第573話 エルヴィス家での歓迎の夕食。
食堂にてエルヴィス家の面々が主役の登場を待っていた。
「アリスお嬢様、私の礼服・・・問題ないですか?」
「大丈夫ですよ、問題ありません。
スミスは新調したの?」
「僕の場合は、寸法直しで今回は済みました。
新調は王都から戻ってきてからにしますよ。」
「ん?スミス坊ちゃんが王都から戻って・・・王立学院卒業までですか?」
「タケオ様、違いますよ。
タケオ様とお姉様の授与式と第1皇子殿下と第2皇子殿下の挙式に全貴族が招集されたのです。
なので僕がタケオ様とお姉様と一緒に王都に行きます。」
「なるほど、王都見物がてらですね。」
「はい。
ところで王都の印象はどうでしたか?」
「「・・・」」
武雄もアリスも悩んでしまう。
「あ・・・あれ?」
スミスが焦る。
「私は所用が済んだらカトランダ帝国に行きましたし、滞在中はほとんど王城内に居たのであまり街中の事は・・・
行った場所は穀物屋、干物屋、雑貨屋、輸入武器問屋、仕立て屋ですね。
良い買い物は出来ましたが・・・印象ですか・・・アリスお嬢様はどうですか?」
「クゥちゃんとお店巡りはしましたが・・・味はまぁ普通ですね。
後は本屋にはいきましたが・・・タケオ様、どの店も種類は豊富でしたよね?」
「種類も豊富でしたし、価格も王都価格でしたね。」
「そうですね。
街中の雰囲気は忙しなかったですかね?」
「人は多かったですよね・・・」
2人して曖昧な表現しか出来ないでいると。
「・・・2人して王都を満喫しとらんの。
もう少し街に出たら良いじゃろうに・・・」
エルヴィス爺さんが呆れる。
「だって・・・食べ物はタケオ様が作った方が美味しいですし、妃殿下方のお茶会に呼ばれるし・・・」
「あぁ、それは面倒じゃの。
タケオもかの?」
「普通に陛下と殿下方に誘われましたね・・・強制的に。」
武雄とアリスがため息混じりに話すのを聞きながらエルヴィス爺さんは「わし行かなくて正解じゃの」と思うのだった。
「つまりは?」
「ん~・・・人が多くて、物が豊富で、割りと面倒?」
アリスが苦笑しながら言ってくる。
「でも、スミス坊ちゃんは寄宿舎だから王城の面倒はないでしょうね。
とりあえず自分で見聞きして感じるのが一番でしょう。
次は私達は授与式だけですから街中を見てきますかね。
やることもないでしょうし。」
「タケオ、この間もそう言って旅立って行ったように思うがの・・・
今回の旅での王都はカトランダ帝国に行く際の寄り道にしか過ぎなかったのではないかの?
