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【第2章完結】光一くんのピアスはプライスレス【第3章執筆中】  作者: 御乙季美津
第1章 光一くんの初体験はプライスレス
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3人に与えられた「罰」という名の「特命」

今回もなんとか一週間で投稿することができました。

時間があればプロローグから読んで頂ければ幸いです。

よろしくお願いします。

 縁石に張られた立入禁止のテープを跨いで貴格と夏奈がいる場所へ戻った光一に、

「そういえば、光一さんが調査をしている時に何かに驚いたような表情を見せていましたけど、何かあったのですか?」

 さっきまで反省しきりだった貴格が、ふと何かを思い出したかのような表情で尋ねた。


「実は、調査の最中に男女の会話がいきなり聞こえてきて。本当に驚きました」

「男女の会話……ですか? えっと、それはもしかして……」


 急に色めきだった貴格は、光一にどのような会話だったのかを確認し始めた。光一もいきなりの話で最初は戸惑いを見せたものの、伝え忘れが無いように懸命に思い出して話を伝えた。


「その話は本当ですよね?」

「あ、はい。間違い無いです」

「ということは、ここでは例の殺人未遂事件の前に、思念が発生するきっかけになった何らかの事件が発生していたと考えても良さそうですね」

「それはどうしてですか?」


 光一の話を聞いて確信めいた表情を見せた貴格に、まだ理解できていない様子の夏奈が尋ねた。


「まず、例の殺人未遂事件では起きている被害者を川に投げ入れているので、光一さんの話に出てきた『捨てる』という表現は違うのではないでしょうか。次に、殺人未遂事件の被害者は、まだ明るい時間帯に周りから見えるここから川に投げ込まれているので、とても目立つはずなのですが、会話の中では『誰も気付かないよ』という話になっているので、状況的に合わないと思います。最後に、被害者は被疑者二人によって助けられているのですが、光一さんが聞いた会話は川に投げ入れた被害者を助けようとはしていませんよね。この3点を総合して考えると、光一さんが聞いた会話は、思念が発生するきっかけになった事件の被疑者のやり取りの可能性が高いと結論付けても良いと思います」

