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前世知識で辺境を救った令嬢ですが、能力が王子にバレて囲い込まれました  作者: クロネコ


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差し込んだ光(アルヴィン視点)

最初に報告を受けた時、私は笑った。


「辺境伯領の税収が倍増?」


机の上に置かれた報告書は、誇張にしては数字が正確すぎた。


三年で収穫量三割増。

疫病による死亡率半減。

石鹸の普及。

簡易製紙の量産。


あり得ない。

正直言って、夢物語だと思った。


辺境は貧しく、寒く、輸送も困難だ。

そんな土地が急激に成長するなど、普通は不可能。


だがしかし、立場上確認する義務もある。辺境伯が嘘をつくとは思っていないが、虚偽の申告は立派な犯罪だからだ。


「理由は?」


「それが、その・・・」


何故か諜報官は言いにくそうにしている。そのままを述べればいいのだ。やはり何かあるのか?


「どうした、言いにくいことか?」


「えっと、原因はご令嬢だそうです」


やっと口を開いた諜報官はそう答えた。

正直何を言っているのかと頭が混乱した。


「・・・は?ご令嬢?」


「はい、レティシア・フォン・ルーヴェルト。現在十二歳のご令嬢です」


私は目を細めた。子供?それも、私と対し変わらぬ歳の?これには流石の私も飲み込めなかった。


「さすがに、誇張ではないのか」


「複数の証言が一致しております」


諜報官から帳簿を受け取りページをめくる。


ふむ、確かに不正の痕跡はない。

粉飾も見当たらない。


つまり――本物。


面白い。


思わず笑みが溢れたが、無意識だったため、本人は気づいておらず、諜報官は驚いていた。


あの殿下がご令嬢にご興味を、と。


ーーーーーーーーーー


あの報告書を読んだ後、私は視察を名目に辺境へ向かった。どうしてもすぐに会いたかった。こんなことを成し遂げたのはどんな女性なのか?


雪解け水の流れる土地。

冷たい空気。


そして、そんな中、彼女はいた。


質素なドレス。

淡い銀の髪。

落ち着いた瞳。


第一印象は――静かな子供だった。落ち着いているとも取れるが、流石に人見知りなだけだろうと。


だが違った。


水路の図面を前に、彼女は迷いなく指摘する。大の大人達に対してだ。これはお遊びではない。


「ここは流速が速すぎます。沈殿槽を増やすべきです」


周囲の大人達が頷く。普通は子供に言われたことなんて、真剣に取り組むことはないだろう。しかし、彼らに迷いなど微塵も感じられなかった。


そして、彼女の説明は簡潔で、理路整然としていた。


私はその場では何も言わなかった。もっと彼女のことが知りたい。それなら黙ってみている方がいいだろうと考えた。


ただただ観察した。


目の動き。

思考の速さ。

言葉を選ぶ間。


すべて計算している。一つ一つに意味があった。これは、学院の教授など、偉大な先駆者達に似ているとさえ感じた。


子供特有の衝動がない。


ここまでくると、私ももう黙っていることができなかった。彼女のことが知りたい。どんなふうに考えているのか知りたい。それに尽きた。


「どうやって思いついた?」


私がそう問えば、彼女はすぐに答えた。こちらに目を向けることもなく。彼女にとって私など興味が無いのだろう。


「本で読んだ知識です」


嘘だ。すぐにわかった。だが、完全な嘘ではないのか?よくわからないな。


何かを隠している。それは直感的にわかった。しかし、ここで問いただすことでも無い。


たった一言だけだが、彼女と話し、私は確信した。


この少女は、常識の外側にいる。私などでは到底辿り着けぬ所に。


ははっ、面白い。


私の興味はさらに深まることとなった。


ーーーーーーーーーー


辺境への視察を終えた私は、すぐさま彼女を王都へと招いた。彼女を王都へ招いたのは、もちろわ囲い込むためだ。


力は管理しなければ危険だ。権力に胡座をかいていては、いつか痛い目に合う。


放置すれば、他国に奪われるか、貴族に利用される。


だから私は決めていた。彼女に限らず、有用なら手駒にする。従わぬなら、遠ざける。


ただ、それだけのことだ。


そう、今回だってそう考えていた。


ーーーーーーーーーー


謁見の間。


王城のしかも謁見の間。大体の御令嬢は緊張してオロオロするか、王子の私に媚を売るような不躾な視線を送ってくるようなご令嬢しかいない。しかし、彼女はそのどちらにも当てはまらなかった。


私の視線を真正面から受け止める。

どうやら恐れはあるように見える。

だが、彼女は視線を逸さなかった。


「どうやって思いついた?」


私は、先日の質問を再び問う。


「本で読んだ知識を応用しただけです」


答えはわかっていた。前回と同じ答えが返ってくることは。私は、彼女を見る。


全く隙がない。


ふっ、面白い。


「君は危うい」


そう告げれば、混乱するかと思ったが、どうやら彼女も理解しているようだ。

力が敵を生むことを。それでも彼女は、はっきりと言った。


「殿下が国を良い方向へ導いてくださるなら、味方です」


彼女の目には、言葉には、迷いがない。そこに打算の匂いがない。


その瞬間、少しだけ私の計算が狂った。


ーーーーーーーーーー


そして市場での場面。


私は彼女を試していた。


物価の話題を振れば、彼女は即座に異変を見抜いた。


鮮度の低下。

輸送中の廃棄。

仲介の多さ。


彼女と話してみて、私は理解した。

彼女はしっかりと“構造”を見ている。


表面ではない。


原因を辿り、仕組みを解体し、理解する。


とても十二歳の思考ではない。


だが、それ以上に私の心を揺らしたのは、最後の言葉だった。


「冬を越せない家族もいました」


あの声、表情。


さっきまでは淡々と語っていた彼女の感情の変化。散々理屈を語った後に来る、感情。


彼女は数字を語りながら、最終的には人を見ている。


私は、王族だ。


感情だけでは国は治められない。だが理屈だけでも駄目だ。


その両方を持つ者。


それを、私はずっと探していた。


ーー欲しい。


政治的にではない。私の隣に。


それに気付いた瞬間、思わず苦笑した。


愚かだな。王族が感情で動くな。


ーーーだがもう遅い。


彼女が疑いの目で私を見るたびに、楽しいと感じてしまう。


簡単に落ちないところが、なおさら。


いつもの様に、囲い込むつもりだった。


だが今は違う。逃げ道を用意しながらも、私に逃がす気はない。


彼女が望まぬなら、私は奪わない。


だが望むなら――


全てを差し出してもいい。


ーーーーーーーーーー


執務室に戻り、私は報告書を閉じた。


「レティシア・フォン・ルーヴェルト」


小さく名を呼ぶ。


これは政治的判断ではない。


私個人の決断だ。彼女は、私の未来に必要だ。


王太子としてではなく。アルヴィンとして。


私は、初めて理解した。


手駒にするつもりだった少女に。自分が、落ちかけていることを。


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