では、この次は何をしてくるのじゃ?」
「次は波乱はないと思います。」
「そうあって欲しいの。」
エルヴィス爺さんの言葉にその場の面々は苦笑するしかないのだった。
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「「・・・・」」
ヴィクターとジーナが食堂に入る扉で考え込んでいた。
「ふふ、ジーナ様、お似合いですよ。」
フレデリックが朗らかに言う。
「え?・・・はい、ありがとうございます。」
ジーナがアリスのお古のドレスの裾を弄りながら答える。
「フレデリック殿、その・・・本当によろしいのでしょうか?」
ヴィクターがおずおずと聞いてくる。
「ええ、構いません。
明日からは研修ですので今日はご自由にして結構です。
タケオ様にも了承を頂いています。
これはエルヴィス家がお2人を迎えるに当たっての歓迎会ですのでおくつろぎください。」
「わかりました。
ジーナ、貴族待遇としては最後になるかもしれないが・・・」
「お父さま、問題ありません。
これはお父様の伯爵としての最後のお仕事なのでしょう。
明日からは執事の研修です。
ご主人様も言っていました。『精一杯人生を楽しみなさい』と。
お父さま、あのままご主人様に買われずに違う誰かに買われていた事を思えば私達は相当恵まれています。
私はもう貴族にはなれないでしょうが・・・今日は楽しみます♪」
「すまないな。
だが・・・そうだな、主に拾われた私達は恵まれているな。」
ジーナの言葉にヴィクターが頷く。
「では参りましょう。」
フレデリックが扉をノックして開けると。
煌びやかではないがシックな感じの落ち着いた食堂にエルヴィス爺さんとアリス、スミスが席の前に起立しており、武雄はエルヴィス爺さんの後ろの窓際に立っている。
「ヴィクター・ヴィヴィアン・ファロン元伯爵様ならびにご息女のジーナ様をお連れしました。」
「こちらに。」
エルヴィス爺さんが答えるとヴィクターとジーナはフレデリックに連れられて席にやって来る。
「ファロン元伯爵殿そしてジーナ殿。
改めて、わしはアズパール王よりこの地を任されておるエリオット・ヘンリー・エルヴィスだ。
今回はわしの部下、キタミザトの要請に良く応えてくれた。
貴殿らの今に至るまでの経緯は先程聞いた。
どんな選択をし、どんな結果を招いて、そして何を失ったのか。
だが、その一方でどんな物を見て、何を聞き、何を得たのか・・・思う所は多いだろう。
縁あってキタミザトに出会う事は出来た。
だが、会うだけでは意味がない。
これからキタミザトの下で25年間仕事をするだろう。
いろんな人と話し、笑い、怒り、悲しみ、楽しみ、折角わしらとは違い領主や貴族というしがらみから解放されたのだ。
今まで出来なかった事を経験して欲しいものだ。」
エルヴィス爺さんが真面目に声をかける。
ヴィクターとジーナはエルヴィス爺さんから発せられた言葉に驚いていた。
武雄がカトランダ帝国からの帰路で自分達に言った事と一緒だったのだ。
2人とも「キタミザト様もキタミザト様ならその上司も上司なのか」と嬉しく思う。
一方の武雄は「エルヴィスさん、良い事を言うなぁ」と自分が言った事を忘れているのだった。
「真面目に話すと疲れるの。
さてと、2人とも明日から総監部での研修も始まるじゃろう。
今日の夜ぐらいはタケオの部下という事を忘れて過ごして貰いたい。
部屋も用意させておるからの。」
「「ありがとうございます。」」
「うむ、うむ。
では夕飯にしようかの。」
エルヴィス爺さんがそう言うと扉が開き料理長を先頭にメイド達が入って来て夕飯の配膳が始まる。
「あの・・・失礼ながらエルヴィス伯爵・・・殿。」
「うむ。ジーナ殿、何かの?」
「ごしゅ・・・キタミザト子爵殿は席に着かれないのですか?」
ジーナは武雄を見ながら聞いてくる。
「うむ。
この夕飯はファロン元伯爵殿とジーナ殿へのエルヴィス家としての歓迎会じゃからの。」
「そうですか。不躾な質問をして申し訳ありません。」
「構わぬ。
タケオ、問題なかろう?」
「はっ!問題ございません。」
武雄が頭を下げる。
「うむ。
さてと、夕飯を始めようかの?
料理長、説明を頼む。」
「畏まりました。
では配膳も済みましたので各料理の説明を始めます。
冷めないように手短に済ませます。
まずメインの料理ですが鶏肉のトマトソテーとなります。
スープは海老の出汁を使用し、あっさりと仕上げました。
また、サラダにはこちらのマヨネーズをお使いください。
最後にデザートとしてショートケーキをご用意させていただきました。
デザートにつきましては後程お持ちいたします。」
「うむ。
ではいただこうかの。」
エルヴィス爺さんの言葉で夕飯が始まるのだった。
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