第510話 王城での面談1(武雄とアリス1)
「「失礼いたします。」」
武雄とアリスが横並びで小広間に入って来て目の前の椅子の横に立つ。
「タケオ、カトランダ帝国への視察ご苦労だった。」
「はっ!陛下、労いの言葉ありがたく頂戴いたします。」
「アリスもクリフの側室の件ではすまなかったな。
その辺も聞かせてくれ。」
「はっ!承知いたしました。」
「うむ。では、座って話そうか。」
武雄とアリスは窓際の人達に会釈をしてから座る。
「さてと、誰を連れてきた?」
「全員連れてきました。
ミア達はアン殿下方にお預かり願っています。」
「ふむ。皆には何と言ってある?」
「出資者に挨拶に行くと。エルヴィス伯爵の上司なので失礼が無いようにとしか言っておりません。」
「そうか。
では大貴族としての認識なのだろうな。」
「はい。
また、旅路ではクリフ殿下とニール殿下の事は説明しています。
ウィリアム殿下の事やレイラ殿下がアリスお嬢様の姉である旨は言っておりません。」
「そうか・・・わかった。
ではタケオ、簡単には聞いているがカトランダ帝国への視察の報告をしてくれ。」
「はい、畏まりました。」
武雄は旅路を順々に説明していくのだった。
・・・
・・
・
「カトランダ帝国からの職人の引き抜きと奴隷の執事の雇用、そして皇女とエルフの子供2名・・・
タケオ、内容が濃すぎるな。」
アズパール王がため息をつきながら言ってくる。
「成り行きです。」
「それは・・・認めるがな。
オルコット、我が国はエルフであろうが獣人であろうが法を順守してくれるならば国民と認めてたな。」
「はい。
奴隷に関して言えばキタミザト卿の考え方はある意味で真っ当です。
勝手に我が国から出国し『領主を誘拐した』という大義名分にされては準備が整っていない状況下では危険です。
ですから勝手な行動をさせないという束縛の為の奴隷という制度の利用は法的には違法ではあっても施政者としての判断としては間違いではないと思います。
それに25年という雇用期間も他の兵士に比べれば若干少なく雇用契約として順当かと考えます。」
「つまりは?」
アズパール王がオルコットに続きを促す。
「国としては慣例の通り奴隷契約を破棄するように依頼をしますが、キタミザト殿がしっかりとした雇用契約を結び、奴隷契約と合わせて履行する事と最長25年契約で任期満了という文言を入れて頂けることで許可が可能だと判断します。」
「ふむ・・・他の者への先例となるか?」
「今までは他国で契約してきたことについて、強引に破棄を迫れなかったのは確かです。
なので、今回のキタミザト卿の契約を元に『国内では奴隷契約を結ぶことを認めないが他国で奴隷契約をしてきた場合は契約日より最長25年で解除する事』という奴隷契約条項の追加条文を作ってみようかと思います。」
「ふむ・・・一部の豪商から反発がありそうな感じだがな・・・」
「あるでしょうね・・・特にウィリプ連合国に面している所とかでは・・・
ですが、そもそも奴隷については法律的に奴隷契約条項で規定はしていますが、あくまで国内で奴隷契約を結んではならないという物でしかないのです・・・その抜け道で他国で契約してくるという手段が取られておりますが。」
「法の抜け目を全部潰せるわけではないからなぁ。」
「はい。完璧な法律というのは存在していません。
どこかしらに抜けは出てきてしまう物かと。」
「わかった。オルコット、クラーク、貴族会議でその辺の話し合いをしてくれ。」
「「畏まりました。」」
オルコットとクラークが返事をする。
「さて、次はエルフの事についてだが・・・
まぁこれも奴隷の執事と基本は同じ考えだな。」
「はい、基本は一緒です。
それに誰に交渉して良いかも定かではなく・・・自由の身にして越境されても私達に不利に働くような気がして・・・まずは私方からの私費で研究所の試験小隊枠に組み込んで常識等々を教えてから、いろんな職種を経験させて自由にさせるのが一番ではないかと思ったので誘いました。」
「うむ。我はタケオの考えで良いと思うがオルコットはどう思う?」
「よろしいのではないでしょうか。
それに陛下、これはある意味で宣伝に使えるかと思っています。」
「ふむ・・・なるほど。
上位機関に異種族を配置する事が可能な能力主義的な国風という宣伝になると?」
「はい。
大々的に宣伝をすると逆にキタミザト卿の事を訝しがる者がいると思いますので、異種族を入れた事に対しては我々は許可しただけに留めるとします。」
「なるほどな。
以前からの懸念事項の解決策の一つとするか・・・」
「懸念事項ですか?」
クラークが聞き返す。
「ええ。クラーク議長。
我が国は種族に拘らずに兵士の採用をしています。
ですが、実際の兵士の内訳を見ると全てが人間種となっているのです。」
「・・・それは募集をかけても来ないからだと思いますが?」
「現場や地方貴族達はそう言いますね。
ですが、王都の人事局は別の考えを持っています。」
「・・・異種族によって待遇差があると?」
「それと領主が異種族を認めていない可能性もあります。
アリス殿、エルヴィス伯爵はどのように対応されていますか?」
「祖父は募集しても来てくれないと嘆いています。」
「では、なぜ来ないと思いますか?」
「え・・・それは・・・」
アリスは武雄に目線で救いを求める。
「では、キタミザト卿はどうしてエルヴィス伯爵領では異種族が兵士の募集に集まらないと思いますか?」
「要因の一つとしてそもそもの給金が少ないからではないでしょうか?」
「う・・・タケオ様。」
アリスも思ってはいたが言葉にはしなかった事を武雄が躊躇なく言って少し涙目になる。
「それだけですか?」
オルコットの問いかけにアリスの目がピクッとする。
「・・・少なくともエルヴィス伯爵は私が妖精のミアを拾ってきて部下にした時も珍しさに驚かれただけでしたので、王都が望むような魔物という理由のみで拒否をする方ではないと考えています。」
「そうですか・・・アリス殿、キタミザト卿。
エルヴィス伯爵に王都が何かを思っているわけではありません。
少し決めつけた感を出した問いをして申し訳ありませんでした。」
「いえ・・・。」
「王都の考えはわかります。
エルヴィス領は近年で魔物の襲撃を2度受けているのです。
領民も犠牲になっていますので領主自らが憎悪を募らせていると思われても仕方がないでしょう。」
「キタミザト卿は違うとお考えで?」
「魔王国と隣接し、領内でも獣人を普段見かけるのが当たり前の日常があるのです。
戦争をしているのは魔物全般というよりも魔王国という組織であり、オーガやゴブリンはあくまで害獣という認識になっているのではないかと・・・むしろカトランダ帝国に面していて魔物と普段生活していない貴族の方が意識的に危ういと思います。」
「・・・無知からくる恐怖か・・・」
武雄の言い分にアズパール王が難しい顔をさせる。
「確かに慣れていなければ魔物の対応方法はわからないですからな。」
クラークが腕を組みながら頷く。
「まぁ、兵士への登用の件は地方に任せるしかないだろう。
すぐに成果があがるわけでもないしな。
クラーク、オルコット、そういった物を教える為の学院なんだろう?
違うか?」
「「はっ!」」
クラークとオルコットが頷くのだった。
「まぁ、今回は獣人もエルフもしっかりとした雇用契約を結べば問題ない。
今後の異種族の雇用促進については王都で考える事だ。
タケオは気にしなくて良い。」
「はい。」
アズパール王の総括に武雄が頷くのだった。
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