30.さて、これからの
『リルフィ殿、1つお願いがあるのですが』
ハルーシュプラントの残骸の後始末をしている時、ラメルがそう切り出した。
大きさが大きさなので一気には燃やせないし、まず全て地上へ運び出さねば。
まぁ、それは苦ではない。力持ちのハーモラットたちと、魔法で処理できる精霊たちがいるのだから。
私は私で、魔石以外での必要とする部分を切り出していた所だった。討伐証明もそうだが、植物系の魔物の一部は調合の仕方と分量によっては薬にも使えるので。
作業の手を止めて私はラメルを見る。
私のそれを聞く姿勢と受け取ったラメルが続きを話し始めた。
『私を連れていってください。従魔契約をしてほしいのです』
「……一応、聞くね。…どうして?」
『同族も、ニンゲンも… 私のせいで危険な目に晒したくないのです』
今回のハルーシュプラントの件はハーモラットたち… ましてやラメルのせいではないはず。
あそこにハルーシュプラントがいた原因は、ギルドに報告して調査しなければいけないことだろうが、たぶんどう調査してもハーモラットが原因という結果にはならないだろう。
それは断言してもいい。
元々あの周辺に住んでいたハーモラットたちにとっても困った存在だったのだから。
まぁ、離れようとする理由はそれだけじゃないんだろうけどな。
「一緒に来ることも、従魔契約とやらも私は別にかまわないよ。今更従魔契約ぐらいで動揺もしないし」
『あら、リルフィ、どういう意味かしら?』
「どういう意味もなにも、精霊と契約している時点で今更よ」
『まさか、ここにいる精霊様全員とですか…? ま、まぁともかく… 私にできることは何でもいたします。連れていってください』
きっと、ラメルは守りたい為に離れるんだ。
そうしようとする気持ちは分かるけれど、離れようと思ってたからあんな表情だったのかな?
他のハーモラットたちの様子からラメルの独りよがりとかではないと思うけれど…
うーん… どうしたものか。
~*~
町へと行って、依頼主のおじいさんに経緯ともう問題はないであろうことを報告した。町の人たちが見ていた“妙なもの”は幻覚であったことも。
伝えたら驚いてはいたものの、原因がもうないことや川の浄化をし終えたことに安堵の溜め息を吐いていた。
その際に、現れていたハーモラットたちは人々を守ろうとしていたことも伝えた。
「ハーモラットは基本的に無害ですが、生息していることをあまり言わない方がいいでしょう」
「それは何故でしょうか。あ、いや、言いふらすつもりはありませんが」
「ハーモラットはその昔に、乱獲されたことがある魔物です。つまりは一部の者にとっては希少価値がある。素早いのでそうそう捕まることはないと思いますが、万が一があります」
「ダメ! ハーモラットたちに意地悪するのは!」
トニー君がそう叫ぶ。その目には涙が浮かんでいた。
おじいさんがなだめているけど、堪えきれなくてついにはぽろぽろと零れ落ちる。あぁ、やっぱりそうかとその様子を見て再確認した。
どんなきっかけかは知らないが、きっとトニー君はあの群れのハーモラットたちと交流があったんだ。トニー君にとって、ハーモラットたちは友達なのだ。
「ぽきゅ?」
「ぽきゅ…」
「…! うわぁぁん!」
子供のハーモラットたちをこっそりと連れてきてみた。トニー君は2匹を抱きしめて泣きじゃくり出してしまったけど、それだけ大好きだってことだよね。
「ひっく…… …あれ、ラメル… ラメルは?」
私は変異個体のハーモラットのことも、ラメルという名前も口にしていない。
それなのにトニー君が口にしたということは、ラメルの名付けをしたのは彼だということだ。
ラメルはちょっと大きいので連れてくることはできなかった。
冒険者ギルドで従魔契約登録をして、それを証明するプレートを身に付けていれば町へと入るのも許可されるのだけど。
今の時点では、私たちの間だけで行われたいわゆる口約束しただけの状態なので、入ることは混乱を防ぐ為にしちゃいけない。冒険者ギルドのない小さな町とかではなおのこと厳しく、しょうがないので町の外でお留守番だ。
私はラメルを連れていくことを伝えた。当然、納得のいかないトニー君からの反発がある。
「なんで!? どうして連れていくの!?」
「この町の為、他のハーモラットたちの為… そして何より、ラメル自身の為」
「分かんないよ! なんでなんで!」
綺麗事にしか聞こえないかもしれないが、私もラメルは連れていった方がいいのだろうと判断した。
ただでさえ希少価値のあるハーモラット。
その変異個体が希少じゃないわけがない。体毛だけでなく、もしかしたら魔石があるかもしれない個体なのだ。
変異個体がいると広まったら、討伐しようとする輩が来るかもしれない。ついでにと、通常のハーモラットたちも狙われるかもしれない。
ガラの悪い人が増えたり、町でトラブルが起きたりする可能性だってある。
変異個体がもうその地にいない、もしくは誰かと従魔契約をしたというのが知られることは抑止力に繋がる。決して悪くはない話ではあるのだが。
……まぁ、そんな大人の勝手というか、事情というか。子供に今すぐ理解しろというのは難しいことか。
トニー君の気持ちをしっかりと理解し、受け止めた上で私は再度丁寧にそうする理由を伝えた。
「…………」
「ぽきゅ?」
話し終えてもトニー君は無言だった。
