第991話 第2皇子一家にご挨拶。5(楽器屋の依頼を依頼。)
「ほぉ。」
「・・・」
「はぁ・・・」
客間にはいつの間にかニール殿下付きの執事やメイドが集まって来ていて、ちょっとした発表会になっていた。
カリスは既に6曲を演奏していたが、どれも武雄でも知っている有名所だった。
「ふむ・・・カリス。あと1曲で今日は終わろう。」
ニールが終わりの時を促す。
「はい。畏まりましたニール殿下。
タケオ。何が聞きたいですか?」
「G線上のアリアはどうですか?」
「なるほど。
では。」
カリスが最後の1曲を弾き始めるのだった。
・・
・
「「「おおおおおぉぉぉぉ」」」
客間の全員が立ってカリスに拍手を送っている。
カリスは優雅にお辞儀をしている。
「ふむ。
さて。今日は終わりだ。」
ニールが執事長に声をかける。
「はい。殿下方。
では。皆さん。仕事に戻りましょう。」
「「「「はい。」」」」
「殿下方。キタミザト子爵様。
途中から同席させて頂きありがとうございました。
これにて失礼いたします。」
「「「失礼いたします。」」」
その場に残る執事以外の執事やメイド達が、一斉にニール達に頭を下げてから退出していくのだった。
・・
・
皆が席に座り新しいお茶を楽しんでいる。
「タケオ。マイヤー。時間を取らせてしまってすまんな。」
「いえいえ。良い曲があったら聴きたいと思う物ですよ。」
武雄が楽しそうに言うとマイヤーも楽しそうな顔で頷く。
「そうか。すまなかった。
で。タケオ。このお礼は何が欲しい?」
「・・・別にお礼はいりませんが・・・あ。お願いしたい事があります。」
「うむ。出来る限りの事はしてやろう。」
「はい。ありがとうございます。
実はこれを手に入れた際に製作工房と打ち合わせをしてきました。」
「・・・うん。それで?」
ニールが表情を硬めに頷く。リネットとクリナも真剣顔で聞いている。
「ウィリプ連合国のファルケ国領主邸がある街にあるこの問屋兼製作工房なのですが。」
武雄がメモを懐から取り出し机に置く。
「この工房に対し『部品を買いに行くのが面倒なのでアズパール王国に支店を出して欲しい』と依頼をしたのです。」
「う・・・うん。」
ニールがさらにぎこちなく頷く。
「いろいろ話し合ったのですが、結局はアズパール王国側では『楽器の販売と修理と特注品の製造、そして部品売りをする店』を出店する事に決めました。
そして向こうの工房の依頼で、この街に出店させて欲しいとの意向です。」
「なん」
「なんですって!?」
ニールが言葉を終える前にカリスが席を立っていた。
「カ・・・カリス?」
クリナがカリスの今までにない行動に驚く。
「クリナ。お願いです。
その工房の誘致をしてください。
大通りに面した場所とは言いません。ですけどちゃんとした場所を紹介してあげてください。
お願いします。」
カリスがクリナを抱きしめながら懇願する。
「え?はい?・・・お父さま。お母様・・・」
抱きしめられているクリナが首を両親に向けて聞いて来る。
「あぁ。カリスの頼みだしカリスが弾くとこれほど素晴らしく良い音・・・曲だったか。
になったのだ。これは街に良い活気が生まれそうだ。
無下にする事はないだろう。」
「そうですね。
クリナ。カリスと執事と一緒に、工房を誘致する物件を見て来なさい。」
「はい。わかりました。」
「クリナ。ニール殿下。リネットありがとうございます。」
カリスが深々と頭を下げる。
「ふむ。
で。タケオ。今どんな感じなのだ?」
「ええ。
商隊を通してこちらの不動産屋に問い合わせをして店探しをしているそうです。
早ければ2か月後に引っ越したいとの事です。」
「そうか・・・タケオは買うか?」
「私は音楽は聴くのが好きです。
ですが、楽器の演奏は出来ませんね・・・なんて言うのでしょうか・・・そう。指に針金が入ったように滑らかに動かないんですよ。
私には楽器の演奏は向いていません。」
「そうか。
あとのカリテス達は買いそうだな。」
「はい。あとはうちの部下が少し部品を買うでしょうね。」
「タケオ。さっき言っていましたが・・・部下の方がヴァイオリンを持っているのですか?」
カリスが聞いて来る。
「ええ。テトの契約者で私と同郷なんですけど、たまたま持って来ていたそうです。
たまに弾いているので、部品が欲しいと依頼されたんですよ。」
「音楽家なのですか?」
「違いますね。
部活でやっていたそうです。」
「なるほど・・・タケオ。このお土産に対して私に何か依頼がありますか?」
「そうですね・・・私も有名所は知っているのですが、部下に弾いて欲しいと思っています。
まぁすぐに出来る訳はないのですけどね。
とりあえず譜面を作って頂けませんか?」
「なるほど・・・わかりました。
それとこれは普及させても良いのですか?」
「構いません。
向こうの工房と話はしています。
楽器の生誕の地が発展するわけでないと言っていますし・・・向こうの本心としては音楽を通じて、人々の生活を豊かにさせたいと思っています。
なのでこちらでの発展は向こうも受け入れるでしょう。
それと商売としては、楽器の進化を見つつ楽器の統一性を出し、楽器の製造をある程度独占する事で工房の維持をしたいと考えています。」
「向こうに利益があるのだな?」
ニールが考えている。
「はい。楽器を統一させるというのは芸術面にある程度良い影響があるでしょう。
それに生産力が奴隷ですので、こちらで作るよりも安価に出来るというのもあります。
ですが・・・」
「真のヴァイオリンが出来るとは思いません。
物作りは技術も大事ですが情熱も大事です。」
カリスが武雄の後の言葉を代弁する。
「そうですね。
そして・・・カリスがいるこの街の工房は、本店よりも腕が良くなると踏んでいます。
知識がある者が注文を付けて来て、実際にどんどん良い物が出来上がっていくんです。
そんな職人冥利に尽きる店の職人が本国に帰りますかね?」
「・・・タケオ。売れると思うか?」
「そうですね・・・子供達の手習いにしてみますか?」
武雄がクリナを見ながら言う。
「なるほど・・・クリナを使うか。」
「はい。
アン殿下にもお願いした方が良いかもしれませんね。」
「ふむ・・・なるほどな。
王家の子供達がし出せば豪商達が噂をするだろうな。」
「はい。
出来る出来ないは資質もありますので、ある程度の手習いでよろしいのではないでしょうか。
それにアン殿下とクリナ殿下が陛下の前で演奏すれば、お小遣いはくれると思いますよ。」
「なるほど。
クリナ。少し始めて見るか?」
「私ですか?
んー・・・カリス。出来ますか?」
「タケオの言う通り手習い程度からでしょうが・・・弟君の為にやってみますか?」
「あ!そうですね!
弟に姉の凄い所を見せないといけませんね!」
クリナがやる気になるのだった。
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