第610話 一旦帰宅し昼食と料理長との雑談。
冒険者組合で大袋を受け取り、各輸送を頼んでいた物を入れると全部入ってしまうという「便利過ぎる袋」を手に入れ、皆で雑談しながらエルヴィス邸に戻ってきていた。
帰って来たものの昼食の準備中とのことで客間でエルヴィス爺さんとアリス、スミス、フレデリックと歓談することにして客間に来たのだが。
「タケオ、何したのじゃ?」
帰宅の挨拶を交わし、席に着いた途端にエルヴィス爺さんが武雄に目を細めながら聞いてくる。
「・・・兵士長ですか?」
「うむ。
さっきスミスとフレデリックが出て行った後に報告が来たのだが、表現に微妙な棘があっての。」
「ええ、まぁ。」
武雄が苦笑しながら相づちを打つ。
「端的に説明して貰えるかの?」
「はい。
端的に言えば、作業服の試験場所を試験小隊の訓練場に拡張しました。
クゥの成獣の状態で木を薙ぎ払って貰っています。
ただ裏城門の兵士に一言言うのを忘れていました。
次回からは大きな事をする際は事前に言っておきます。」
「ふむ、まぁ良いじゃろうの。
それにしても北の裏城門の近くの森に研究所専用の広場を作ったのかの?」
「はい・・・えーっと・・・このぐらいなのですが。」
武雄がその辺にあるメモに広場の概要を書いていく。
・・
・
「随分と1日で大きくしたの。
フレデリック、どうかの?」
「よろしいのではないでしょうか。
どこかは定かではなかったですが、作らなくていけない物でしたし。
それに試験小隊の方々と話した際に第二研究所の試験小隊は街北側の裏城門前で訓練をすると確認はしております。
ですので、裏城門周辺の森の中であればさほど問題もないでしょう。
ですが、小銃の試験もされるのでしょうから主要街道ではないにしても街道沿いにありますので、その広場の周囲に弾丸を防ぐ壁の設置をお願いします。」
フレデリックが要請してくる。
「はい。
兵士長からは2mくらいの壁で囲むように言われていますが・・・もう少し高くしたいと思います。」
「どのくらいを想定されていますか?」
「手前は2m、最奥は20mでいけ」
「無理じゃの。」
エルヴィス爺さんが即答する。
「はい、現実的ではないとは思います。
ですので、周囲4mの壁と小銃の訓練場の奥行1250mの立入禁止処置をしようかと。」
「タケオ様、1250mという事は小銃改1の最大射程ですよね?」
スミスが聞いてくる。
「はい。
小銃改1は1200m程度の所で弾丸が破裂する仕様になっていますので、さらに50mの余裕を見て立入禁止の何かを出来れば良いかと考えています。」
「まだそこは決まっておらぬのじゃな?」
「はい。
とりあえず当面は紐とかで木々の間を渡らせて簡易的な立入禁止の対応をして、あとは試験小隊人員が揃ってから皆でやれば良いかとも思うのです。」
「うむ、それで良いじゃろう。
まぁその場所は研究所で維持してくれれば構わないの。
うちの魔法師小隊は武雄の研究所兼倉庫の準備をしておるはずじゃ。
フレデリック、どこまで行っておるかの?」
「確か・・・昨日あたりから既存の建物の解体が始まっているはずです。
まぁ1階建ての木造ですからそこまでかからないでしょう。
タケオ様、予定通り午後に整備局に行かれるのですよね?」
「はい。とりあえず、どんな間取りになっているのかを確認したら戻ってきます。
間取りについては気になる所は言ってきますが・・・たぶん専門家に任せるしかないでしょうね。
あとは帰りに雑貨屋に寄って木材を買ってきて書斎でリバーシを作りますかね。」
「「「リバーシ?」」」
エルヴィス爺さんとスミス、フレデリックが首を傾げる。
「陣取りの玩具ですよ。
ルールも簡単ですし。」
「それはすぐ出来るのかの?」
「たぶん・・・2、3日あれば出来るかと思いますが、とりあえず作ってみようかと。」
「うむ。
とりあえず、待っておれば良いのじゃな?」
「はい。」
武雄が頷くのだった。
と「皆さま、昼食の用意が出来ました。」
執事が客間に声をかけるのだった。
