現場鑑識で真実を掴め! その2
今回も一週間以内に投稿をすることができました。
今回も現場鑑識が中心になります。
時間があればプロローグから読んで頂ければ幸いです。
よろしくお願いします。
光一と夏奈に声をかけて遠藤と光武に合流した貴格は、そのただならぬ雰囲気に困惑しているようだった。
「えっと、何かあったのですか?」
「実はこの足跡に関してなんですが……」
困惑する貴格に、遠藤が数枚のシートのようなものを手渡した。貴格の後からやって来た光一が、何だろう、と思いながら3人の輪の中を覗き込んでみると、貴格が手にしていたのは白色の足跡がはっきりと採取された黒色の足痕跡採取用のシートで、採取された白色の足跡は破壊防止用の透明なシートに覆われて保護されていた。
「この足跡ですか? どれも普通の足跡のように見えますね……えっと……2人分でしょうか。見た限りでは特段不審な点は無さそうですが……」
シートに採取された足跡を眺めながら貴格は首をひねった。
「すみません。言葉が足りませんでした。確かにお渡ししたシートに採取された足跡はごく普通のもので、古賀さんが推測されたとおり2人分のようです。問題はですね、これが採取された位置関係なのです」
「位置関係ですか? それは一体どういうことですか?」
足跡が採取されたシートを遠藤に返しながら、貴格は訝しむような表情を見せた。
「百聞は一見にしかず、です。とりあえず、その位置関係をお見せします。光武係長。この足跡を採取した場所に並べてもらえますか?」
「良いよ。古川! デジカメで足跡の位置関係の写真を撮ってたよね」
「はい。すぐに確認できますよ」
「ちょっち見せて」
遠藤から足跡を採取したシートを受け取った光武は、古川がデジカメで撮影した写真と、その裏面に書かれた場所を見比べながら、採取した場所にシートを置いていった。光武と古川の動きに無駄は無く、2人はあっという間に並べ終わってしまった。
「遠藤部長。並べ終わったよ。位置関係はこれで合ってるはずだよ」
「ありがとうございます。古賀さん。何か気付きませんか?」
「位置関係ですよね? えーっと……ん? あれ? スロープの両サイドに並んでいる足跡の並び方が綺麗すぎるような……」
並んだシートを見た貴格が何かを考え込みだしたのを見た遠藤は、
「そうなんです。並び方が綺麗すぎるんです」
と、我が意を得たり、とやや興奮した表情をして見せた。
「これまでに足跡の採取を完了しているのは、スロープの入り口からだいたい1.5メートルの範囲なのですが、その狭い範囲のそれぞれの端に、それぞれ同じ足跡が綺麗に並んでいるのはとても奇妙だと思いませんか?」
「そうですね。なんか不思議な光景です。ちなみに、スロープのそれぞれの端に並んでいる足跡は同じものですか?」
「そのようです。それぞれの端に1人分ずつで、合わせて2人分ということになります」
遠藤と貴格が注目している足跡はスロープの両サイドに並べられているもので、3つの特徴があった。
1つ目は、まるで「気を付け!」をしているかのように左右1対の足跡が同じ場所に揃っていて、同じ足跡が片側それぞれに3つずつ並んでいるという点。
2つ目は、両サイドに並ぶ足跡が、反対側にある足跡と間隔が1.5メートルほどあるにも関わらず、大きくズレることなく、まるで意図したかのように爪先どうしが向き合っているという点。
3つ目は、両サイドに並んでいる足跡の間隔が、ほぼ全て50センチぐらいの等間隔になっているという点である。
「これはどういうことでしょうか?」
「いやー、さすがにこれだけでは分からないですね」
いくら防犯部のメンバーでも、これだけの情報で何かを理解するというのは難しい。遠藤に尋ねられた貴格は「すみません」と苦笑しながら言葉を返した。
「そういえば、この奇妙な足跡の間に別の足跡がありますね。これはどういう足跡でしょうか?」
「あぁ、あれについては、すみません。両サイドにある足跡があまりにも特徴的でそっちに気を取られてしまい、まだ確認できていません」
「面目ない」と言わんばかりの苦笑を、遠藤はその表情に浮かべた。
「はは。その気持ちは分かりますよ。ちょっと確認しても良いですか?」
「構いませんよ。光武係長。そこに並んだ4つのシートを持ってきてください」
「えぇー!? はぁー。仕方ないか。りょうかーい」
「せっかく並べたのに」という苦情が聞こえてきそうな苦笑を浮かべながら、光武は地面に並べた4枚のシートを拾い上げると、
「どうぞー」
恐縮する貴格に手渡した。
「すみません。ありがとうございます。えーっと、これが左足でこっちが右足で模様が左右対称だから1人分か。それで他のは、えっと、あー、こっちも1人分か。ということは、あの足跡は2人分ですね?」
4枚のシートを受け取った貴格は、シートを1枚ずつ眺めた後に自分なりに推測した結果を光武に伝えた。
「そ。左右一対ずつ2人分」
光武は貴格の言葉を相槌で肯定した。
「この4枚は、スロープを上るものでしょうか? それとも下るものでしょうか?」
「えーっと、どっちだったかな。おーい、松尾部長。上向きと下向きどっちだったっけ?」
「確か上向きですよ。スロープを上るような足跡でした」
中断された鑑識作業の代わりにバインダーに挟んだ紙にメモをとる松尾に光武が尋ねると、簡潔ながらも的を得た回答が返ってきた。
「だそうですよ」
「ありがとうございます」
穏やかな笑みを浮かべながら、貴格は光武に軽く頭を下げた。
その光景を目の当たりにしながら、光一は頭の中で考えを巡らせていた。
(スロープを上る足跡ということは、このスロープの下の方にいた人が歩いてきたということだよね。どうしてスロープの下に行ったんだろう。あれ、そういえば。ここで思念の影響で発生した殺人未遂事件は、男女一組が両腕と両足を持って男性を川に投げ落としたという……)
光一の頭の中に顔が分からない男女2人が、1人の男性の両腕と両足を持ちながらスロープに立つ姿が思い浮かんだ。
(爪先が向き合うようにして並んだ足跡は等間隔で並んでいた)
その男女は、男性を掴んだまま同じ方向に足を踏み出してスロープを下っていった。
(そして、男性を川に投げ落とす)
そして「いっせーのせ!」で、掴んでいた男性を川に投げ落とした。
(その後にどうする? ま、まさか!?)
