第1143話 ヴィクター親子。(私は自覚症状がない自惚れ屋さんではない。)
総監部の一室。
「ご主人様とコノハにそう言われました。お父さま。」
ジーナがヴィクターに報告している。
「ふむ・・・随分と高評価だな。」
「英傑の芽があるとは・・・お父さま、これはご主人様の冗談ですよね?」
「・・・我らを見出した事は置いておくとして。
領内で店長達を説得し産業を興させ、ステノ技研とベルテ一家を見出し、自身の部下として王国最強の王都守備隊から引き抜き、王都守備隊の補充要員の選定を任される主がジーナの能力を見誤ると?」
「うっ・・・なさそうです。
私はそんなに優秀なのですか?」
「仕事上は何事も卒無く熟してしまうから優秀という分類だな。
親としても手がかからなくて良いのだが・・・確かにジーナには友人が必要だろう。
主の心配もわかる。」
ヴィクターが頷く。
「・・・お父さまは居たのですか?」
「騎士団長とは罵り合った仲だが・・・
あれを友人というのはおこがましいと思うが、まぁ裏なく話し合える人材ではあった。」
「え?騎士団長が?
いつも恭しくしていましたよね?」
「表向きはな。
だが、事前準備や会議では言いたい事を言う奴だった。
あいつは私の事を何だと思っていたのか聞いてみたいな。」
ヴィクターが呆れ気味に笑う。
「仲が良かったのですね。」
「まぁ、ああいった部下は必要だ。
ジーナも主の言う通り自惚れている者やその取り巻きには注意する事と自身が自惚れないようにする事が肝心だろう。
あとは仕事をしながら好きに友人を作ってくれば良い。
良い友人かどうかはまた別の話だろう。
楽しみだな。」
「お父さままで・・・
では、良き友人とは何ですか?」
「苦楽を共にしてくれる者であり、いざという時、苦言を呈してくれる者だな。
周りの皆がジーナに言いにくい事でもしっかりと言ってくれるような人物だろう。」
「・・・居るのでしょうか?」
「居ると思うがな。
作りたくて作る友人関係もあるかもしれないし、無いかもしれない。
少なくとも気が付いたら友達になっていた・・・なんていうのはないと思うな。
分け隔てなく話していれば気が合う人間と出会える確率は多いだろう。」
「・・・指示があやふやです。」
ジーナが難しい顔をさせる。
「それはしょうがない。私も主も寄宿舎に行った事がないんだ。
知らないのだから大まかなアドバイスしか出来ないだろう。」
ヴィクターが苦笑する。
「・・・行った事もない寄宿舎をさも見て来たような言い方をするご主人様はどうなのでしょうか?」
「想像力が豊かということだろうな。
ジーナ、準備は出来ているのか?」
「はい。
準備は出来ています。
あとは向こうで買い足せば良いかと。」
「うん、わかった。
では、明日は主とアリス様の予行の手伝い、明後日は本番、明々後日は特産品祭りの手伝いだな。
4日後の出立の準備は既に出来ていると総監部より連絡が来ている。
ジーナはスミス様のお付として馬車に同乗すれば問題ない。
足りない物があったら途中で買い足していく気で問題ないだろう。」
「はい、畏まりました。」
ヴィクターとジーナが頷くのだった。
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武雄の書斎。
武雄が「エアロ」と「ファイア」で温風を出して油紙を乾かしている。
「ねぇ、タケオ。
ジーナにはああ言ったけど・・・大丈夫かな?」
コノハがお茶を飲みながら武雄に聞いて来る。
「ん~・・・まぁ何とかなるのではないですか?」
「イジメなんて原因がわかれば苦労しないわよ。
集団心理もあるだろうし・・・さっきの説明だと主犯が決まっているような言い方だったけど実際はもっと陰湿だし複雑化するわよ。」
「・・・陰湿なイジメですか。
そもそもイジメの定義が定かではないですけどね。
『イジメはいけません』と教えますが『イジメ』がどんなものかわからなければ意味がないです。
とりあえず1つくらいは教えておかないと『いつの間にか加害者』になっていますよ。
それに有史以来イジメというのはない時期はありませんしね。
大国が小国に無理難題を言ったり、逆に大国を周辺の小国が一斉に攻めるのはイジメではないのでしょうかね。
国も個人も規模の違いだけでやってることは違いがないのかもしれませんね。」
「はぁ・・・そこは永遠の課題かもね。」
「忘れがちなんですが、ジーナは私達とは種族が違うのでしたよね。
最近全く気にもしませんが。」
「タケオらしいわ。
それにしても単一種族の教室だと出自と血が一番言われそうよね。」
「・・・ん~・・・コノハ、ここだけの話ですけどね。
私は他種族よりも同種族内の出生地の方が偏見が強いと思っています。」
「人間種の出生地のこと?」
「ええ。他種族に対しては確かに忌諱はあるのかもしれないですが・・・それは生活環境がそもそも違う事と身体能力の差から来るのだと思っています。
言うなれば『知らない事が多すぎてどう扱えば良いのかわからない』事からくる恐怖でしょう。
ですが、街の中で見ていると親たちの関心は、同じ人間なのに街の中心に住んでいるのか、スラム街で住んでいるのかの出生地の違いの方が大きいのではないかと思えてしまいます。」
「まぁ・・・スラム街の方が治安が悪いからね。
素行の悪さからくる偏見かな?」
「種族間の無知から来る偏見と同じ人間なのに出生地からくる偏見・・・
どちらが先に無くなると思いますか?」
「その問いも難しいわね。
じゃあ、ジーナについては問題はないと?」
「他種族であるというのは最初は奇異の目は向けられてもジーナの人となりをわかれば味方も出来るでしょうね。
それでも他種族は野蛮だという風に思う人は居るでしょうけども・・・
そういった輩は寄宿舎内では私やスミス坊ちゃんの貴族としての圧力がある為、表立ってはイジメはしてこないだろうと思っています。
それに人型ですしね。何だかんだと言って人型だと甘々になるのではないでしょうか?」
「ジーナに狼の耳が生えてればなぁ~・・・可愛いと評判になるだろうにね。」
「ジーナが本気で戦う時は耳が生えてますよ?」
「嘘!?見た事ないわよ?」
「え?前に野原でオーガを倒した時は犬耳がありましたけど?」
「今度触らせて貰おうっと。」
コノハが楽しそうに言うのだった。
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