第571話 エルヴィス家の報告会8。(水源の候補と明日からの予定。)
「タケオ、領内では適度な川はないの・・・」
皆で地図を見ながら川を探しているとエルヴィス爺さんが呟いてくる。
「近くでは・・・これですか?」
スミスが指を指してくる。
「スミス、そこは空白地帯よ?
それに見た感じだと山がありそうね。」
皆が武雄が最初に来た時に説明を受けた簡素な地図の地域版を見ながら探しているのだが・・・
武雄は何も言わないで皆と一緒に地図を見ているが「なんでこの地図で山までわかるの?」と不思議がる。
「タケオ様、空白地帯での作業は短期間でするのが魔王国やドワーフの国、不法占拠者を刺激しない方法です。」
「短期間ですか・・・
フレデリックさん、相手に発覚するまでに何日の猶予があると思いますか?」
「そうですね。
街道沿いではないですし、川下で不法占拠している山には近づかないとしても・・・
越境から帰還まで6日間程度での作業が理想かと。」
「タケオ様、治水をしながらですと無理なのでは?」
フレデリックの予想にアリスが武雄に聞いてくる。
「・・・いや、ギリギリ可能ではないですか?
旅の時に足湯の排水溝を作りましたが、歩きながら幅1m、深さ1mで溝を作って行けば・・・山道でも1日10kmは進めそうですし、何も向こうの川の全ての水を頂く必要もないでしょうから。」
武雄は考えながら言う。
「それで大丈夫ですか?」
「水の威力は強い物です。
一旦流れ出せばあとは自然と自ら川になっていくと思います。
ですが、この増水案は人工湖が承認され、実際に出来てからの話になのでまだまだ先かと。」
「そうじゃの。
それに今は研究所の建設に向けうちの魔法師小隊が準備に入っておる。
人工湖と農業用水路、増水案は来年、タケオが王都から戻ってから議論を始めても良いかの。」
「わかりました。」
「で、タケオ。
明日からの予定はどうするのかの?」
「そうですね。
とりあえず明日は朝食前に工房の面々の様子を見に行って、戻ってきて朝食、アーキンさん達の様子を見に行って、ヴィクター達と各局に挨拶に行って、戻ってきて昼食、午後は街の酒屋、仕立て屋、青果屋、魔法具商店と打ち合わせでしょうか。」
「ふむ・・・
タケオ、こっちの予定を入れてくれるかの?」
「はい。」
「それでは私からお伝えします。」
フレデリックが説明を始める。
「アリスお嬢様とタケオ様は基本的にご自由で結構です。
ヴィクター殿、ジーナ殿。
タケオ様の下で執事兼家令として働くには先ほど言った通り総監部の所で研修をして貰う事になります。
来て早々ではありますが、明日の昼からヴィクター殿、ジーナ殿には総監部の研修を受けて頂きます。
ですので、明日の午前中は総監部の者を付けますので生活用品を買いに行ってきてください。
部屋については、この屋敷の前に部屋を用意しておりますので明日確認をしていただきます。
ベッドや机、食器等々は揃えておりますのでご安心ください。
また、明日の夕方はヴィクター殿は執事服、ジーナ殿はメイド服を作りに行きます。」
「急ですね。」
武雄が驚く。
「いえいえ、こっちはもう4日前から受け入れ態勢を整えておりましたのでやっと始動します。
皆も楽しみに待っていましたので。」
「「え?」」
武雄とアリスはフレデリックが言った「皆」と言う所に不安を感じる。
「さて、以上が総監部よりの通達になります。」
「わかりました。
明日の予定はヴィクター達の所は私は違う事をしています。
何をするかはまぁまだ決めていませんが・・・
ヴィクター、ジーナ、休む暇なくいきなり研修ですが平気ですか?」
「「はい、問題ありません。」」
ヴィクターとジーナが頷く。
「うむ。
では2人とも研修をしっかりと受けて執事兼家令の仕事を覚えるのじゃ。
と、もうすぐ夕飯なのじゃが・・・ヴィクターとジーナは今日はこの屋敷に泊りなさい。
研修は明日からで良いからの。」
「畏まりました。」
ヴィクターが答えジーナも頷く。
と、エルヴィス家の広間の扉がノックされる。
エルヴィス爺さんが入室の許可を出すと執事が扉を開け入って来る。
「失礼します。
湯浴みのご用意が出来ました。」
「うむ、ご苦労。
では・・・タケオとアリスはこの場に残ってくれるかの?
ヴィクター、ジーナ、先に湯浴みを使ってくるのじゃ。」
「「え!?」」
ヴィクターとジーナが驚く。
「主や伯爵様より先に・・・ですか?」
「うむ。
今日は疲れたであろう?わしももう少し話したいのでの。
明日からの執事研修の為じゃ、今日はゆっくりと入って来て構わぬ。」
エルヴィス爺さんが頷く。
「ヴィクター殿、ジーナ殿、今日は遠慮はしなくて結構です。
明日からいろいろ詰め込みますから今日はゆっくりと過ごして構いません。
タケオ様もそれでよろしいですか?」
「はい。今は仕事もないので・・・2人に何かさせる事もないですね。」
武雄が頷く。
「で・・・では・・・本当によろしいのでしょうか?」
「うむ。
良いのじゃ。」
「はぁ・・・では、主、伯爵様、私達が先に湯浴みをさせて頂きます。」
ヴィクターそう言い頭を下げる。
「えーっと・・・行ってきます?」
ジーナも良くわからないのか変な挨拶をして執事に連れられて退出していくのだった。
・・
・
「それで私達はどうするのでしょうか?」
「ん?我々は正装をして食堂に集合じゃ。」
武雄の質問にエルヴィス爺さんが嬉しそうに答える。
「・・・なるほど、そういう事ですか。」
アリスが頷く。
「タケオ様の礼服は仕立て屋から引き取って来ています。」
「届いたのですか?」
「はい。今日の昼にラルフ様のお店に到着していましたので勝手ながら私達で引き取ってきました。
また、アリスお嬢様のお召し物もタケオ様の礼服と一緒に寝室にご用意しております。
また、ヴィクター殿用には想定される全サイズをご用意していますし、ジーナ殿用はアリスお嬢様の昔の物を見繕っています。」
「準備万端なのですね。」
武雄が若干呆れる。
「うむ、準備万端じゃ。
あの2人はいきなり伯爵家から奴隷になったであろう?
執事になる前日ぐらい元の生活に近い事をさせても良いと思っておる。」
「エルヴィスさん、ありがとうございます。」
武雄が深々と礼をする。
「構わぬよ。
では、2人が湯浴みをしている間にわしらも準備をするかの。」
エルヴィス爺さんが楽しそうに号令をかけるのだった。
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