↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】婚約破棄された公爵令嬢は、厨房で静かに生きていくつもりだったのに  作者: 京野きょう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/41

第7話|次に来た時には、って何ですか?

 翌朝。


「……落ち着きましょう、私」


 鏡の前で、自分に言い聞かせる。


 たかがお茶をしただけ。

 たかがパンを渡しただけ。


 それなのに、昨夜から妙に胸がそわそわしている。

 そのせいで、ほとんど眠れなかった。

 目を閉じては開けて、寝ては起きてを繰り返して。

 ようやく寝れる生活になったばかりなのに!


 ──何しに来たのかしら。


 そればかりが頭を巡る。


「ロゼリア様、本日は少しお顔色が……」

「え!?そ、そう?いつも通りよ!」


 アメリーの指摘に、慌てて背筋を伸ばす。


 そうよ、いつも通り。


 まだ申し込みを受けただけ。

 それを受けたわけでもないわ。


 昨日の訪問も、きっと形式的なもの。

 そこに感情なんてあるわけないもの。


 ただそれだけ、なのに。


「……また突然来られたらどうしましょう」


 ぽつりと零れた本音に、アメリーがにやりと笑う。


「お迎えする準備を万全にしておきましょうか?」

「違うわよ! そ、そういう意味じゃ……!」


 否定しながらも、心の奥がちくりと疼く。

 期待して裏切られるなんて──


 二度と、あんな思いはしないと決めたのよ。


「……でもそうね。 また突然の訪問であっても、きちんとお迎え出来るようにしておいてくれる?」

「もちろんいたしますが──」


 アメリーは少し考えるように小首を傾げる。


「ロヴァルド殿下の厨房での様子、リラックスされてるようでしたけど……」

「そ、そうなの……?」

「玄関までお見送りしましたが、威圧感もあまりなかったような……」

「で、でも! 厨房にお招きするなんて不敬をし続けるわけにはいかないわ。 もし次があれば、きちんと応接室へ──」


 カチャリ。


 そう音がした方を見ると、外へ繋がる勝手口のドアが開く。


「──ロヴァルド殿下……」

「すまない、主人からこちらを案内されたものでな」

「わ、私、お茶の用意をしてきます……! ロヴァルド殿下、ごゆっくり──」


 そう言い捨て、足早に内扉からパタパタと出ていくアメリー。


「あっ、ちょ、アメリー!?」


 ……逃げたわね!?

 もう!あとでお説教よ!


「し、失礼いたしました、ロヴァルド殿下」


 ドレスの裾を掴み、挨拶をする。

 まだ料理前で良かった……。


「……今日は三角巾をしていないんだな」

「え?」

「いや、なんでもない」


 昨日のみっともない姿を覚えられていたなんて……。

 早く忘れて欲しいわ。


 そこで私はハッと気が付く。


「父が応接室ではなく、こちらを案内したなんて申し訳ありません」


 お父様も、王太子殿下に対して何を考えているのよ!


「私が…… いや、何でもない」


 そう言って、ロヴァルド殿下は昨日と同じように窓際へ視線を向ける。


 まさか。


「あの…… 良ければお茶をご用意いたします」

「……ああ」


 昨日に続き、今日もお茶をしにした?

 そんなわけないわよね。


 ──もしかして、婚約を取り消しに。


 考えられなくもないわ。

 どう考えても、昨日は失礼だったもの……。


 不安を胸に抱えながらお茶の準備を始めると、不意に聞かれる。


「邪魔だったか?」

「え? そんなこと──」


 どうしてそんなことを?

 それに邪魔なんて、王太子に思う人なんていないわよ。


 ……あ。


 今日の料理の材料が、作業台に散らばったまま。

 サーッと血の気が引くのが分かる。


「散らかっていて申し訳ありません!」


 声が少し裏返った気がする。

 落ち着きなさい、私。


「昨日のパン──」

「は、はい!」


 ……やっぱり良くなかったわよね、王太子殿下に手作りのものなんて。

 でもあの時の私は混乱していて、普段ならそんなこと絶対に──


「……まかった」


 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。


「え?」


 思わず聞き返してしまう。

 "まかった"ってなによ?


 ロヴァルド殿下は、窓の外を見たまましばらく黙っていた。

 その横顔は相変わらず読めない。

 やはり、怒られるのかしら──


「……うまかった」


 …………。

 えええええ!?


 怒られる覚悟をしていたのに。

 まさか、美味しいと言ってくれるなんて。


 ……この人、実はいい人なんじゃないかしら!?


「お口に合ったなら良かったです。 王太子殿下に手作りなどお渡しして、失礼ではなかったかと…… 不安でした」


 平静を装いながら、そう告げる。

 良かった……。


 そう言うと、ロヴァルド殿下はわずかに眉を動かした。


「……今日は焼いていないのか」

「え?」


 この人、パン好きなのかしら?


「も、申し訳ありません。 本日は焼いていなくて──」

「……いや」


 室内に沈黙が流れる。


 ど、どうしよう。


「えっと…… パンがお好きなのですか?」


 ってしっかりして、私!

 王太子殿下に聞くようなことじゃないわよ!


「そういう訳ではないが……」


 ほら、違うじゃない!

 きっと気遣って聞いてくれただけだというのに、私ときたら……!


 ……でもロヴァルド殿下が何を考えているのか、本当に分からないわ。


 頭の中でぐるぐるしていると、チラと作業台を見るロヴァルド殿下に気付く。


 作業途中に見えたから?

 それとも、もしかして──


「ロヴァルド殿下。 もしよろしければ、何かお作りしても……」


 ピクンと反応したように見える。


「いや……」

「す、すみません、私ったら……!」


 やっぱり違ったわ!

 は、恥ずかしい……!


「今日はもう出なくてはいけないのでな」

「そ、そうなんですね……」


 良かった、無事に終われそうね。

 ホッと胸を撫で下ろす。


「……次に来た時には、頼む」


 ……次?

 ……頼む?


 それはつまり。

 また来る、ということ……よね?


 ええぇ!?どういうことなの!?


 胸のざわめきは今日も消えそうにない。

読んで頂きありがとうございます!

現在アイリス大賞にエントリーしています。

更新頑張りますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。