第2話|ポタージュで父を攻略しました
──何を作ろうかしら。
久々の調理。
というより、転生してから料理とは無縁の世界。
「上手く出来るかしら……」
毎日、時間になると食卓には綺麗な料理が並べられる。
もちろん美味しいし、感謝もしている。
そんな日常が嫌だとは思ったことがない。
……けれど、思い出してしまったから。
野菜を洗い、皮を剥き、鍋を用意する。
包丁を持つ手が震える。
──ストン
トントントンと、リズミカルに野菜を刻む。
「良かった……。ちゃんと手は覚えててくれたわ」
令嬢となった今、前世の技術が受け継がれている保証はなかった。
──ぐすっ……
「玉ねぎって目が染みるわね」
誰もいないのに、つい誤魔化してしまった。
気を取り直して。
玉ねぎとカボチャを刻み、塩少々を振ってバターで炒める。
そこに水を加え、しばらく煮込む。
電子レンジがあれば早いのだけど……。
ないものは仕方ないし、手間ひま掛けるのも悪くないわよね。
カボチャが柔らかくなったら出来るだけ潰す。
そこに牛乳を入れて馴染ませたら、濾してなめらかに。
そして最後に、沸騰しない程度に温めて直して──
「……出来た!」
カボチャのポタージュ。
夏には冷製、冬には温かいまま、季節を問わず親しまれていたスープ。
スプーンで一口、くぴりと味見。
「ん、美味しい!」
これならきっと──
その時、厨房のドアが勢いよく開く。
「ロゼリア様! 何なさってるんですか!」
アメリーの叫びが響き渡る。
「あ。」
わ、忘れてた……!
「え。」
アメリーは目をぱちくりさせて、私とポタージュを交互に見ている。
「ご、ごめんなさい、アメリー。これは、その……」
「ロゼリア様…… なぜ料理を……?」
「えーと、これはその、あの……。 あ! 味見をしてくれないかしら!?」
アメリーは現状がまだ掴めてないようで、言葉に詰まっている。
私は私で、どう誤魔化していいのやら、絞り出した言葉は「味見」だった。
「……これ、ロゼリア様が作られたんですか?」
「ええ、カボチャのポタージュよ」
「お腹が空いたなら、仰ってくだされば……」
ポカンとしつつも、コクリとポタージュを飲むアメリー。
「………!」
「ど、どうかしら……?」
「美味しい…… ロゼリア様、とても美味しいです!」
「本当?」
「こんなに美味しいスープ、初めてです……! それも……ロゼリア様が作られたなんて……」
「ホントにホント……?」
「お世話じゃありません!」
「良かった……」
アメリーの言葉に、胸の奥にじんわりと温かいものが広がる。
前世で、誰かに「美味しい」と言われたあの感覚と、同じだった。
……忘れていたと思っていたのに。
私は、やっぱり料理が好き。
もっと料理がしたいわ……。
──コンコン
「どうぞ」
「お父様、失礼致します」
「おお、どうしたロゼ」
「私のせいで忙しくなってしまいましたよね…… ごめんなさい」
「何を馬鹿なことを。 お前に落ち度は一つもないのだからな」
「ありがとう、お父様。 ……お疲れかと思いましてこちらをお持ちしました」
アメリーが持つ盆を手のひらで示す。
そしてアメリーが盆に乗せた皿を、応接テーブルへと置く。
「ん?腹は減ってないんだが…… ロゼの気遣い、頂くとしよう」
「ふふ、お父様ったら」
「どれ……? 美味い! こんなスープ初めてだ……!」
「……良かったぁ!」
あっという間に平らげ、名残惜しそうに器を見つめた。
「料理長に伝えなくてはな。 定期的に出して欲しいと──」
「あら、嬉しいお言葉ですわ」
「ん?ああそうだな……?」
ニッコリ微笑む私。
その後ろにいるアメリーは少々気まずい表情をしている。
それを見た父が訝しげな表情で口を開こうとするのを遮るように──
「お父様、美味しかったのですね?」
「あ、ああ……」
「また食べたいと、そう仰いましたよね?」
「あ、ああ……」
ずずいっと父の方へ身を乗り出しながら、問い掛ける。
そんな私の勢いに飲まれ始める。
「お父様、お願いがあるんですの……」
「お、お願い?」
「はい! 私専用の厨房を作って下さいませ!」
「な───」
「1階に空き部屋がありますよね?」
「なにを───」
お父様が混乱しているうちに、このまま畳み掛ける!
「私が厨房に行くと料理人達が気を使ってしまいますし…… ね! お父様、いいでしょう!?」
「う、うむ……?」
「わあ! ありがとう、お父様! 大好き!」
「お、おお……」
そして抱きつき、感謝を述べる。
父は私には甘い。
混乱しつつも一度了承したことに対して、無下にはしない性格を利用しちゃった。
ごめんね、お父様。
後ろからアメリーのため息が聞こえる。
こうなるだろうと予測していたようだ。
「……旦那様は、ロゼリア様に甘すぎます」
「いや、勢いに押されたというかなんというか……」
──こうして、私はついに自分専用の厨房を手に入れた。
この場所で、たくさんの“美味しい”を作っていこう。
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