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【第2章完結】光一くんのピアスはプライスレス【第3章執筆中】  作者: 御乙季美津
第1章 光一くんの初体験はプライスレス
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防犯部の仕事にも適材適所という概念はあるようです

今回もなんとか一週間で投稿することができました。

時間があればプロローグから読んでもらえればと思います。

よろしくお願いします。

「こ、光一さん。そ、その犬は……」

「何でここに犬が……」

「わたしは犬ではない! わたしは地獄で36の軍団を指揮する大総裁のグラーシャ=ラボラス。こいつの主人だ」

「光一君の主人? えっ、てことは……」

「そうだ。わたしは悪魔である。そう言うお前らはナベリウスと、あのド派手野郎の下僕だな。全く主人が主人ならばその下僕も下僕か。揃いも揃ってこいつの技量を見誤るからこういうことになるのだ」


 2人に犬と呼ばれて不機嫌そうなグラーシャ=ラボラスの物言いは、いつもよりも傲岸不遜なものだった。


「技量を見誤る……ということはもしかして僕の予想は……」

「まぁそういうことだ。なるほど、お前は多少は使えそうな奴だな」

 

何かに気付いたかのような表情を見せる貴格に、グラーシャ=ラボラスがニヤリと笑顔を向けた時、


「あー……あが、あああぁぁぁー……」

「ぎぎゃぎゃー……あぐがーーー……」


 36本の漆黒の柱に囲まれた二つの思念から叫び声が聞こえた。その声の方を見ると、2つの思念それぞれが、自分を取り囲む漆黒の柱へ体をぶつけては弾かれるという動作を繰り返していた。


「耳障りな声を出す連中だ。本当に面倒な奴らだな」


 忌々しそうに思念をそう評すると、グラーシャ=ラボラスは光一の方を向いた。


「現状ではあの2つのどす黒い思念を消すことができるのはお前だけだ。わたしが協力するからさっさとやるぞ。準備は良いか?」

「えっ! ちょ、ちょっと待って」

「早くしろ! わたしがこうやって姿を現すことができる時間は短いのだ。少しぐらいミスがあってもわたしがなんとかする。とりあえず羽根を渡すから受け取れ!」

「あ、はい! 分かりました! ん? 羽根?」


 真意を掴むことができていない光一の目の前で、グラーシャ=ラボラスは自分の背中にある翼を口元に引き寄せた。そして、口を使って長さが30センチぐらいの1枚の羽根をむしり取ると、


「ほのはねをはやふうへとれ! はやふひろ!」


 それをそのまま光一に受け取るように促した。


「だけど、この羽根は何のために?」


 右手でそれを受け取った光一は、まじまじとその羽根を眺めた。


「何のために? そんなの考えずとも分からないのか? もちろん、あの2つの思念を消すために決まっている!」

「えっ! この羽根で!?」

「そうだ。しかし、このまま使うわけではない。わたしの分身であるこの羽根にお前がイメージを流し込んで、武器に変える。そして、それを使って1つずつ消していく」

「えっ? 何でそんなやり方を? いつものではダメなのですか?」

「いつものやり方は、直接思念と接触しないという利点があるが、紋章全体にお前の力をいき渡らせなければならないから、今回のように思念が複数ある場合は効率的ではない。逆に今回やろうとしているやり方は、思念にこちらから接近する必要性があるという短所はあるが、力を無駄に使わなくていいという長所がある。まぁ、わたしと意思疎通ができるお前だからこそできる方法なのだがな」


 グラーシャ=ラボラスがそう得意げに話した時、再び思念の方から大きな音が聞こえた。2つの思念がそれぞれを取り囲む漆黒の柱の中で、なんとか脱出しようとさっきよりも激しく暴れているのが視界に入った。