「そっか。そういうことか」


 話を聞いて得心がいった様子の夏奈は深く頷いた。


「あと、怪我の功名と言ってはいけないかもしれませんが、光一さんの調査はとんでもない情報を引き出してくれたかもしれませんよ?」

「俺の調査でですか?」

「そうです。思念が発生することになった事件を探るための重要なヒントになるかもしれません」


 そう言うと、立入禁止の黄色のテープが張られた車止め用の縁石を注意深く観察し始めた。


「うーん、ここには無さそうですね」


 光一から向かって右端にある縁石には何も無さそうだった。


「これも無いですか」


 その隣にある縁石にも何も無さそうだった。


「これには……あっ! 2人とも、ここにありましたよ!」


 真ん中の縁石を観察しだしてすぐに、貴格は大声で夏奈と光一を呼んだ。


「光一さんが聞いた男女の会話の中に、車をぶつけちゃったという話がありましたが、おそらくこれがその痕跡ではないでしょうか」


 そう言いながら貴格が指差した縁石には、何かによってできた強い衝撃の痕跡と黒色の破片のようなものが付いていた。


「てことは、これをヒントにして捜査を行えば、思念が発生するきっかけになった事件の犯人に辿り着くことができるかもしれないということですね?」

「夏奈さんの言うとおりです。とりあえず、この状況をデジカメで写真撮影するので、その後に部長に報告をしましょう」


 そう言うと、貴格はデジタルカメラで縁石の様子の写真を撮影した後、スマートフォンを取り出して電話を掛け始めた。


「もしもし、部長ですか? 古賀です。お疲れ様です」

 功人が電話に出たようだった。


「船着き場での調査結果を報告する前に、部長にお伝えすることがあります」


 そこまで言い切ると、ふぅ、と貴格は大きく息を吐いた。そして、


「申し訳ありません。様々な事情がありまして船着き場に潜んでいた思念を消去しました」


 腰を90度に曲げながら功人に任の失敗を謝罪した。


「それは本当!? あちゃー……」


 電話先から功人の驚く大声と、天を仰いでいるかのようなフェードアウトする声が聞こえた。


「はい。消去に至った経緯を説明しますと……」

 貴格はそう切り出すと思念を消去するに至った経緯の説明を始めた。光一が聞いている限りでは、その内容に嘘偽りは全く無かった。

「はい……はい、思念の消去については、夏奈さんは時間停止に力を向けていて、僕も接近する思念を食い止めていたので光一さんにお願いしました。すると、光一さんが契約している悪魔が現れて消去を……」


「悪魔が実体化した!?」


 再び電話先から功人の驚く声が聞こえた。貴格が言い終わる前に言葉を被せてきたあたり、さっきよりも驚いているのでは、と光一は思った。


「はい。まさかとは思いましたが、背中に大きな翼を持った犬の姿で現れました……はい。光一さんは無事です。光一さんとグラーシャ=ラボラスの二人が頑張ってくれたおかげで、誰も思念の影響を受けることなく消去することができました……思念が呼び出された理由は、光一さんのように悪魔と意思疎通ができる人は必要以上の力が発揮されてしまうので、調査には向かないということらしいです……あ、部長もご存じなかったのですね。僕もそれを知らなかったので、後でグラーシャ=ラボラスに、光一さんの技量を見誤るからこうなったんだ、と言われてしまいました……はい。光一さんがいてくれて本当に良かったです……はい、それでは調査結果を報告します」


 そう言うと、自分と光一の調査を合わせて検討した結果、殺人未遂事件が発生する前に何かしらの事件が発生し、男女一組の思念が発生してしまったということを、夏奈に説明した時と同じように功人に報告した。また、光一が調査の最中に聞いた会話から、その船着き場にある車止め用の縁石に、その事件の被疑者に繋がると推測される自動車の衝突痕が残されていたことや、その辺り一帯の5日分の様子を記録している監視カメラが設置されていることも併せて報告した。


「以上がここでの調査内容の結果になります……はい……はい、報告書を書き上げる前に思念を消去することが内規違反であることは承知しています……はい、懲戒処分……えっ、よろしいのですか!? ……なるほど、分かりました。はい、それでは夏奈さんと光一さんに伝えておきます……はい、分かりました。それでは失礼します」


 電話を掛ける前は重苦しい雰囲気を漂わせていた貴格だったけれど、電話を終えた後は肩の荷が下りたような表情をしていた。


「今回、思念の消去をしたことについては防犯部の内規違反だったのですが、とりあえず懲戒処分は無しということになりました」

「そうなんですか!? 良かったー」

「俺も安心しました」


 貴格の言葉を聞いた夏奈と光一は、それぞれでホッとしたような表情を見せた。


「ただ、その代わりに僕と夏奈さんと光一さんの3人で、男女1組の思念が発生したと思われる事件の真相を掴むように、という命令が出されました。防犯部の仕事は、犯罪者が思念の影響を受けたかどうかを調べて報告するだけなのですが、僕が軽率な言動をしてしまったばかりに、2人を事件の捜査にまで巻き込む形になってしまって本当にすみません」


 そう言うと貴格は頭を下げた。


「古賀さんは謝らないでくださいよー。夏奈も光一君がどんな調査をするのか興味本位でけしかけてるので共犯ですし」

 そう言うと、バツが悪そうに夏奈は自分の右頬を掻いた。


「俺も気にしていないです。それに、事件の捜査をするということですが、緊張はしますけど頑張ろうっていう気になります」

「そう言ってもらえると助かります。本当にすみません」

 一度頭を上げた貴格は、ここで再び軽く頭を下げた。


「ところで、事件の真相を掴むということですが、どこから手を付ける予定ですか?」

「そうですね。まずは防犯カメラの映像を確認しましょう。あとは、採取していない場所の足痕跡や、縁石の衝突痕に付いている黒色の塊を福岡県警に依頼して採取してもらいましょう。その検査結果から何かが分かるかもしれません」

