歌姫
あ、そうだった。
思い出した。
あいつだ。
あいつがミューラとの出会いのきっかけだった。
人生の数が多いと友が、どの人生での友だったのか分からない時がある。
思い出すには一から記憶を遡らないと本当によくわからない。
あいつの名前はデューラン。
俺があいつと会ったのは俺が八、九歳の時に父さんと作物を売りに少し大きな都市に売りに行った時だった。
あの人生での父さんは優しい人だった。
初めて父さんと都市に作物を売りに行った時、父さんはお金をくれて少しの間一人で都市を探索させてくれた。
普通はあまり土地勘のない場所に子供を一人自由にするのは良くないことだが父さんは俺が物覚えが良く武芸に秀でているとよく言ってくれていた。
そんな父さんは八、九歳だった俺をとても信頼してくれていた。
俺が父さんと待ち合わせ場所を決め自由行動していると肉の串焼きを売る店で一人の少年と出会った。
その少年はこの都市で見かけた子供と同じような見窄らしい服を着ていたがどこか気品があり言葉の節々には教養が感じられた。
俺は父さんとの約束の時間まで目一杯その名の知らぬ子と遊んだ。
その子とは別れ際、名を語り合い別れた。
それから作物を売るために父さんに着いて行くと度々、デューランと名乗った少年と出会って遊んだ。
俺がデューランがこの辺りの領主の長男であると知ったのは俺が一人で作物を売りにくるぐらいになってからだった。
知った時はとても驚いたものだ。
俺の当時の予想はどこかの商人の子かな?ぐらいだったからな。
そんなデューランの正体を知って間もない時だった。
デューランが歌を聞こうと誘ってきたんだ。
その時、都市には焔々団というここ最近出来たいろんなところを移動して歌を歌って金を稼ぐ集団がこの都市に来ていた。
その団の噂は畑仕事ばかりしていた俺の耳にも入ってくるほどだった。
焔々団は歌が上手い美女ばかりがいると。
焔々団には男は一人もいず。
焔々団には絶世の美貌とスタイルを持つ歌姫が存在すると。
この噂が存在するからか生活に苦しい民でさえ少し高い金を払ってまで一度は見に行くほどだ。
実際、歌を聞いてわかった。
噂は全て本当だと。
歌を歌う女は全員美女ばかりで特に最後に歌った美女はその美女が出る前に出てきた美女とは比べ物にならないほどの歌と見た目だったと思う。
正直、あの時の俺はかなりバカな顔をしていたと思う。