第660話 60日目 ヴィクターとジーナの夕餉。とファロン子爵とシモーナの話。
今日の総監部の研修を終えたヴィクターとジーナは出来合いの夕飯を買って帰宅していた。
「あぁぁぁ・・・・頭がパンパンです・・・」
ジーナが部屋のソファにダイブして深いため息をつく。
「こらこらジーナ、服が皺になるでしょう。
のんびりするなら着替えてからにしなさい。」
「・・・うぅ・・・はい。」
ジーナがのそのそとソファから起きて自室に向かう。
その後ろ姿をヴィクターは見ながらお湯を沸かし始める。
と、すぐにジーナが着替え終わり戻って来る。
「お父さま、着替え終わりました。
お茶の用意は私がします。」
「そうか。
では頼むな。」
ヴィクターが自室に戻っていく。
その後ろ姿を見ながらジーナは夕飯とお茶の用意をするのだった。
・・
・
「「ごちそうさまでした。」」
ヴィクター親子が今日も簡単な食事を終える。
「ふむ・・・主から離れて生活を始めると若干食事が物足りないな。」
「お父さま、それは言ってはいけないとお父さま自身が初日に言ったじゃないですか。」
ジーナがため息を付きながら言う。
「それは・・・そうだが。」
「はぁ・・・ご主人様が用意する旅の食事ですら今私達が食べているのより数段上でした。
ですが、これからは変わるのでしょう?」
「ふむ、それはそうあってほしいな。
実際に研修をいろいろ受けてはいるが・・・一番の期待は研究所の1階に出来る喫茶店はエルヴィス家の料理人で主が満足するであろう食事を提供し、文官達の福利厚生の一環にもするという所だな・・・
これなら私達も食べれるだろう。
確か研究所の本格的な始動が4月だったからそれまでは今の食事が続くのだな。」
「・・・ここにある食事も魔王国で食べていたのより野菜が多いくらいで十分美味しいですけどね。
プリンやかりんとうはまた食べたいですよね。
仕事終わりにその喫茶店で夕飯を買っていけば良いのでしょうかね?」
「そうだな、それも手だな。
それにこの間の団子も良いな。あれも売ってくれると良いな。」
「もちもちで甘くて最高でした♪
はぁ、ご主人様ならさらに派生したお菓子を作ってくれそうです。」
「うん、そうだな。
と、今日の復習をするか。」
「はい。
ノートは持ってきています。」
ヴィクター親子は日課になりつつある今日の復習を始めるのだった。
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「ブルーノ、邪魔するよ。」
当主の執務室の扉を開けてヴィクターの妹のシモーナが入ってくる。
「叔母さん・・・何しに来たんです?
一応、ここは当主の執務室なんですけど?」
ブルーノ・アルリーゴ・ファロン子爵が書いていたノートや書類を机にしまいながら言う。
「そんな事は知ってるよ。
それに何かい?何か如何わしい事でもしていたかい?」
「・・・」
ブルーノが目を細める。
「ふん・・・当主になったなら如何わしい事の1つや2つはしていて当たり前さね。
一族の為に頑張りな。」
「はぁ・・・で?何しに来られたのですか?」
「年始の挨拶で王都に行くからだね。」
「そうですか。
・・・良い取引はありそうですか?」
ブルーノが素っ気なく聞いてくる。
「・・・お前は嫌いだろうが、私はアズパール王国から物を仕入れて他領に売ったりまた逆にアズパール王国に売る輸出入業だけど。」
「別に嫌がってなどしていません。」
「お前は昔から人間嫌いだ。そんなのは皆が知ってるよ。
お前からすれば、人間の国から等価で物を仕入れるなんざ狂気の沙汰だろうね。
だが、覚えておきな。
私達は紙もペンも作る技術はない。
全て買わないといけないのだよ。その為には貨幣を稼がないといけない。
稼ぐ方法の1つがアズパール王国エルヴィス領との輸出入だよ。」
「それは・・・十分にわかっています。」
「わかっていれば良いんだけどね・・・」
シモーナが難しい顔をさせる。
「で、叔母さん、いつ出立を?
私も新年の招集で王都には行きますが、一緒に行きますか?」
「止めておくれよ。
子爵様と一緒なんて堅っ苦しいさね。
私は商隊と行って交渉をしたいんだよ。」
「そうですか。」
「そうさね・・・明後日には出ないと間に合わないね。
あ、でも先に行って交渉をしておきたいから一人で行くかね。」
「お好きにどうぞ。」
「ああ、気を付けていってくるさね。
で、ヴィクター兄さんの消息はわかったのかい?」
「・・・それは・・・まだですね。」
ブルーノが難しい顔をさせる。
「そうかい・・・幼いジーナも一緒に居なくなったのだろう?
はぁ・・・どこかで生きていてさえいてくれたら・・・」
シモーナが寂しそうな顔をさせる。
「そうですね。」
ブルーノが腕を組んで左手で口元を隠す。
一見、悩んでいるようにも見えるが口元が綻んでいるのを隠していた。
「特にジーナは魔眼の継承者ですし・・・最悪はジーナだけでも見つけてあげたいですね。」
「・・・そうさね。
折角、奥方の魔眼を綺麗に受け継いだのにね・・・」
シモーナがシミジミと言う。
「ええ。叔父さんの・・・いえ伯爵の自慢の娘でしたから・・・
いったいどこに居るのやら・・・」
「一応、領内はくまなく探したのかね?」
「ええ。
今は隣領に捜査を依頼しています。」
「そうかい・・・
まぁ今は居ない者の心配はしつつもお前が当主だ。
上手くこなしな。
私は行くよ。
もしかしたら王都で会えるかもしれないね。」
「そうですね。
ですが、私はたぶん王城に籠っているでしょう。」
「そうかい?じゃあ、会えないさね。
私は会合が終わったら買い付けをして帰って来るから当分は会えないね。」
「わかりました。
では叔母さん、行ってらっしゃい。」
「ブルーノも気を付けるんだよ。」
「ええ、心得ています。」
シモーナは頷いて当主の執務室を出て行くのだった。
・・
・
「ふん・・・叔母さん。
外からの物品を仕入て国内に売って生計を立てているの知っています。
ですけどね・・・なぜ買わないといけないのでしょう?
もっと違うやり方で多くの利益を取る方法があるでしょうに・・・」
ブルーノが窓の外を見ながら呟くのだった。
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