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【第2章完結】光一くんのピアスはプライスレス【第3章執筆中】  作者: 御乙季美津
第1章 光一くんの初体験はプライスレス
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現場鑑識で真実を掴め! その1

一週間以内に投稿をすることができました。

今回から数話は現場鑑識が中心になります。

時間があればプロローグから読んで頂ければ幸いです。

よろしくお願いします。

 検証が始まって間もなく、遠藤が大川中央署の鑑識係である古川を呼んだ。


「そうだった! 古川!」

「はい!」

「立会人の確保を頼む」

「了解です!」


 遠藤に頼まれた古川は、シューズカバーを外すと来た道を戻ってどこかへと走っていった。


 遠藤が古川に確保するよう依頼した「立会人」というのは、警察が検証を行う時に適正に行われたということを担保するために、立ち会ってもらう警察関係者ではない人のことである。


(古川さんは前もって目星を付けていたのかな。さすが仕事が早いな)

 迷いの無い行動をする古川を見た光一は、その仕事の素早さに感動を覚えていた。


 それから数分後。古川はコンビニの制服を着た中年男性を連れて戻ってきた。


「立会人の方をお連れしました。近くのコンビニのオーナーで、多岐川さんとおっしゃいます」

「大川中央署の遠藤といいます。お忙しいところ申し訳ありません」


 連れて来られたその男性に、身分証を見せながら遠藤がまず一言声をかけた。


「あ、い、いえ。大丈夫です」


 余程のことが無い限り、日常生活の中で警察官に身分証を提示される機会は無いはずである。多岐川にも今までにそういう経験が無いようで、口では「大丈夫」と言ってはいるけれど、傍目から見て分かるほど緊張しているようだった。


「えーっと、古川から説明があったとは思いますが、これからですね、ここで発生していたと思われる事件についての現場検証を行うので、わたしたちがこれから行うことへの立会をお願いします。また、証拠品を採取する時に写真を撮影するのですが、その時に写真に入ることをお願いする場合があります。それは大丈夫ですか?」

「え! えっと、それは、たくさんですか?」

「そこまでたくさんではありません。証拠品を採取する場所は限られていますので」

 そう言うと、遠藤は貴格の方に視線を移した。すると、貴格は遠藤が何を意図しているのかを分かっていたかのように笑顔で頷いた。

「わ、分かりました」

「それでは、よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします」


 説明を終えた遠藤は、立会人である多岐川に笑顔で声をかけた。多岐川の緊張をほぐそうとしているんだな、と光一は遠藤の配慮に好感を抱いた。


「それじゃ、浜田部長。まずは、ここにある塗膜片の採取を」

「了解です。それでは多岐川さん。こちらの方へお願いします」


 遠藤の指示を受けた浜田は、衝突痕があった縁石の方に多岐川を呼ぶと、塗膜片のある場所や、どのように採取をするのかなどの説明を始めた。


「ここに他の縁石には見られない衝突痕があって、よく見ると黒色の塗膜片が付着しているのですが、確認できますか?」

「えっと……あ、そうですね。何か小さな破片のようなものが見えます」

「これを今から採取していくので、その様子を確認していてください」

「はい。分かりました」

「それじゃ古川! 鞄を持ってきて」


 一通りの説明を終えると、浜田は古川に採取に使う道具を持ってくるように指示を出した。


「やはり手慣れていますね」

「彼らはプロですから」

 実際の鑑識活動を初めて目の当たりにする光一に貴格は笑顔で答えた。


 古川が持ってきた鑑識用の鞄から器具を取り出した浜田は、手慣れた様子で縁石から黒色の塗膜片を採取して保管用に器具に収納すると、

「採取した塗膜片をこうやって保存しました。そして、この器具に一度開封するとそれが分かる封印用のシールを貼ります」

 多岐川にその器具を見せながら封印用のシールを貼り付けた。


「確認をお願いします」

「あ、はい……確かに封印されています」

「ありがとうございます。すみませんが、この状態で写真を撮るのでそれを持っていてください。古川、写真撮って」

「了解」


 浜田の指示を受けた古川は、多岐川が浜田から渡された器具を確認している様子の写真を数枚撮影すると、

「すみません。ありがとうございます」

 と言いながら多岐川に浅く頭を下げた。


「こちらはこれで終わりになります。遠藤部長。塗膜片の採取が終わりましたが次は?」

「次はですね……光武係長! 松尾部長!」

 浜田から塗膜片の採取が終わったことを告げられた遠藤は、機動鑑識である光武と松尾に声をかけた。


「はーい。やっと出番かー。それでうちらは何すれば良いの?」


 少し間延びした声で光武が答えた。


「な、なんか、想像してたイメージと違うんだけど……」

「ははは。それは表面だけですよ。彼は鑑識活動に着手するとバリバリのやり手に変わるという話ですよ」

 光武の間延びした返事に拍子抜けして呆れる夏奈を見た貴格は、苦笑しながら光武をフォローしていた。


「光武係長をプレイングマネージャーにして、松尾部長と浜田部長と古川の4人で、川に下りるスロープの足痕跡を採取してほしいのです。えっと、場所はこちらです」


 そう言うと、遠藤は立入禁止の黄色のテープを跨いで船着き場の中へと侵入していった。鑑識係の4人も遠藤に倣うように、多岐川を連れてスロープの方へと歩みを進めていった。


