防犯カメラは全てを見ていた! 前編
内容をしっかりしたものにしようと頑張り過ぎた結果、投稿まで2週間がかかってしまいました(^^;)
時間があればプロローグから読んで頂ければ幸いです。
よろしくお願いします。
モニター上で「5月21日午前1時28分」と時間が変わった瞬間に現れた軽乗用車のせいで、4人は緊張感と興奮が入り混じった異様な雰囲気に包まれていた。
「ひとまず深呼吸をして落ち着きましょう」
おそらくは自分自身を落ち着けたかったからかもしれない。無言で食い入るようにモニターを見つめる4人を代表するように貴格が提案すると、
「そうですね」
「了解です」
「わ、わ、分かりました」
残りの3人が一斉に同調した。
「それでこの後はどうしましょうか?」
4人で一斉に深呼吸をした後、真っ先に口を開いたのは山中だった。
「とりあえず再生速度を1倍に戻して、このまま続けましょう。まだしっかりと確認していないので、この軽乗用車に乗っていた人があの足跡の主であると決めつけるわけにはいきませんが、深夜1時台に船着き場にやって来るのはさすがに怪しいです。この軽乗用車に乗っていた人がここで何をしていたのか確認する必要性があると思います」
「そ、そうですね。そうしましょう!」
深呼吸をして冷静さを取り戻した貴格の提案に、少し興奮気味の山中は素直に応じた。そして、再生速度を「1倍」に変更すると映像の逆再生を再開させた。
「そういえばこの映像で見えているのは運転席側ですかね。ヘッドライトが右側を向いていますし」
「そうだと思います。あ、ヘッドライトが消えました」
貴格が山中に答えている最中に軽乗用車のヘッドライトが消え、すぐに運転席側の扉が開き誰かが降りてきた。
「男性? 女性?」
「遠いのではっきりとは分からないですね」
山中と貴格が再び言葉を交わしている間に、逆再生になっている映像の中では性別不明の人影が船着き場の方へ向かって後ろ向きに走り始めた。逆再生されているから動きにかなりの違和感があるけれど、目の前で繰り広げられている光景のインパクトが大きいからか、それについて誰も何も言わなかった。
「あれ? あっ! 2人いる!」
運転席から現れた人影が軽乗用車の前を通り過ぎた時に山中が突然大きな声を上げた。
「おそらく助手席側のドアから出てきたのだと思います」
そんな山中を落ち着かせるように貴格は可能性の1つを口にした。
2人が話している間、映像の中の2人分の人影は、後ろ向きに走りながらスロープの方へ向かい、そのまま真っすぐに下っていった。防犯カメラからスロープまで距離はあったものの、2人がスロープの中央付近を歩いて下りて行ったことは防犯カメラの映像でしっかりと確認することができた。
スロープの奥へ2人分の人影が消えた後も、どうなるのだろうか、という表情で4人はモニターを食い入るように見続けていた。
「慌てているみたいでしたけど、何をしていたのでしょうか。気になりますね!」
「これだけでは分からないですね。この後に何が起きるか見逃さないようにしましょう」
ただその様子は少し違っていて、何が起きたのか見当がついていない山中が興奮を隠しきれていないその一方で、何が起きたのか当たりをつけている防犯部の3人は、極めて冷静な様子で事の成り行きを見守っていた。
2人の人影が後ろ向きにスロープを下っていってから1分ぐらいが経過した時、再びスロープに人影が見え始めた。
「来ましたよ!」
それを見た山中が声を出したその一方で、防犯部の3人は無言のままだった。
スロープに見えた2人分の人影は、相対しながら一歩ずつ移動するように進んでは止まりを繰り返しながらスロープを上ってきた。この動きは防犯部3人が足跡から解釈した人の動きとほぼ同じだった。
(間違いない。この2人だ)
光一がそう思ったタイミングで、防犯カメラが2人の人影の全体像を捉えた。その瞬間、
「あっ! えっ、えっ、えっ、ど、ど、どういうこと!?」
驚く山中の声が会議室全体に響いた。
「船着き場にいた男女の思念はこの2人が起源と考えて良さそうですね」
「うん。夏奈もそう思う」
「ということは、俺が調査の時に聞いた男女の声の主はこいつらか」
極めて冷静に映像を見ていた防犯部の3人は、呟きながら意思統一を図っていた。
「あなたたちはどうしてそんなに落ち着いているんですか!?」
そんな3人に向かって声を荒げる山中の声が再び会議室に響いた。落ち着き払う3人を「理解できない」と言いたそうな表情で見ていた。
「これは大変なことなんですよ!」
事の重大さを防犯部の3人に必死に伝えようとする山中の傍らにあるモニターには、相対する2人の人影が、力なく横になる1人の人影を抱えながら、ゆっくりと一歩ずつ軽乗用車へ向けて移動する様子が映し出されていた。
「山中巡査部長。まずは落ち着きましょう」
「これが落ち着いていられますか! もしかしたら死体遺棄事件の可能性があるんですよ!」
宥めようとする貴格の冷静な声は、山中の耳には届かなかった。
「刑事一課長を呼んできます! こうしてはいられない!」