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武雄達は昼食の後の客間でティータイム中。
そんな中、料理長が武雄の所にやってきていた。
「タケオ、この後整備局に行くと聞いたんだが・・・」
「はい。料理長、どうしましたか?」
「いや、研究所の1階に喫茶店を作るという話をされていてな。
それ自体は面白そうなのでうちらも乗り気なのだが、厨房の所を見ておきたいと思ってな。」
「わかりました。
では料理長、一緒に行きましょう。
そう言えば私の出した案を聞いていますか?」
「ん?なんだ?」
「料理長の奥さんと娘のヒルダに皿洗いや配膳、片付け、会計等をする係をしてほしいと思いまして。」
「ふむ・・・それはあくまで接客係という事だな?」
「そうなりますね。
料理人はエルヴィス家から派遣されますのでその補助でしょうか。
それに今の所、日替わりメニューで提供する個数は毎日150食ですから。
それを2人で作るとしても配膳係が居ません。
私の知っている人で頼れるのは料理長のご家族ぐらいしかいなくてですね。」
「んー・・・」
料理長が悩む。
「難しいですか?」
「こればっかりは聞いてみないといけないな。
嫁の方は良いだろうが・・・ヒルダがな。
どうも料理人になりたがっているんだ。」
「良い事ではないですか。
あ、どこかに就職が決まったので?」
「いや。今の所、家でのんびりと料理を研究しているんだが・・・
んー・・・配膳かぁ・・・
タケオ、あの懐中時計の時間で考えると忙しい時間帯は・・・えーっと、6時課の鐘前後だから・・・
11時から14時の間と考えているんだが、どう思う?」
「確かに昼時と呼ばれるのはそのぐらいだと思いますね。」
料理長の言葉に武雄が頷き返す。
「タケオ、この喫茶店の営業時間は何時から何時を想定しているのだ?」
「10時から15時、17時から20時・・・いや。これだと長時間労働ですかね。
なら11時から14時半と17時から20時でしょうか。」
「仕込み等々を考えれば朝9時から20時までか。
確かに料理人が2名必要だな。」
「本当の最初の考えなら朝は軽食、昼は定食、夜は簡易酒場としたかったのですが・・・何だか難しそうだったので、昼の部と夜の部と考えたのですけど・・・
いや、逆に朝と昼だけでも良いのかもしれないですね。」
「一番稼げる夜をしないのか?」
「はい。あくまで朝と昼を提供すれば・・・上手くやれば夜よりも採算が取れるのではないでしょうか。
例えば朝は銅貨5枚で2種類のスープと2種類のパンとベーコン系の肉と卵、そしてサラダのみ用意をしておいて自分で取る形にして毎日同じ料理を出すようにすれば朝食の費用の固定化ができませんかね?
そうすれば朝の8時から16時までの勤務で働けそうですよね。
それに意外と朝から開いている店は少ないですよね?」
「ふむ・・・なるほどな。
確かに朝にまともに開いている店は少ないな。
皆が朝食を取っているその裏で厨房は昼食の準備をしておけるし、昼が終われば次の日の用意をして店じまいが出来るか。
あくまで料理人は昼に注力する事を考えれば・・・確かにそれは新しい形かもしれないな。」
「それにこの喫茶店はあくまで利益を求めている店ではなく、
食材費用や店の光熱費と料理人以外の人件費を賄えればやっていける店なのでそこまで利益を出すという事でもありませんし。」
「そうだな。
あくまで皆の福利厚生の一環とタケオ達の昼飯場所だしな。」
「ええ、まぁ、そうですね。
まぁ、どういった形態が良いのかは料理長達に任せます。
あまり長時間の運営をしても意味がなさそうですから。」
「まぁ、もう少し時間がありそうだから考えてみるかな。
それとヒルダと妻にも聞いてみる。」
「すみませんが、お願いします。
あ、じゃあ、整備局に行ってみますか。」
「そうだな。」
武雄と料理長が席を立ち皆に挨拶をして退出して行くのだった。
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