「っ! 思念2つをまとめて止めるのは……」


 その時、貴格の表情が苦悶に歪んだ。


「アンドロマリウスの下僕がもたなくなる! 早くイメージしろ!」

「は、はい!」


 自分にしかできないやり方という言葉に少し浮ついた心持ちの光一だったけれど、焦るグラーシャ=ラボラスの声ですぐに気を引き締めた。そして、手にしている羽根を一瞥するとイメージを作り出すための思考回路を動かし始めた。

(やはり斬るというやり方がちょうど良いか)

 光一の頭の中に日本刀のイメージが出来上がった瞬間、光一の右手の甲にグラーシャ=ラボラスの模様が浮かび上がり、手にしていた羽根が光に包まれた。そして、その長さがあっという間に5倍に伸びて覆っていた光が弾け飛ぶと、そこに正体を現したのは刃渡りが1.5メートルぐらいの日本刀だった。


「日本刀か。ありきたりだな」

「こんな光景は……今まで見たことありません……」

「はぁ……はぁ……夏奈も初めて……」


 光一が手にする日本刀を目にした3人の反応は悪魔と人間とで違っていて、グラーシャ=ラボラスが光一を揶揄する一方で、思念を捕えている貴格と時間を止めている夏奈の2人は、初めて目にする光景と力を使っている疲労感で一言を発するのが精一杯だった。


「おい! アンドロマリウスの下僕!」

「は、はい……」

「今からこいつがあの思念を消す! あと少しだ! 絶対に逃がすな!」

「分かり……ました……」


 グラーシャ=ラボラスは貴格に指示をすると光一の方を向いた。


「やれ! あの柱ごと奴を切り捨てろ!」

「は、はい!」


 光一は右手に持つ日本刀を一度小さく振った。元がグラーシャ=ラボラスの羽根だから、見た目ほどの重さは無かった。


「よし……行くぞ!」


 覚悟を決めて右手で持っていた日本刀を両手で持ち直した光一は、黒い柱によって捕まり蠢いている2つの思念までの約5メートルの距離を走って一気に詰めた。そして、片方の思念の脇を走り抜けながら、


「消えろ!」


 両手にした日本刀を一気に横に振りぬいた。その瞬間、幾重にも重なったガラスの割れるような「パリーン」という音と共に、切られた漆黒の柱がアンドロマリウスの模様の上に散らばり、


「うぎっ、ぎぎゃぎゃああぁぁぁ……」


 間を置かずして辺りに不気味な断末魔が響いた。


「よし! 次だ!」


 横一文字に切り裂いた思念が煙のように消えていくのを横目で確認した光一は、グラーシャ=ラボラスの声と共にもう1つの思念へと近付き、


「お前もだ!」


 その正面から斜めに袈裟切りを繰り出した。すると、さっきと同じように、たくさんのガラスが一度に割れるような音と共に漆黒の柱が辺りに散らばり、


「ぐわああああぁぁぁー……」


 再び不気味な断末魔が響いた。


 切り裂かれた2つ目の思念が煙のように消えたのは、それから五秒も経たないうちのことだった。


「ふぅ……終わった……」

「よくやったな、光一。さすがはわたしの下僕だ」

「あ、はい。えっ、光一?」

「どうした? そんな間抜けな表情をするな」

「あ、い、いや。いつも名前で呼ばれていないから驚いてしまって」

「そういうことか。これからは名前で呼んでやるからな。喜べよ」


 照れ笑いを浮かべながら右頬を掻く光一を見たグラーシャ=ラボラスは、上から目線で話すと不敵な笑みを浮かべた。


「アンドロマリウスの下僕もよくやった。紋章を消しても構わないぞ」

「はい……ありがとう……」


 疲労を表情に滲ませる貴格の言葉と共に、思念がいた場所に描かれていた模様は消え去った。やがて、地面に散らばっていた漆黒の柱は、砂岩が風化して崩れていくようにサラサラという音を立てながら消えていった。