「分かりました。それではこの後は?」

「そうですね……」


 そう言うと、貴格は腕時計を見ながら少し考えた後、


「今の時間は10時50分ですね。予定よりもだいぶ遅れてしまいましたが、とりあえず、僕はこれから佐賀県警の現場検証に顔を出してきます。ただし、こちらの方を優先すべきと思うので、事情を説明してなるべく早めに戻ってくるようにします。今日中にここの現場検証をしてもらった方が良いと考えています」


 と自分の考えを2人に伝えた。貴格に全てを任せるつもりだった光一に異論は無く、夏奈も笑顔で頷いていたから反対の意思は無いようだった。


 2人が自分の考えに了承したことを確認すると、貴格は手にしていたスマートフォンを使って電話を掛け始めた。


「もしもし。九州管区警察局防犯部の古賀です。そちらは佐賀県警の本庄南署でよろしいですか? ……はい、そうです。刑事第一課の方に繋いでください。はい……」


 まず先に電話を掛けた先は、昇開橋の現場検証の担当である佐賀県警の本庄南署のようで、予定よりも到着時間が遅れていることを謝罪し、あと数分で到着する旨を伝えた。


「もしもし。古賀です。お時間は大丈夫でしょうか? ……良かったです。実は、部長を通じて福岡県警に依頼をしたいことがあるのですが……」


 次に電話を掛けた先は功人のようだった。今回の船着き場の調査で判明したことを確実に残すために、功人を通じて福岡県警に再度現場検証をしてもらうように依頼するためだった。


「……そうですね、足痕跡を採取する必要性があると思うので鑑識の人数は多めが良いと思います……はい、ありがとうございます。あと刑事については、大川中央署刑事一課の山中さんと後藤さんが良いかと思います……あ、この2名は今回の殺人未遂事件の被疑者の取り調べ担当官です……はい、ありがとうございます……開始時刻は、警察本部の鑑識課から機動鑑識を呼ぶとなると、ここまで一時間はかかると思うので正午辺りからで……はい、佐賀県警の現場検証については、僕から事情を説明して早めに切り上げるようにします……はい。よろしくお願いします」


 電話を切る貴格の表情が満足げだったことから、ひとまず想定どおりに事を進めることができているようだった。


「それではこれから行ってきます。正午までにはここに戻れるようにしますので、ここで待機しておいてください。あと、この立入禁止のテープの中に人を入れないようにしてください」

「はい。分かりました」

「了解ですっ!」


 軽く頷く光一と手を額に持ってきて敬礼をする夏奈を見た貴格は、笑顔を見せた後に車に乗り込み、佐賀県警が現場検証を行っている昇開橋へと向かった。


「事件の真相を掴むということですが、そんなに簡単ではないですよね」

 来た時に通った橋を、貴格が運転するSUVが渡っていくのを見つめる光一が呟いた。

「きっと大丈夫だよ。なんてったって古賀さんは佐賀県警では名刑事だったっていうし。それに……」

 そう言うと、夏奈はSUVを見つめる光一の視界へ強引に入り、

「夏奈は光一君と一緒ならどんな困難も乗り越えることができると思ってるよ」

 ガッツポーズをしながら満面の笑顔を光一に見せた。


「あ、そ、え、と、どうも……ありがとうございます……」

 発動した固有スキルのせいで、これ以上の言葉を光一は紡ぐことができなかった。

次回もまた一週間後を目指して頑張ります。

もし感想や印象等があれば書いて頂ければ幸いです。

次回の話もですが、第二章の前に書いた処女作である「光一くんのピアスはプライスレス」も併せてよろしくお願いします。

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