第518話 王城内の探索。(専売局からの相談。)
資料一式が出来るまで局長執務室で局長と武雄とエイミーがソファに座りお茶を片手に歓談をしていた。
「そうですか。
エイミー殿下はもう最高学年でしたか。」
「ええ、あと1年そこそこで卒業だと思うと何もしてこなかったなぁと思ってしまいます。」
「はは、誰しも学生時代はそんなものです。
その後の方が大変なんですよ。」
局長とエイミーが学院の話で盛り上がっていた。
武雄はそんな学院トークを小耳に挟みながらボーっとしていた。
「それはそうとキタミザト卿。」
「はい、何でしょうか?」
「キタミザト卿は学院出身ではないのですよね?」
「ええ、違いますね。
エルヴィス領内を転々としていました。」
「それほどの発想力をどこで育んだのでしょうか?」
「さぁ・・・気が付いたらこうなっていたとしか言えませんね。
特にこれをやったからという事もないですし・・・本は読ませて貰っていましたね。」
「ほぉ、読書家ですか?」
「読書家とまでは言えませんが、気になった物は調べるようにはしていましたね。
あとは色んな商売がある事を見てきましたかね。」
「なるほど、知識だけでなく実地でも確認をしていたのですね。」
「局長の言い方は凄く美化されていますよ。
ただ街中を見たりしていただけなんですけど。」
武雄が苦笑すると局長も「これは失礼しましたな」と苦笑する。
と、執務室の扉がノックされ局長が許可を出すと先ほどの中肉中背の男性が入って来る。
「失礼します。
原材料のリストが出来上がりましたのでお持ちしました。」
「うむ、すまんな。」
局長が冊子を受け取ると男性は退出していった。
「キタミザト卿、こちらになります。」
「はい、ありがとうございます。」
武雄は冊子を受け取りパラパラ捲って中身を流し読みするが、ほとんどが知らない名称だった。
「・・・ここまでが鉱石でしょうか・・・ここは衣料系ですか?・・・これは穀物とか野菜ですか。」
「はい。
専売局は衣料原料、塩、製紙、茶、パイプの葉、金属を主に製造販売をしています。」
「なるほど。
国の産業としては実入りが良さそうですね。」
「クリフ殿下の所が主に金属関係と茶葉、ニール殿下の所が主に塩とパイプの葉と衣料原料、王都の専売局が製紙を受け持っていました。
ですが、今後はニール殿下とウィリアム殿下の所で製紙と塩以外の生産品の分散化を進める事になっています。」
「それは不作時や機器の故障が起きた際の流通価格の変動をある程度抑える為ですね?」
「はい。
それと国内の専売局が抱える品の価格を均一化する為でもあります。
今までは例えばエルヴィス領に金属等を卸す場合は運搬費等がかかる為どうしてもクリフ殿下領や王都に比べて割高になっていました。
今後はウィリアム殿下領からの輸送になりますのでたぶんエルヴィス領での価格が若干ですが下がると思っています。」
「それは良い事ですね。
ちなみに仕入れはどうやれば良いのでしょうか?」
「そうですね・・・今までは各領主の文官経由で発注を頂いていたので研究所も単独で発注をして頂いても良いのですが・・・
正直な話、同じ領内なのに2つの場所から別々に依頼をされても運搬費がかさむだけですので、エルヴィス家経由で発注をかけていただけると低く抑えられますし、私どもの管理が楽です。」
「なるほど。エルヴィス領に帰ったのちに向こうと話し合います。」
「はい、よろしくお願いします。
それと・・・まだ局内での検討段階なのですが、製鉄の技術や品質を向上もしくは価格を下げられないかというのを局内で議論されています。」
「それは良い事ですね。」
「現状は流通している多くをドワーフの王国で1次加工された物を輸入して国内で再度、塊に加工して各領地に販売しているのですが、製鉄能力を向上させれば流通価格を低く出来るのではないかと踏んでいます。」
「なるほど。」
「また私達の業務内容に鉄材の開発があるのですが、これを一部研究所に依頼してみるという案も出ています。」
「鉄材・・・合金の開発ですか?」
「はい。鉄は他の物質と混ざりやすいというところはわかっているのですが、無限とも言える組合わせが存在します。
国内2箇所での試作ではとてもではないですが間に合いません。
ですので、研究所に物を試作して貰い、王都の専売局で試験をしようかという案です。」
「なるほど。
しかし、高炉を街中で作れるのでしょうか?」
「大規模ではなく大体10kg程度が造れる最小高炉を試作では使って貰おうかと・・・そして厚さ2cm、25cm四方の板を作って貰いたいのです。」
「具体的な厚さが出てきましたが、それで試験を?」
「はい。
2cm四方で長さ20cmの物を11本作り出して、無作為に5本選び、折れるまで荷重をかける試験をして評価しています。」
「成果はどうですか?」
「芳しくないですね。
硬い合金を目指しているのですが・・・なかなか。」
局長が渋い顔をさせる。
「ちなみに現在の案だと依頼に沿って配合をするのですか?」
「はい。」
「依頼にない配合を考え付いた場合はどうしましょうか?」
「そうですね・・・一定以上の量が出る製品になった場合に成果報酬として一括で払いますかね。」
「なるほど。
では、その仕事を研究所に振る場合は今までの配合リストとその性能、そして新配合による成果報酬を明確にしてくれれば引き受けます。
それと最小高炉の設計図も頂けるでしょうか。」
「わかりました。
その内容で検討を続けます。」
「はい、わかりました。」
と、扉がノックされ、先程の男性と若手(若干ヤツれた)が入ってくる。
「失礼します。
ご用意が出来ましたので、お持ちしました。」
「ご苦労。
キタミザト卿、原価表は基本的には所長のみの閲覧でお願いします。」
「はい、わかりました。
参考程度で扱わせて貰います。」
武雄は局長から資料一式を貰うのだった。
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