「ナベリウスの下僕は時間停止で力をだいぶ使っているな。不愉快な話だが、このままわたしが現世に残っていては時間を動かせないだろうから消えるぞ」

「ちょっと……待ってください……さっきの答えを! 調査班長として光一さんの技量を見誤ったということの意味を知りたいのです!」


 消えようとするグラーシャ=ラボラスに、荒れた息を整えつつある貴格は必死の形相で声をかけた。時間停止を続けている夏奈を早く楽にさせるためには、一刻も早くグラーシャ=ラボラスは消えた方が良いのだけれど、調査班長である貴格には「技量を見誤るということの意味」を知ることも重要なようだった。


「ふん。まぁ確かにその意味を知っておいても損は無いな。分かった。その答えは、わたしがここを去った後に光一の頭の中に詰め込んでおいてやるから光一から直接聞け」


 貴格が抱く疑問の答えを、光一を通じて教えることを約束したグラーシャ=ラボラスは、


「それでは光一。後は頼んだぞ」


 と光一に後を託して消えていった。


「夏奈さん……ふぅ……時間を動かしても大丈夫みたいです」

「はぁ、はぁ……わ、分かりました……あ、ありがとう……」


 グラーシャ=ラボラスが消えたのを確認すると、貴格は夏奈へ時間停止を終えるよう指示を出した。かなりの体力を消耗した様子の夏奈が指示どおりに時間停止を終えると、辺りの風景はいつもの様子をすっかり取り戻した。

(よし。では、アンドロマリウスの下僕への答えを教えてやるから、しっかりと伝えておけよ)

 時間が動き出すと共に光一の頭の中にグラーシャ=ラボラスの声が響いた。


 貴格の質問である「技量を見誤る」ということへの答えは、グラーシャ=ラボラスに言わせると次のような話だった。


 防犯部のメンバーは、それぞれが右耳に着けたピアスを通じて悪魔と契約しているけれど、思念の対処をする時に悪魔そのものの力を使っているわけではない。それではどのようにして思念の対処をしているかというと、実は、防犯部のメンバーがピアスに触れた瞬間からその持ち主の生命力がピアスを通じて悪魔へと流れ出していて、悪魔がそれを代償に「協力」をすることで、思念の対処ができているのである。

 このことを2人に伝えると、


「それについては知っています」

「夏奈もそれは知ってるよ」


 防犯部のメンバーは、ここまでは知っているようだった。

 それではさっきの話の続きである。防犯部のメンバーは、契約する悪魔へ流れた生命力を代償にして思念へ対処をしているけれど、この時、人と悪魔がどれだけ意思疎通をできるかということがポイントになってくる。言い換えれば、光一のように意思疎通が可能であれば、悪魔は人から流れ出る生命力のほぼ100パーセントを受け取れるのに対して、貴格のようにコミュニケーションが取れない場合は、悪魔に流れ込む生命力は50パーセントに満たず半分も活用できないのである。そして、この関係は防犯部での仕事内容に大きく関わっていて、思念の消去を行う場合は、生命力をフル活用できる光一のようなタイプが向いているのに対して、調査を行う場合は小さな出力でしか行えない貴格のようなタイプの方が都合が良いのである。


「ということは、光一さんに調査を任せると、深い情報を手に入れることができるかもしれないけれど、その反面思念が僕たちに気付いて出てきてしまうということですね。つまり、僕が光一さんの技量を見誤って調査をさせてしまったから、あの思念が出てきたということか。いくら知らなかったとはいえ、うーん……調査班長として面目無いです」

「夏奈は初めてこの話を聞いたよ。そっかー。防犯部にも適材適所という話があるんだー」


 2人とも、この話を聞いたのは初めてだったようで、特に光一に調査をするように話を振った貴格は反省をしっぱなしだった。

次回もまた一週間後を目指して頑張ります。

もし感想や印象等があれば書いて頂ければ幸いです。

次回の話もですが、第二章の前に書いた処女作である「光一くんのピアスはプライスレス」も併せてよろしくお願いします。

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