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四大精霊の契約者  作者: 橙矢雛都
第1章『リルフィ』
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2.簡単には信じない




私の住む孤児院があるルドという町を含むここら辺は辺境の地だ。ど田舎だ。

孤児院の一番近く(それでも町1つ分はある)に、伯爵だったか子爵だったかの貴族がいたと思うけど、ハッキリ言って無名に近い。貴族でも貧乏の可能性大。

だから騎士団なんて雇えないし、いるはずがない。…のに。



「あ、あの…」

「君!」

「うぇ!?」



沈黙を打破しようと、思い切って話しかけたらいきなり大声を出してきたからびっくりした。びっくりしすぎて変な声出た。

その人は勢いよく私の所にまで来ると、肩をがっしりと掴んで顔を覗き込んでくる。

予想外の行動に、私はただただ目をぱちくりとさせていた。



『何なのかしら、この人間! 私のリルフィに軽々しく触れてくれちゃって!』

『フィーラのではないけど、その他は同意見だよぉ』

『さっきも見られちゃったみたいだしねぇ。…軽く殴って気絶でもさせて記憶飛ばす?』

『生温いな! 半殺しだ!』

「(ちょっと! 物騒だよみんな!)」



私にだけ聞こえるみんなの声に、私は念話でみんなを諫める。だって、本当にやりかねないから言っておかないと。

四大精霊でもある彼らの力が集束されたら、本当に洒落にならない。心配してくれるのは嬉しいけど、場合によってはみんながやりすぎないように全力で止める。止まらない時もあるけど。

そんな膨大な力を持つ彼らの庇護下に私はあるようだ。

だから正直に言ってしまえば、1人でどこに行こうが何をしようが、私に危険が降りかかることはほぼほぼない。

四大精霊の庇護下に加えて、元貴族なだけあって魔力も膨大。みんなによって色々と鍛えられたから、今ならドラゴンを相手にしても勝てる。…気がする。



「怪我はない? 大丈夫?」

「……え?」

「あぁ、顔にも血が付いて… ちょっとごめんね」



そう言うとその人は持っていたハンカチで、私の顔に付いたオークの返り血を優しく拭ってくれる。

心配されると思ってなかったし、優しくされるとも思ってなかった。だからその人のそんな行動に、私は体が硬直したように動かなくなる。

私は孤児院にいる人たちや、一時の息吹亭の人たち以外は、そう簡単には信用なんてしない。特に、貴族なんか大嫌い。

私を捨てた、貴族である父なんか。いや、私はもう貴族ではないし、縁を切ったから元父か。



「無茶しちゃダメだよ。女の子が1人でなんて、危ないからね」

「……」

「町まで送っていくよ。…あ、このオークたちどうしようか……」


『けっこう良い人っぽいわねぇ。場合によっては記憶を飛ばすのは止めてあげようかしら』

『ネールは優しいなぁ。でもそうだね、好感は持てる。今のところ』

『ふん、どうだか。アースもネールも甘っちょろい』

『サーラは短気なだけよね』

『フィーラは黙ってろ!』



うん、みんな盛り上がってる。みんなが言うならこの人は大丈夫、ってことなのかな。

私とネールとサーラが倒したオークたちを、物珍しそうに見てる騎士様。この森に現れるのが珍しいってだけで、オーク自体は珍しくないはず。

騎士団所属なら遠征とかして戦ったことあるだろうし。


私は少し後ろに引いて彼をじっと見た。

歳はそんな変わらないくらいだと思う。顔立ちも良く、背筋もピンとしていて騎士らしく、かっこよかった。

そうは思うけど、私は王都の人たちを信用しない。でも疑問には思う。



「騎士様が、何故、このような場所に?」

「指令、というか王命なんだ。人を探していてね」

「人を…?」

「国中に騎士が派遣されている。それこそ滅多に人が行かないような場所にまでね。いるとは思えないんだけどなぁ、こんな所になんて」

「どんな人を、探しているのですか?」

「詳しくは言えないんだけど… 10年前に失踪した、シルヴィア・オーストという名の女性を探しているんだ。あぁ、でも当時は7歳だったから今は17歳か」



シルヴィア・オースト

その名前はよーく覚えがある。忘れてしまいたい名前だが、どうにも記憶にこびりついていて忘れられない。

オースト公爵家のご令嬢だった人。現公爵の前妻の一人娘。

前妻が病で亡くなり、後妻におさまった女と、異母妹であるその娘の策略によって、わずか7歳で家を追われ、平民となった不幸な人だ。


…何故そんなに詳しいかって?

