第2736話 開戦直前。(ヴァレーリ、鼓舞中。)
朝日がそれなりに昇って広場が照らされている。
いつのまにか兵士達が整列して、ヴァレーリからの号令を待っている。
その兵士達の前ではヴァレーリと第1軍幹部と第3軍幹部が各々で立ち話をしていた。
「第4軍より報告。
日の出までに王城、ブリアーニ王国側および魔王国側両関、各領地へのデムーロ国からの返答はないとの連絡がきております。」
「第2軍より報告。
人工湖への貯水を実施中、現在8割が注水完了。
陛下のご指示にて、最上段を満水にし、決壊させ、下部の人工湖に流れ込ませ、順次決壊させるとの伝令を受けております。」
「第5軍より報告。
各員の展開と砲撃準備完了、陛下のご指示待ちとの事です。」
兵士がヴァレーリ、第1軍指揮官フレッディ、同指揮官補佐アンナローロ他第1軍幹部、第3軍指揮官と指揮官補佐他第3軍幹部の前に来て報告を次々してくる。
「・・・返答はないか。
第1軍指揮官、第3軍指揮官、今を持って回答を待つことを止める。
異議はあるか?」
「「ありません!」」
2名の王軍指揮官が返事をする。
「さて・・・戦争だな。」
ヴァレーリが兵士達の前に歩いて行くのだった。
・・
・
「総員気を付け!陛下に対し敬礼!
直れ!傾注!」
号令と共に兵士達が敬礼をし、ヴァレーリも答礼をする。
「諸君、おはよう。
楽にしろ。」
ヴァレーリがそう言うと整列している兵士達が休めの体勢を取る。
「諸君、デムーロ国から正式な回答は何一つされなかった。
弁明も!肯定も!交渉の延長も!何もだ!
我らの要請は無視されたという事に他ならない!
・・・我が国は舐められているらしい。」
ヴァレーリの言葉に兵士達は動揺もしていない。
「・・・魔王国の建国は随分と昔だ。
建国の父達は外からの脅威から民を守る為に性別を超え、種族を超え、様々な因縁を越えて、団結し、国という物を作り上げた。
これは偏に『子供達を守る為』に行った。
今!再び!子供達が脅かされている!
我々は建国の精神に則り!我らの家族!我らの子供に危害を加える者を許してはならない!
我々は侵略者と言われるだろう!
だが、我々は領土を欲しているのではない!我々は一種族を滅ぼそうとしているのではない!
我々は我々の家族に手を出した報いを相手と相手の子孫達の脳裏に刻み込み!
二度と!子供達が脅かされないようにしたいのだ!
我々は舐められるような存在ではない事を示さねばならない!」
「「「おー!」」」
「だが諸君!履き違えるな!
我々は相手の不幸を喜んでいるのではない!
我々は相手に暴力的な恐怖を植え付けたいのではない!
我々は掠奪者ではない!我々は虐殺者ではない!
圧倒的な軍事力と行動力、そして魔王国の規律を見せつける為に行うのだ!
野蛮な行為をしたのはどちらなのかをデムーロ国の施政者と国民に示さないといけない!
そして我々の子供達に手を出した報いを受けさせる事でデムーロ国の施政者達に理解させるべきだ!
彼奴らが不幸の原因である事を!」
「「「おー!」」」
兵士達が腕を上げる。
武雄達はそんな魔王国の兵士達を広場の端から見ていた。
「・・・」
武雄は腕を組んでヴァレーリの激励を聞いている。
「所長、これって・・・大丈夫なんですよね?」
ブレアが聞いてくる。
「国家の尊厳を守る為に敢て侵攻をし、兵士達に略奪や暴行をしてはならないと言っています。
あくまで、罰を与える戦いであると。
我々が悪者ではないという事を兵士達に刷り込みたいのでしょう。
国や種族は異なっても、今も昔もこういう物ですよ。」
「・・・こういう演説が普通なのですよね。
私達はあまりこういった事はしないので。」
ブレアが呟く。
「戦争を起こすというのは、兵士達に理解されない事も多いでしょう。
大義名分はどの戦争、どちら側においても必要な事です。
アズパール王国では戦争になっても地方領主達でなんとかしてしまいますからね。
こういった国のトップの演説というのは珍しいかもしれませんね。
・・・客観的に見て、どうですか?」
「この文言はやる気になりますよね。」
「ダニエラさんノリノリですよねぇ。
良くも悪くもトップの意気が反映されるでしょうしね。」
「ですね。」
「まぁ、同じ内容をうちの陛下がしても響くかどうかわかりませんがね。
歴史、情勢、お国柄、トップの性格諸々が演説に反映されていきますから。
この演説はダニエラさんだからでしょう。」
武雄が言う。
「陛下だとどうなるんでしょうか?」
「こっちから攻め込まないからこうはならないでしょう。
危機を煽るのか、冷静に対応するのか・・・誰が内容を書くのかにもよるのでしょう。」
「「そうなんですね。」」
ベイノンとブレアが言う。
「ま、我々はその内容を直に聞くかもしれませんが、作成は関与しないでしょうからね。
ちょっと外からどんな内容を話しているのか。
楽しめば良いんじゃないですかね?」
武雄がそう言うと同時にヴァレーリの演説が終わったようだ。
魔王国の兵士達が敬礼をして、ヴァレーリが皆の前から退くと各幹部達が兵士達に指示を出している。
「さて・・・私達も仕事をしますか。」
武雄の呟きに、ベイノンとブレアが頷くのだった。
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