掛けて作業服の耐久性を見れば良いのではないですか?」
鈴音が恐ろしい事を提案する。
「・・・鈴音・・・何という事を・・・」
「だって・・・小道の横を見つからずに移動するってほふく前進をする事ぐらいしか思いつかないのですけど。
それに何かの番組で針金を地上から50㎝くらいの所に這わせて下をほふく前進する訓練映像を見たことがありますよ。
あれなら音を低く抑えられたらいけそうじゃないですか。」
「・・・確かに次はほふく前進をして進んでいく気ではいましたが・・・」
武雄は「この後用の下準備はまさに音を出さないように小道横を改造してあるんですけどね」と行動を読まれた事にため息をつく。
「ふむ。タケオ、そのほふく前進とはなんじゃ?」
「こうやろうと思っていました・・・」
武雄はその場で腹ばいになり自衛隊で言う所の第四ほふくの姿勢を取る。
「で・・・これで移動します。」
武雄がゆっくりと蹴り上げながら前へ進む。
「・・・タケオ様、なんだか情けない恰好ですけど。」
「自分の生命がかかっているのに情けないも何もないですよ。
それに見つからない事を重視するなら低い姿勢をするのは当たり前です。」
アリスの言葉に武雄が立ちながら答える。
「ふむ。
タケオ、スズネの言う『移動している最中の周囲への魔法での攻撃』は作業服の試験として出来るかの?」
「・・・個人の感想として嫌だという事は置いとくとして、客観的に考えてみると。
私に当てない事を条件に出来るとは思います。
確かに戦争時に想定される先行偵察ではこのように身を屈め、発見されないようにする事が想定されます。
なら今のうちに這いつくばって移動する際の作業服の耐久性を見るのもありだとは思います。」
「ふむ。
ではそちらをしてみようかの。
タケオ、スズネ、段取りをしてくれるかの?」
「「わかりました。」」
武雄と鈴音が頷くのだった。
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