第993話 宿への帰り道。(ん?気になる気になる。)
武雄とマイヤーは、ニール達と雑談をしてからお暇していた。
「結構な時間になってしまいましたね。」
「そうですね・・・
それにしてもスズネ殿がヴァイオリンを弾いているのを少し聴きましたが、ちゃんと聴いたのは初めてでしたね。
ああも何か感情が揺さぶられる物なのですね。」
マイヤーが考えながら言ってくる。
「音楽や演劇・・・違いますかね。
演劇があってから音楽なのかもしれませんが・・・
少なくとも音楽には物語がセットであるはずですね。」
「音楽に物語ですか?」
「ええ。
戦いや争いで味方を鼓舞するような曲、優雅にお茶を楽しむような曲、自然の中を散策する時に聴くような曲・・・
本と同じですよ。
題材を用意してから作り出す物だと思います。
ま、どちらにしてもこれからの話ですかね。
職人も居ないし演奏者も居ない・・・途方もない事業です。」
「なるほど・・・んー・・・」
マイヤーが「うちの息子に勧めてみるかなぁ」と思っていたりする。
と。大通りを歩いていると、ふと何かが気になる。
「?」
武雄が立ち止まり何気に見る。
「どうしましたか?」
マイヤーも立ち止まり武雄を見る。
「・・・いえ。」
武雄はそう言うが店じまいをしている店を見る。
「・・・気になりますか?
店じまい中みたいですね。」
マイヤーも店先を見る。
「前にもこんな事がありましたか・・・
少し寄ってみましょうか。」
「はい。」
武雄が商店に寄るのだった。
その店は古書店だった。
店長にチビッ子2名の事を伝え少し見ていた。
ミアとパナも自由に店内を見回っている。
「所長。これ・・・面白いですね。」
マイヤーが少し大き目の冊子を手に取って中を見ていた。
「古地図ですか?」
「ええ。建国当時から今の領地になった辺りの地図集ですね。
著者がわからないですが・・・個人が集めた物を1冊にしたのでしょう。
上手く出来ています。
こういったのは好き者が買うと思うのですが・・・この地には居ないようですね。」
「古地図は使えるでしょうね。
建築だけでなく戦略、戦術にもね。」
「そうなのですか?
私は単純に今と昔を比べて楽しむ趣味の世界だと思うのですが。」
「そういう楽しみ方もあるでしょうけどね。
元々が沼地なら水はけが悪いとか、元々が村があったとしたら水脈がありそうだとか・・・
戦場を想定する事が出来ると思います。」
「なるほど。
なら、これは買いですね。」
「あとで研究所の資金から出しますから領収書を貰っておいてください。」
「わかりました。」
マイヤーが頷く。
「所長は気になった物はありましたか?」
「あったにはあったのですけど・・・」
武雄がマイヤーに持っている物を見せる。
「これはペーパーナイフ・・・ですか?古書店に?」
「窓際にありました。
何となく気になるんです。」
「ふむ・・・見た感じ普通ですね。」
マイヤーがまじまじと見る。
「持ってみますか?」
武雄がマイヤーに渡す。
「!?」
マイヤーが驚き顔を武雄に向ける。
「重いですね・・・見た目からは想像が出来ません。
これは何かあるのでしょうか?」
「説明書きも何もありませんでした。
異様に重量があるペーパーナイフなんですけど・・・ペーパーナイフがこの重量だと意味がないと思うのですよね。」
「ええ。
手軽に切れるようにしてあるのが普通かと思います。」
「なので買ってみる事にします。」
武雄が苦笑しながら言うのだった。
「気になるなら買ってみるのも一考ですね。」
マイヤーも苦笑するのだった。
「主~。主~。」
「タケオ。戻りました。」
チビッ子2名が武雄達の所に飛んできて武雄の肩に座る。
「はい、おかえりなさい。
何がありましたか?」
「聞いてください!パナが凄いのを見つけたんです!」
「・・・間違いであって欲しかったですけどね。」
ミアが若干興奮気味にパナが呆れながら言ってくる。
「何があったのですか?」
武雄が目を細めて聞く。
「精霊の本です!」
ミアが言うとマイヤーは難しい顔をさせるのだった。
「お買い上げありがとうございました。」
武雄達が店を後にして宿に向かい始める。
「・・・所長・・・どうします?」
「どうもしませんよ。」
「報告・・・しますか?」
「誰にですか?」
「・・・陛下に・・・」
「して良いですよ。
買う気があるなら売る検討をしても良いですし。」
「よろしいのですか?
折角手に入れたのに。」
「あくまで陛下が欲しいならですが・・・まぁ。どんな精霊かはパナは言うつもりはないと言っていましたから、条件が合う者が居たら先に付けてしまうかもしれませんが、その時はその時でしょうね。」
「まともなら良いのですが・・・」
「この旅でも2人程会いましたね。
パナが言うには悪神や邪神らしいですけど・・・まともだった気がします。」
「まともだろうとも・・・災害を起こされたら大変です。」
「今までの感覚で言うと、精霊の良し悪しと言うより契約者が何を考えるかに依るのでしょうね。」
「その契約者が悪しき者だった場合が大変だから管理しているのです。」
「なるほど・・・
ならこれは王家専属魔法師隊に売り付けますかね。」
「それがよろしいでしょうね。」
「いくらが相場だと思いますか?」
「私も王都の陛下付きは長いですが、さすがに精霊の本となると扱った事はないですね。
所長はいくらにしようと思っているのですか?」
「金貨数枚でも良いんでしょうけど・・・
もしこれがパット殿下の精霊になったら・・・価値としてはいくらだと思いますか?」
武雄が本を持ち上げて聞いて来る。
「金貨数百と言った所でしょうか。」
「はぁ・・・価値は持つ者によって変わりますね。」
「そうですね。
で。所長は中を見たのですか?」
「ええ。読みましたよ。」
「・・・ちょっと待ってください。
所長は読めたんですね?」
「ええ。完璧にではないですが読めましたよ。
なので何となくこの本の精霊はわかっています。
ですが、パナが言わないと言うなら私も言うつもりはありません。」
「・・・どんな精霊ですか?」
「秘密です。」
武雄が楽しそうに言うのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




