彼は覚えていない
これにて平凡は終わりです!
ありがとうございました!
彼が待ち構えるダンジョンの入り口にとあるパーティーがいた。このパーティーの身なりは今までの冒険者たちに比べ逸脱しており鎧らしい鎧も装備せずどちらかと言えば軽装である。
このパーティはとても準備をしているとは言いがたい集団だった。彼のダンジョンに挑むのならばこれ以上ないほど愚かな行為になるだろう。準備したといっても大して意味は無いかもしれないが。
そんな無謀とも言えるこの集団は彼のダンジョンの扉を開ける。
そして発動される彼の『ホコリある弱者の空間』
最近の冒険者たちはこれでほとんど死滅していたが、今回の冒険者たちは違った。
彼の渾身の嫌がらせである、『臆病者の世界』により、小さくなっている状態からの灼熱。これに耐えて見せたのだ。
もちろん、彼はこれしきの事で動揺はしない。灼熱によって消滅した身体を再生しながら必殺の一撃を、灼熱を耐えた侵入者へ加える。
彼はこれで終わったと確信したかった。しかし、叩き付けたときの感触がいつもと違ったのだ。いつもならば、風船を殴って割るような感触なのだが、今回は固い鉄板を殴っているような感触だった。潰れた感覚もなければ自分の手に血が付着しているわけでもない。彼は一瞬にして理解した。
そうか、こいつが勇者なのかと。
勇者ならば、他と違い別格の強さを誇っているのは理解していたつもりだった。だがしかし、これは格が違うのではなく次元が違うレベルだろう。
彼は次の行動を移す。手で無理ならばと、彼はいつも履いていた革靴で踏み潰すことにした。本来ならば、罠を発動させて逃げたいところなのだが、灼熱地獄のこの空間と今まで何人もの冒険者を屠ってきた必殺の一撃を受けきったこの集団にそんなちゃちな物は通用しないという判断のもとだった。
彼は動かない的に革靴で踏み、そこから回転を加え捻らせ、地面とその集団を何度も擦り合わせた。流石にこれで終わっただろうと、足を上げると変わらずそこには無傷の状態でその集団があった。
"これには勝てない・・・!"
彼はそう確信した。自分の無能な頭でどう効率よさを計算しても、全てが無駄だった。むしろ、勝てない相手にこれ以上抵抗するほうが非効率的といえる。
彼は両腕を上げ降参の意を告げる。
「降参だ。僕では貴方方に勝てないようだ。さあ、殺してくれ」
先頭に立っている男にそう告げる。先頭の男の口が動いた。様な気がした。小さすぎてよくは見えないが。
『もう、降参するのか?まあ、よい。どうやら貴様は×××のようだな。安心しろ、今すぐにでも殺してやるからな』
小さな口から発する言葉は、いやに聞こえ頭に響き、彼の印象に残った。彼は眼を閉じる。この1年と半年の自分を考えながら。
『力は抜けよ、不条理な運命抗え人間』
男の手には小さな黒い鎌。勇者には相応しくない武器。
『我は勇者ではない、我は―――』
その言葉を聞き終わる前に、彼は首を刈られ絶命した。
―――――――――――――――――――――――――――――
「・・・・・・・・・・・っぱい!」
どこかで声がする。不明瞭なその声はどうやら自分を呼んでいるようだった。それにしても、頭が痛い。声は聞こえない。自分は一体どうなったというのだろうか?
「先輩っ!早く起きてくださいよ!!これじゃ俺、これから生きていきづらいじゃないっすか!!」
なんて自分よりの考えの持ち主だろう。そんなことを考えながら彼は眼を開けた。
「!!先輩!?大丈夫っすか!?どこか痛いところはありませんか?ああ、頭が痛い!?」
「・・・とりあえず黙ってくれないか?頭に響いて仕方がないんだ」
「ああ!!すいませんすいません!!」
後輩は必死に頭を下げる。それだけならまだしも、頭を地面へと擦りつけ土下座をする始末。
「もういい。やめてくれ。それで、僕は一体何に謝られてるんだ?」
後輩は、へっ?とした顔で彼を見る。
「先輩、覚えてないんすか?」
彼は首で頷き、後輩に説明を求めた。それで事の次第を掴むことができた。
あの工事現場付近で、後ろから自分を押したらしい。その際マンホールの淵に頭を強く打ちつけ約1年以上もの間眠り続けたらしい。
「でもまあ、起きてくれてよかったすよ。それじゃあ、ちょっと先生呼んできますんで」
そういって、後輩は退室していく。その途端走って聞く音が聞こえた。彼なりに責任を感じていたのだろう。というより、責任も何も後輩のせいなのだが。
彼は何とはなしに、備え付けてあるテレビに電源を入れる。そこにはここ何年とインターネット業界を騒がせているウィルスについて論議していた。
突如として表れ、様々なゲームの中に登場し、ラスボスとして君臨しているウィルス。予め設定されたボスを消し後釜のように現れるのだ。しかもそれはゲームに留まらず、インターネットが使える電子機器全てに関して同じことが言えるのだ。
そして全ての共通しているものは、誰も勝てたものが居ない、ということ。
確か、全てのボスの名前は一緒だった筈だと、彼は記憶を探す。
「確か―――」
彼の呟きは後輩のドアを開ける音にかき消される。それには気がつかないまま、彼は病院の先生を迎えた。
近いうちに、また新作を出す予定。
興味が沸けば是非お願いします。




