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娘⑥
僕は驚いて思わず華子へと視線を向けた。華子は口を小さく開けたまま母親を見たが、奥様は華子を見つめた後、華子の手を両手で優しく包んだまま会長へと視線を戻した。
「丁度新しいプロジェクトの責任ある立場についたばかりという時期でしたので、以前にも増して家を留守にする事が多かった私は、自宅に帰る度、ほんの少しづづ大きくなっていくお腹を見るのが楽しくて嬉しくて、仕事先からはいつも小走りで帰って来た事を昨日の事の様に覚えています。
男の子だったら、女の子だったら…と名前を考え、子供が生まれた後の生活についても、私達二人は長い時間をかけて話し合ったものでした。私は仕事にも家庭にも子供にも恵まれ、心から幸せだと思える日々を暮らしていました。
事態が一変したのは7月のとても暑い日でした。数名での会議を終えたまさにその時、上司が転がり込む様に飛び込んできました。




