第1606話 実食。(何とか上手く行ったね。)
「あまーい♪美味しー♪
そしてサクサク!!」
ヒルダが絶叫していた。
「結構中が熱いですね。」
「砂糖を使ってるから熱が逃げにくいのか?」
「生地で包んでいるからじゃないですか?
でも焼き立てを出すのは注意が必要な感じですね。」
「例の湯煎している鉄のトレイに載せながら提供しますか。」
「出すタイミングも難しいだろうなぁ。」
料理人達がアップルパイをどうやって提供するかをもう話し合っている。
「ふむ、この味なら問題ないでしょう。」
「はい、食べ応えもあり、満足すると思います。」
「これ定期的に作ってくれませんかね?
この味なら男性でも食べられます、出来れば砂糖をもう少し控えめにして頂くと良いのですが。」
「私達も仕事終わりにこれがあったら嬉しいです。」
フレデリックとたまたま夕食の事を聞きに来たメイド長と執事、メイドも試食をしながら感想を言う。
「・・・これはあれだな、最後に卵を塗った事による効果が出てるみたいだな。」
料理長が食べながらボソッと呟く。
「お、料理長、流石にわかるわね。」
チビコノハがニヤリと笑う。
「不思議だが・・・こういうやり方もあるという事だな。
そして生地にあまり味がない・・・塩気や甘みがないのが無味のように感じる一因なのか?
中身を濃くすればスイーツに留まらない料理に・・・」
料理長が分析を始めている。
「今回は甘く炒めたリンゴだったが・・・少し濃いめのシチューでも出来るんじゃないか?」
「「パイシチュー。」」
武雄とコノハが料理長を見ながら言う。
「・・・そうか、間違いじゃないんだな。
ちなみにオーク肉のミンチをトマトソースで絡めて見ても良いんじゃないかと思ったんだが。」
「「ミートパイ。」」
武雄とコノハが言う。
「あんこも合うと思うんだが。」
「「あんこパイ。」」
武雄とコノハが言う。
「・・・発想が追い抜けない・・・」
料理長が額に手をやり苦々しく言い放つ。
「まぁ、タケオは発想が豊かな所の出身だからね。
ありとあらゆる物をパンやご飯・・・お米に入れるわよ。」
「確かに焼きパスタをパンに挟みますからね。」
タケオが頷く。
「ポテトサラダ、魚のフライ、肉、カレー、シチュー・・・終いにはフルーツだってパンに挟むわよね。
こっちの人達からゲテモノ呼ばわりされかねないわよ。」
「美味しいんですけどね。」
「日本人が提供する食べ物に不味い物があるわけないじゃない、たまに不思議なのはあるけど。
食への執念は遺伝子レベルで継承されていても驚かないわ。」
コノハがやれやれと手を挙げながら言う。
その光景をチビパナが武雄の肩に乗り小さく切ったアップルパイをかじりながら「いやコノハ、その理屈で言うなら貴女がこんなんだから子孫がこうなってるのでは?」と思っている。
「キタミザト様、膨れています!」
料理人が武雄に伝えてくる。
「よし!コノハ!」
「よっしゃ!来たわね!
今日のメインイベント!皆の度肝を抜かしてくれるわ!」
武雄とコノハが嬉々として窯の前に行く。
パナは「絶対タケオの遺伝子にはコノハが絡んでそうだ」と思うのだった。
・・
・
「え?何ですかこれ?
茶色くて丸いんですけど?」
ヒルダが周りの料理人達を見まわしてる。
他の料理人達も興味津々で見ている。
「・・・ん~・・・」
「むぅ・・・」
なのに武雄とコノハは焼きあがったシューを見ながら首を傾げていた。
「コノハ・・・私のイメージではもう1回り大きくなると思ったのですけど。」
「私もそう思ったわ。
丸くした生地の量からもう1回り大きくなると考えていたんだけど・・・バターが足らなかったかしら?
でも脂分が適量で適温だからこそ膨らむんだし、膨らんだという事は素材の量や温度じゃない所で何が足らなかったのかな・・・ん~・・・」
武雄とコノハが悩んでいる。
「キタミザト様、これは失敗なんですか?」
一緒に作っていた料理人が心配そうに聞いてくる。
「いえ、そうとは言いませんが・・・見た感じはシューですね。」
「そうね。
とりあえず食べよう!そして考えよう!
ホイップクリームの用意は!?」
「用意できてます!」
「よーし!シューの真ん中を横に両断!ホイップクリームを乗せて挟み込みなさい!
さ!試食よ!」
料理人達がコノハの言ったようにシューを切ってホイップクリームを挟むのだった。
・・
・
「うわぁぁぁぁ♪これ凄い!」
「あ!ぶしゅっとする!」
「あ!零れる!あ!手に!勿体ない!」
「なるほど。」
「これはまた面白い。」
「生地の味が・・・ホイップクリームに馴染んでいる。
不思議だ・・・」
「ほぉ。
これもまた良いですね。」
「皆、口の周りにクリームが付いていますよ。」
武雄が皆の表情を見て笑いながら言う。
「タケオ!これは見事だな!
街中の流行りのマドレーヌも凄いと思っていたがこれはさらに上を行く!
何と言うか・・・・ホイップクリームを味わう為にあるようなスイーツだな!
これは斬新だ!」
料理長も口の周りにクリームを付けながら絶賛している。
「さて・・・料理長、今日新たに2つスイーツが出来ましたが、どうしますか?」
武雄が料理長に「今日の夕食にはどっちを?」と言う。
「おっと・・・そうだなぁ・・・
今日はタケオの部下の家族の夕食と伯爵様が挨拶か・・・なら決まっているな。」
料理長が頷くのだった。
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