表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
困難事例〜誰も行きたがらない家〜  作者: 那須 儒一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/12

4月21日(火)休日

目覚めると、くすんだ窓ガラスから暗闇が覗いていた。


私、あのまま寝ちゃったんだ。


誰もいない診療所でスマホの画面を開く。

暗転した画面に映るのは、酷くやつれた自分の顔だけだった。


……駄目だ、充電切れみたい。


今日はお休みだからいいけど、せめて榊原さかきばらさんに一報いれてた方がいいよね。


それにしても昨晩は理由のわからないことだらけだった。


L様の家が何だったのか、助けてくれたあの男は誰なのか……てか、そもそもここはどこなのか……何一つ分からないことだらけだった。


これ、私、帰っちゃってもいいのかしら。


薄明かりに照らされた街路灯。

弱々しく明滅する灯りが私の車を照らしていた。


……ん?


……なに……あれ?


車の中に二つの影が揺らいでいる。


真っ先に私を助けてくれた二人を連想したが、

すぐにそれが、《《別のなにか》》だと分かった。


小さな二つの影は私を見ていた。


……子ども?


その瞬間、井戸の上から覗き込んでいた二つの影がフラッシュバックする。


こころなしか子どもたちの笑い声が聞こえた気がした。


キュルルル……ブォン!


静寂を破るようにエンジン音が響く。


「えっ……ちょっと、嘘でしょ!」


二つの影は明らかに私に狙いを定めている。


ライトすらつけないまま、車が外壁を挟んだ先――窓ガラス越しにこちらへ突っ込んできた。


「……っ!?」


人間、本当に怖い時は声が出ないのだと、走馬灯のように考えが巡る。


死を覚悟したその時、二つの影の顔は、ドロドロに溶け酷くただれていた。



「……」


「……白石しらいし


「……白石、大丈夫か?」


渋い声に体を揺すり起こされ、薄明かりが視界を呼び起こす。


「あれ……私……」


そこは、先ほどと同じ診療所だった。


私を助けた男が無表情のまま、私を見据えている。


「子どもが……運転して……」


「悪い夢でも見たんだろ」


「夢か……そうだよね。

子どもが運転できるわけないもんね……」


「ふ、何をトンチンカンなことを」


ぶっきらぼうな男が軽く笑みをこぼした。


窓の外を眺めると、私の車には何の異常もなかった。


「あなたは……?」


「そう言えば、自己紹介がまだだったな。

俺は石狩いしかり蓮司れんじだ」


石狩……蓮司……とこよの介護記録で何度も目にした名前……


「あなたが……あの……」


「……あの?」


「えっ、ええ……佐上さがみ先輩から話だけは伺ってましたので」


「それは、あまりいい印象を持たれていないかもな」


「休職中だとお聞きしたんですけど」


「そうだ。少し、外せない用があってな」


「あの……L様の家……なんなんです?」


「あそこは……ま、気にするな」


彼は露骨に言葉を濁した。

その先はどうやら話す気はないみたいだ。


「はぁ……助かったからいいんですけど」


「それより、どうしてキミがあそこにいたんだ?」


「どうしてって……訪問スケジュールに入ってて」


「そんなはずは……いや、あり得ない話でもないか」


彼は顎に手を当て、しばし考え込むと、

勝手に自己完結した。


「私……もう、この仕事辞めたいです」


「……同感だ」


「同感?」


「ああ、こんな仕事を続けていたら、いくら命があっても足りない」


本当に石狩さんの言う通りだと思う。


「それでも、石狩さんは続けているんですよね?」


「ああ、俺は正直、見知らぬ高齢者の支援なんて興味はない」


彼はきっぱりと言い切った。


「なら、どうしてこの仕事を?」


「一つは、この仕事をするキミたちを守るためと……もう一つは……ま、つまらない話だ」


もう一つの理由がすごく気になるけど、

どうせ聞いても、石狩さんは話してはくれないのだろう。


「守るって?」


「現に、昨晩キミは俺に助けられただろ」


「それはそうですけど……」


「さあ、もう一眠りするといい。

もう、《《あの子たち》》は家に帰ったから」


「はーい、そうします」


……ん?

あの子たち?


石狩さんが誰のことを言っているのか分からなかった。


もしかして……夢に出てきた、二人の子ども?


彼はそれだけ言い残すと、ベッド脇の椅子で腕を組み、うたた寝を始めた。


結局、名前以外は何一つ分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