その言葉と共にパイプ椅子を倒しながら立ち上がった山中は、会議室のドアを勢いよく開けて走っていってしまった。取り残された防犯部3人は、走って会議室を出ていった山中の後ろ姿と、その後に勝手に閉まるドアの様子を黙って眺めることしかできなかった。
「しばらくはこの続きを見ましょう。あと少しすればてんやわんやになってゆっくりと見ることができなくなりますし」
山中がいなくなった後、何をすれば良いのか分からなくなっている光一と夏奈を動かしたのは、やはり先輩である貴格の言葉だった。
「そうですね」
「わ、わ、分かりました」
モニターを再び注視し始めた貴格に倣い、光一と夏奈も映像の確認を再開し始めた。
映像の逆再生が続いているモニターの中で相対する2人は、1人の人影を抱えたまま1歩ずつ移動してスロープを上りきると、軽乗用車へ向かって移動し始めた。そして軽乗用車にまでやって来ると、何かを避けるように抱えていた人影を地面に下ろした後、手を添えながら開けたトランクに地面に下ろした人影を入れ込んだ。
「うーん……よう……」
「まず……ましょう」
そこまで映像を見た防犯部3人の耳に、階段を忙しなく上ってくる複数人の声と足音が聞こえ始めた。その瞬間、夏奈の体がビクッと反応したのが光一の視界に入った。
「夏奈さん。これから起きることできつくなりそうだったら僕の後ろに回ってください」
「え、あ、は、はい。すみません」
貴格も夏奈の反応を目にしていたらしく、さりげない配慮をしてみせると、夏奈が申し訳なさそうな表情をしながら答えた。
「お、俺の後ろも空いてますから」
「あ、うん。あ、ありがとう、光一君」
自分の実績を積み上げるためなら誰かを贔屓しても構わない、という特徴を山中から聞いていた光一は、これからやってくるであろう刑事一課長を警戒していた。なぜなら、認知していなかった死体遺棄事件を解決に導いたという実績を作り上げるために、刑事一課長が自分たちを贔屓したり利用したりするのではないか、と考えたからである。夏奈にとって警戒すべき「山野」がいるのに、さらに刑事一課長の思惑に、初対面の人と接することを苦手としている夏奈を巻き込むわけにはいかない。そう考えた光一は、貴格と一緒に夏奈のための「防波堤」となることを心に決めたのだった。
「止めましょうか」
遠くから聞こえていた声が近くから聞こえるようになっていたのを察知した様子の貴格は、何かを諦めたような表情を見せながら、マウスを使って停止ボタンをクリックした。動画の中の2人は手を添えながらトランクを閉めようとする体勢で止まってしまった。
「刑事一課長を連れてきました!」
山中の言葉と共に会議室のドアが荒々しく開くと、そこには5人の男性が立っていた。
(前にいるのは山中さんと後藤さんで、後ろの人は確か浜田さんと古川さんだけど、真ん中にいる男性は……)
五者五様の険しい表情を見せる5人の男性の中にいた、初めて見かける50代前半ぐらいの1人の男性。身長は貴格と同じぐらいで短めのスポーツ刈りという髪型に、黒色のスラックスと白い長袖のカッターシャツという服装は普通のサラリーマンのように見えるけれど、銀縁眼鏡の奥に見える鋭い眼光に、あの人が刑事一課長か、と光一は考えた。
(そういえば山野っていう人がいない。山中さんの話は本当だったのか……)
「あそこに設置したので確認しましょう!」
山中を先頭に、会議室の入り口から貴格たちがいる場所へ急ぎ足でやってくる5人の中に山野がいなかったことは、光一を大きく安心させた。もし仮に、自分たちへ向けてグイグイやって来る5人の中に山野がいれば、どれだけ夏奈のために「盾」となる決心をしていたとしても、守り切れる自信が無かったからである。
5人が近くまで来ると貴格たちはモニターの前から身を引いた。もっと正確に言えば、5人が放つ威圧感のようなものを感じ取った様子の貴格が、右手で光一や夏奈に引くよう促したのである。
「すみません! 防犯カメラを確認するので場所を開けてください!」
モニターの前にやって来ると、山中は前もって身を引いていた3人をさらに押し退けた。そして、
「課長はこちらへ」
「ちょっと失礼するよ」
「後藤部長はそっちに座って」
「あいよ」
貴格へ一言詫びを入れた課長らしき男性をモニターの真正面のパイプ椅子に座らせた後、肘の辺りまで腕捲りをした白色のカッターシャツを着る後藤を座らせた。そして、その後ろに古川と浜田を並ばせると、山中はさっきと同じ席に座りマウスを手にした。
「古賀さん。動画が止まっていますが何か意図が?」
「いえ。全く無いです」
「それでは、この動画に出てきた2人が船着き場にやって来た時間から通常再生をしたいのですが良いですね?」
「どうぞ。お任せします」
抵抗する気配の無い貴格から動画を操作する権利を強奪した山中は、動画を動かすスライドバーにマウスのポインタを持っていくと、
「えっと……ここら辺で良さそうだな。それでは再生します」
少し時間をかけて再生を開始するポイントを探し出し再生ボタンをクリックした。
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