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【完結】婚約破棄された公爵令嬢は、厨房で静かに生きていくつもりだったのに  作者: 京野きょう


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第21話|浮かれてる場合じゃありませんでした

 エルフォルド家から隣国アーシュヴァルツ王国へ、正式に婚約の返事を出した。


 これで正式にロヴァルド様の婚約者に……と言っても、まだ契約の儀は行われていない。

 だから実感としてはあまりないけれど……。


 それでも──


「大好きって言っちゃった……しかも自分から抱きついて……」


 きゃあああっ!


 ベッドに寝転んでは思い返し、足をバタつかせながら枕に顔を埋めて叫ぶ。

 それをずっと繰り返していた。


「はぁ……恥ずかしい……」


 でも、こんな気持ちは初めて。

 素直に感情を出す。

 気恥ずかしいけれど、それがこんなに気持ち良いものだったなんて……。


 キリギルス殿下とは、恋愛関係があったとは言えなかった。

 小さい頃から婚約者と決められて、ずっと一緒には居たけれど……。

 自由奔放な殿下を、窘めるようなことが多かった。

 主人が道を間違わないように。

 でも殿下は、どこかで私を疎ましく思っていたのだろう。


 従順そうで愛らしいリリア様に惹かれたのも分かるような気がする。


 今思えば、出来の悪い弟、良くいえば幼馴染に近い感情だった。

 だからこそ婚約破棄は悲しくはなかった。

 ……王太子としての振る舞い方にガッカリはしたけれど。


 そして前世の記憶を取り戻し、料理が好きだったことを思い出した。

 この世界で生きていくなら、また料理人もいいなって思い始めていた。


 なのに──


「はぁ……もう重症だわ」


 枕を抱えながら天井を見つめる。

 次は何を作ろう。


 ロヴァルド殿下の好きなものを作りたい。


 好きな人のために、何かをしたい。

 それを考えるだけで、こんなに楽しいなんて。

 作って食べてもらって……それから──


「きゃあああ!」


 ──その時だった


 コンコン。


 妄想にふけっていると、突然ノックの音が響く。


 ……き、聞かれてたのかしら。


「失礼します、ロゼリア様。あの……王城から使者の方がいらしていて……」

「……え?」


 ドクンと心臓が跳ねる。

 ……王城?


「何でも早急に城へ来るようにと……」

「城へ? 何かしら……」

「旦那様が対応していますが、対象はロゼリア様お一人とのことで……」

「私のみ……?」

「ええ……」


 アメリーが、言葉を選ぶように一瞬だけ視線を落とす。


「はっきり申し上げますと……揉めています」


 お父様……。


「こんなところで揉めない方がいいわね、すぐに行きます」



 入室すると、父と使者が対面していた。

 お父様は内心穏やかではさそうな、そんな表情をしている。


「ロゼリア様をお連れしました」

「ご機嫌よう、ロゼリアでございます。私に何かご用があると聞きましたが……」

「ロゼリア様、お久しぶりでございます」


 彼はキリギルス殿下側近の、クロード。

 幼い頃、何度か顔を合わせたことがあり、一緒に遊んだ記憶もある。

 昔から真面目で忍耐強く、どこか苦労性な性格をしていた。


 そんな彼だから、側近としては向いているのかもしれない。

 殿下に振り回されている姿を見かけることも多く、私以上に苦労しているのでは、と感じたこともあった。


 ……気の毒に思ったことも少なくない。


「クロード……お久しぶりね。それで私に用とは?」


 今も振り回され続けているのだろう。

 ……だからといって、手心を加えるつもりはないけれど。


「それが……ロゼリア様をお連れするように、と」

「理由を聞かせてもらえるかしら」

「……申し訳ありません。詳しいことは何も……」


 彼は困ったように視線を伏せる。

 ……本当に何も知らされていないのね。


「理由もなしに呼び付けるなんて、まだその様なことを……」

「ええ……申し訳ありません」


 今更、理由もなしに私を招くなど考えにくい。

 ……ではなぜ?


 きっと、シュークリームの件。

 恥を欠かされた、そんなところでしょうね。


「分かりました、行きましょう」

「ロゼリア様!?」


 勝手に身体が動いたのか、アメリーが静止の声を上げる。

 父は苦虫を噛み潰したような顔をしていて、今にもクロードに飛びかかってしまいそう。


「お父様、心配しないでください」

「ロゼリア……」

「王族を無下には出来ない、お父様ならご存知ではありませんか。まずは用件だけでも聞きに行かなくてはなりませんし」

「だが……!」

「私がいうのも憚られますが……ロゼリア様の御身は保証いたしますので」

「その言葉、しかと聞いた。頼むぞ、クロード」

「ありがとう、クロード。……それでは行きましょう」


 胸の奥に嫌な予感を抱えたまま、私は王城へ向かった──

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