頭の中の男女は、仲良く並びながらスロープを上って歩いて去ってしまった。
「古賀さん!」
「おぉ! 驚きましたよ。どうしました?」
「ビックリしたー! 光一君、どうしたの?」
突然大きな声を出した光一に、貴格と夏奈は目を丸くして驚いたようだった。すぐ近くにいた光武と遠藤も、貴格たちほどではないものの軽く驚いた様子だった。
「もしかしたら、スロープの両サイドに並ぶ足跡と、スロープを上る足跡は同一かもしれません!」
「えっ!? それはどうし……あっ、そ、そうか!」
光一が意図していることを貴格はすぐに理解したようで、
「すみません! 両サイドの足跡と、スロープを上る足跡を見比べても良いですか?」
と遠藤と光武に語気強めに尋ねた。
「え、あ、ま、まぁ、良いですよ。光武係長、問題は無いですよね?」
「あ、あぁ。傷つけたり無くしたりしなければ別に構わないけど。ちょっと待って。持ってくるから」
鬼気迫る表情を見せる貴格に2人は一瞬たじろいだけれど、そこはさすが警察官である。すぐに冷静な対応をし始めた。
「これが川の方で、これが反対側。でも足跡を見比べてどうするの?」
一度並べたスロープの両側から1対ずつシートを拾い上げた光武は、貴格に尋ねながら手にしていた合計4枚のシートを手渡した。
「少し気になることがあるんです。夏奈さんも一緒に見ましょう」
「べ、別に良いですけど」
足跡を採取した4枚のシートを受け取った貴格は、光武の質問に詳しく答えないまま、状況をよく理解していない様子の夏奈に声をかけた。
「一体何があったんですか?」
「後で説明します。とりあえず、夏奈さんは川べりの足跡を持ってください」
「え、あ、うん。分かりました」
「光一さんはこっちの川べりのではない方のを」
「はい!」
「それでは、今から見比べていきますよ」
貴格は、手元にやって来た計8枚のシートを混同しないように気を付けながら、光武がスロープの両側から持ってきた4枚のシートのうち、川べりの2枚のシートを夏奈に手渡し、その反対側の2枚のシートを光一に手渡した。そして、夏奈と光一に一緒に見比べていくように促しつつ、持っていたシートの1枚目を差し出した。
「まず1枚目です。右足のようですね」
「右足ですか? えっと……」
「あっ! 夏奈が持ってるのと似てる!」
「2枚目は左足ですね」
「夏奈のとは違う……」
「俺が持っているのと似ています」
「3枚目も左足ですね」
「夏奈のと似てます」
「ということは、4枚目は右足で……」
「俺が持っているのと似ています。ということは、俺と古賀さんが考えていることは正しいという可能性がありますね」
「僕もそう思います」
「ね、ねぇ! これってどういうことなの?」
顔を見合わせて頷き合う貴格と光一に、夏奈は焦った様子で尋ねた。
「後で説明します。今言えることは、僕たちは真相へ一歩近付いたということですよ」
「えっ、そ、そうなの!?」
「そうです。それに、光一さんの調査がとても役に立っているということも言えますね」
「あ、い、いえ、そんな大したことでは……」
「何が何だか分かんないけど、光一君はすごいね!」
「あ、そ、ま、ははは……」
突然自分の話が放り込まれたことで、光一はうまく反応することができなかった。それでもどうやら夏奈を落ち着かせることに成功していたようで、表情に焦りの色を見せながらも、心の中で「良かった」と呟いていた。
「ところで、光武警部補にお願いがあります」
夏奈が落ち着いたところで、貴格は光武に話しかけた。
「ここのスロープからの足跡の採取についてですが、両側にある規則正しく並んだ足跡と、その間にあるスロープを上る足跡の採取を重点的にお願いします」
「それって後で役に立つの?」
「絶対に役に立ちます!」
「そっか。ここまで強く言われると断るわけにはいかないか」
貴格の雰囲気に、光武は完全に気圧されたようだった。
「光武係長。かなり広いですが、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ、やってやるよ。こちらの3人のさっきの様子から察するに、うちらが知らない何かがあるんだろうさ」
心配そうに尋ねる遠藤に、光武は「やってやるさ!」という強い意志を宿した表情を見せた後、
「松尾部長! 浜田部長! 古川! このスロープの両端と真ん中の部分の足跡を重点的に採取するよ!」
それぞれの雑務をこなしていた他の鑑識係3人に号令をかけた。
「了解!」
シンクロする3人の声が辺りに響いた。
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