「今日の検証はここからが佳境ですよ」

 スロープへ向かうメンバーの後ろ姿を見ながら呟いた貴格の言葉が、光一にとってはとても印象的だった。


「足痕跡を採取してほしいのはここになります」


 スロープの直前にやってきた遠藤が、右手全体でスロープを指した。


「うわー、このスロープの長さは何メートルあるの? 見た目8メートルはあるよね。もしかして、採取するのはここの全体から?」


 光武の口から溜め息のような言葉が漏れた。鑑識係4人全員が、マスクをしているのにはっきりと分かるほど困惑していた。


「そうですね。ここ全体です」

「マジか。えっとさ、場所、絞れない?」

「場所を絞るんですか?」

「4人でこれだけの面積から足痕跡を採取するのは、かなり骨が折れるって」

「えーっと、そうですね……ちょっと待っててください」

 そう言うと、遠藤は貴格に駆け寄り、

「やはり面積が広すぎるようです。場所を絞ることはできませんでしょうか?」

 と尋ねた。


「まぁ、確かに広いですよね……うーん……そうですねー……」


 そう呟いた貴格は、何やら思案しながら立入禁止のテープを跨いで船着き場へ侵入すると、そのままスロープの方へと向かって歩き出した。


「光一君。夏奈たちも行こう!」

「あ、は、はい!」

 その後を追うようにして、光一と夏奈もスロープの方へと向かった。


 スロープの近くまでやって来た貴格は、鑑識4人とは少し距離を取りながらスロープを眺めていた。そして、

「そうだ!」

 と何やら思い付いたような表情を見せた。


「何か思い浮かびましたか?」

「名案かは分かりませんが、あのですね……」


 貴格が話をすると、遠藤はすぐに要領を得たような笑顔を見せた。そして、スロープの直前で待機している鑑識係4人の所へ来ると、貴格と話し合った結果を伝えた。


「それなら場所を絞れるかな。よし! みんな始めようか!」

 どうやら光武はその話に納得したようで、テキパキと他の3人に指示を出し始めた。

「松尾部長と浜田部長はそれぞれの車から足痕跡の採取道具を持ってきて! 古川には立会人への説明を頼むよ!」

「了解!」

 光武の指示を聞いた3人の行動も素早かった。


「古賀さんが話したとおり、指示が的確でやり手というのが分かります」

 その様子を見ていた光一が「ほぉー」という感嘆の後に貴格に話しかけた。

「仕事が早いのはさすがですよね。以前、僕は光武警部補は鑑識活動に適性があるということで機動鑑識に配属されたという話を聞いたことがあるんですよ」

「なるほどー。そんな人が鑑識活動をしてくれるなら、思念が発生するきっかけになった事件の真相なんか簡単に掴めちゃうかも」

「そうですね。今回の足痕跡の採取で何か見つかれば良いですね」

 夏奈の口から飛び出した「希望的見解」に貴格は笑顔で頷いていた。

「そういえば、足痕跡の採取について遠藤さんから相談を受けていたみたいですが、何かあったのですか?」

「はい。スロープの入り口から順に3回ほどスロープを横断するように採取用のシートを張って足痕跡を採取して、その中に特徴的なものや不審なものがあれば、それを追跡してみてはどうでしょうか、ということを伝えました。いきなり全体を行うのではなくて、ポイントを絞るということですね」

「なるほど。重要な情報を取捨選択するということですね」

「そうです」


 その時、どこからともなく「グー」という音が聞こえた。

「ん?」

 気になった光一が周りを見渡すと、明らかに挙動不審な人物が1人いた。

「あ、い、いや、な、何かな?」

 夏奈だった。

「い、いえ、べ、別に、何でもありません!」

 触れない方が良いだろう。そう思った光一は、顔を赤くし慌てふためく夏奈から視線を外し、鑑識係4人の作業を見守ることにした。


 それからおよそ30分が経過した時のことだった。光武と松尾と浜田が足跡を採取し、古川が多岐川に説明をしながら写真を撮影していると、


「遠藤部長! ちょっと来てー!」

「はい!」


 何かに驚いた様子の光武が遠藤を呼んだ。


「これなんだけどさ……」

「これって普通の足跡では……」

「それがさ……」

「うーん、確かに奇妙な話ですね……」


 光武が手にしていた数枚の紙のようなものとスロープを見比べていた遠藤は、最初のうちはそこまで驚いていない様子だったけれど、光武から説明を受けていくうちに、怪訝な表情を見せ始めた。


 そのまま2人が話し込み始めてから間もなくのことだった。

 何の気なしにスマートフォンを確認した光一が、ディスプレイ上に映る「0:50」という表示を目にした時、


「古賀さん! ちょっと来てください!」


 遠藤が貴格を呼ぶ声が聞こえた。


「はい! 夏奈さん、光一さん、行きましょう!」

「あ、は、はい!」

「りょ、了解です!」


 スマートフォンを慌ててスラックスにしまった光一と、やや緊張した面持ちの夏奈は、先を行く貴格の後を追った。

感想やブックマークをしていただければとても励みになります。

今後ともよろしくお願いします。

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