何故も何もない。私がその元公爵令嬢のシルヴィア・オースト本人だからだ。

シルヴィアのその後のことなら、体験談としていくらでも話せる。

けれど話すつもりも、名乗り出るつもりもない。今の私はシルヴィアではなく、孤児院育ちの平民リルフィだからだ。



「10年も経って、何故今さら探すのですか?」

「上の話では、無事を確認したいんだそうだ。希望は薄いだろうけど」

「…オーストって、公爵家の名前ですよね? 公爵家に何かあったのでしょうか?」



詳しくは言えないと言っていたけど、出来る限り聞き出したい。

私の今後に関わってくる事柄だ。情報源が目の前にあるのだから利用しない手はない。

騎士様はほんの少し迷う素振りを見せた後、仕方ないといった様子で口を開いた。



「……まぁ、いずれここにも情報が回ってくるだろうから話すけど、現オースト公爵と夫人、娘の3人が断罪されるんだ。日取りも決まっている」



断罪。

あぁ、そうか、そういうことか。

納得してしまった。だから王家は私を探しているんだ。

唯一の、公爵家の血を継ぐ人間である私を。



「大丈夫?」

「え?」

「顔色悪いよ。疲れた?」

「………」

「えぇと…」

「リルフィ、です」

「僕はラーティ。ラーティ・ロトレイ。リルフィって呼んでいい?」

「いいですけど…」

「僕のことはラティって呼んでね」



呼べるか! と一瞬思ってしまった。

ロトレイって、あのロトレイ辺境伯の名前と同じじゃない!

ロトレイ家は、この国の重要な土地を領地として任されている家だったはず。剣術も魔法も優れていて、私兵も騎士団並みに強いと噂で聞いたことがある。

公爵家と同等の権力があるとかないとか。実際はどうなのか知らないし、言うほど興味もない。


私は今は平民。いくら簡単に信用しないとはいえ、高位貴族相手に不興を買う理由なんてないし。

だからといって仲良くしようというわけじゃないけど、平民が貴族を愛称で呼べるはずもない。

本人が許可してるならいいのかな? いやぁ、でも呼びづらい。



「リルフィはもしかして魔法が使えるの?」

「……どうして?」

「さっき、オークたちを瞬殺してたでしょ? その時に魔力が動くのも感じたから」

「……」



…やっぱり、ばっちり見られていたようだ。

騎士団に所属していて、加えてロトレイ家の者であるなら誤魔化しとおせると思っていなかったけれど、さてどうしたものか。


それに、あと1つ問題がある。

オークたちの報告をするのはいいけど、そのオークたちをどうするか。

見られさえしていなかったらいつも通り、解体して使える所と使えない所を分けて、使えない所をサーラと共に焼却していたのに。

必要以上に冒険者のランクを上げたくないので、討伐証明は持ち帰らない。

ただ出没したことだけを伝え、必死で逃げてきたと言えばいいだけだ。


何度も思うが、冒険者として有名になりたいわけじゃないんだ。

勉強の為とある程度の体験、横の繋がりを作っておきたかったから冒険者登録をしたのだ。

正直、勉強だけなら精霊たちに教えてもらえるけれど、それだけでは目立ってしまう。冒険者という立場は隠れ蓑だったりする。

せっかく今まで目立たないように気をつけてきたのに、オークを5体も瞬殺したなんて、完全に目立つ案件じゃないか。



「このオークたちどうする? 討伐したということで良い値の報酬があると思うけど」

「そのことで1つ、お願いしたいことがあるんですが…」

「ん? どうしたの?」

「このオークたちを倒したのはラーティ様ということにしていただけませんか?」



見なかったことにしてもらえばいいのかもしれないけど、そうしないのにはいくつかの理由がある。

大きな理由は、このままではオークたちをいつものように処理できないからだ。

ラーティ様の言うような良い値の報酬は別にいらないから、食材となるお肉を分けたら他を焼却していた。

焼却(それ)をサーラと一緒にできないとしてもそこはまだいい。私だけでやれなくもない。

けれどもラーティ様がいるなら話は違ってくる。特に騎士団所属ともなれば、王家に情報が伝わってしまう可能性もある。

魔法が使えるだけならまだしも、問題はその威力。妖精ではなく、精霊と契約している私の魔法の威力は知られるわけにはいかない。

よって普通の、冒険者としての処理をやる必要がある。

それも別にいい。自分なりの方法から普通の方法になるだけ。



「…自分の手柄を無しにするってこと? どうして……」

「目立ちたくないんです。普通に、静かに暮らしたい。魔法が使えることも知られたくないし、お世話になってる孤児院の方にも迷惑はかけられない…」

「孤児院…」

「すみません… 貴族様に、こんな変なお願いをしてしまって…」

「……」



どう思っているのか分からないけれど、ラーティ様は何も言わなかった。

勘繰られているのかもしれないけど、理由として言ったことは全部本心だ。


私は貴族の生活なんて欲しくない。

私に貴族の親なんていないし、兄弟もいない。

家族は、孤児院にいるみんなだ。

10年もほったらかしておいて、今さらなんなんだ。

私を、探さないでほしい。




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