たぶん、頭では分かっているけど、心が追いついていないのかもしれない。けれど、こればかりはどうすることもできないのだ。
おじいさんに促され、私は彼らの家を出た。今はそっとしておこうということだろう。
けれどまぁ、永遠に会えないわけじゃない。ラメルが会いたがれば連れてきてもいい。どこか人目の少ない所に転移のマーキングをしておこうか。
…さて、後は町の人の様子をざっと見ていこう。幻覚作用の影響で体調を崩している人がいれば、治癒か浄化の魔法をかけるし。
それが終わればギルドに依頼の達成報告をしに戻ろう。
「あの…!」
~*~
数人の町の人の治癒を終えてラメルの所へ。ラメルには町の外れにある人気のない場所で待っていてもらった。
万が一、人に見られてもなんとか言い訳ができるように、アースとフィーラに元の姿に戻って一緒にいてもらっている。
『そうそう、それでね~』
『なんと! そのような場所があるのですか! 移住にはもってこいです』
…なんか、盛り上がっている。
移住とか言ってるけど何の話をしてるんだろう。言葉としては間違ってないけど、よく見ると一緒に待っているハーモラットの数が増えているような気がする。
なるほど、元々そういうタイミングだったのか。
ハーモラットは数が増えたら、何匹か元の群れから離脱して新たな群れを築く。あのハーモラットたちの群れはちょうどその時期だったのかもしれない。
『あ、リルフィ殿! 出発しますか?』
「うん。でもその前にね…」
私の背に隠れるようにしていたトニー君がおずおずと姿を見せる。驚くラメルの反応を待たずに駆け寄って抱きついていた。
背丈はまだトニー君の方が小さい。けれど一生懸命に、納得はできないけど理解していた。その心の在り方は子供ではなかった。
「ラメル、元気でね」
『少年も。あまりおじいさまを困らせては駄目ですよ』
「パパみたいなこと言う…」
『ウチの子たちもそうですが、少年も危なっかしいのです』
「遊びに来てね。来なかったら僕から行っちゃうからね」
『それはそれで楽しみだなぁ』
いつだって、子供の成長は眩しいものだ。
そしてそれは… そう思うことは私だけではないことだった。
~*~
夕方、日も暮れ始める頃。
ロトレイ領にいくつかある冒険者ギルドは、人の出入りが途切れることはない。その中の1つのアルヘン支部も同様で日中はすごく賑わっていてとても忙しく、万年人手不足らしい。
そんな忙しさも夕方になれば落ち着きを見せる。世間話をするくらいには余裕ができる。
「ルルさん、ただいま」
「えっ、あっ… お、おかえりなさい! 早かったですね」
「思いがけず協力者を得られまして。まずは達成報告からいいですか?」
私は調査概要、ハーモラットたちのこと、原因となったハルーシュプラントのことをざっと報告した。
結界内で害のある魔物がいることは少ないのでだいぶ驚かれたが、植物系の魔物ならあり得ない話ではないそうで。
それが鳥に運ばれるとかする自然的なことなのか、人為的なことなのか。早急の調査が必要と判断されて、今日明日中に調査隊を編成して調べ始める事が決定した。
討伐証明も出して、報酬も貰って。後は…
「あと、従魔契約登録いいですか?」
「えっ? 従魔契約…」
ルルさんの視線が下を向く。
受付カウンターの中のルルさんの立ち位置だと、私の真隣にいるラメルはギリギリ見えないらしい。
見えるとしてもぴょこぴょこ動く耳だけかも。
なのでラメルに一歩下がってもらって全身を見せてから再度言う。
「変異個体をそのままにもしておけなかったので連れてきちゃいました。登録お願いします」
「はいぃ~…」
ルルさんの腰抜けたような感じ。
温厚な種のハーモラットだとしても、まさか変異個体だとは思わないよね。私だって最初いるとは思わなかったんだから。
でも気を取り直すのも早かった。すぐに必要事項の記入用用紙とペンを渡される。
「すぐ戻るので! 書いてお待ちください!」
それだけ言って奥の方へ消えていった。
このまま進めてくれるということは、何も問題がないということだ。言われた通り記入を済ませてしまおう。
えっと… 魔物の種類名、付けた名前、主となる私の名前…
特別なことはない、普通のものだったのでさっと書いてすぐ終わった。名前もそのままラメルと呼ぶしね。
「あら、リルフィさんお早いですね」
「トロワさんはもう上がりですか?」
「えぇ、夕方上がりなんです。これから同僚とご飯でも行こうかと」
制服から私服に着替えたトロワさんと出くわした。
トロワさんはラメルを見ても特に驚いてはいなかった。代わりに生き物好きなのか、目をキラキラさせている。
触れていいかと聞いてくるので、ラメルに許可を得てからいいですよと言った。ラメルも人好きではあるみたいなので問題はないだろう。
同僚待ちの彼女はこれでもかとモフモフしていた。
「そうだ、丁度良いタイミングなので同僚を紹介しますね」
「…? これから来る同僚さんですか?」
「はい。とはいっても、リルフィさんはよく知っていらっしゃる方でしょうけど」
ギルド関連でよく知っている人?
そんな人、このギルドにいたっけ…
「まったくアンタは… 男だけじゃなくて魔物も引っかけてるの?」
考えてるとそんな風に声がかかった。
え、この声って…
「やっほ! リルフィ。久しぶり」




