表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
hello goodbye  作者:
14/27

健気に願った若き不良

ぶかぶかのスウェットが、その高校生の小柄さを強調している。ふわふわの栗色の髪を後頭部の高い位置でくくり、耳には黒のリングピアスがついている。右頬には絆創膏、頭には包帯が巻かれていた。

当時高校生だった真冬は、武生を殴っていた高校生に飛び蹴りをしたのだった―――武生の顔面に足が到達する前に。

「なんだ?お前、女じゃねえか」

小柄な体型、まるで少女のような童顔でかわいい真冬を見た高校生集団は、油断した。飛び蹴りをされた一人は吹っ飛んで気絶しているが、こっちにはあと四人いる。こんな女に負けるはずがない、と思ったのだった。

それが、間違いだとも知らずに。

真冬は大きな目を瞬かせ、首を傾げた。

「ガキ一人に高校生五人か、随分よわっちいんだな」

「あ?」

真冬は低くも高くもない、中性的な声で、馬鹿にしたように鼻で笑った。まさか挑発されるとは思ってもみなかった高校生集団は、一瞬呆けた後に真冬を取り囲んだ。真冬は身長が高くなかった。大きな高校生集団に囲まれると、とても勝てると思えなかった。

武生は真冬を助けようと立ち上がって、また倒れた。頭がぐらぐらする、さっき殴られたからか。

真冬はその様子を見て、口の端をゆっくりと上げた。

「それに比べて、こっちのガキは勇敢だな」

うぅ、と唸りながらも、真冬のもとへと這いつくばっていった武生を、真冬は楽しそうに賞賛した。高校生集団は、真冬に馬鹿にされたことに気付くと、みるみる顔色を変えた。

「てめぇ、女だからって容赦しねえぞ」

「今の状況がわかってんのか!?」

「あーあー、わかってるって……吠えるなよ」

真冬は綺麗な顔立ちで、かわいらしくにっこりと笑うと―――…真冬の肩に触れようとした一人のでかい男子に、回し蹴りをした。とても綺麗な、そして速い回し蹴りだった。ふわり、と真冬の髪が靡いた。

「あ…ああああ…!!」

真冬の蹴りが顔面に炸裂した男は、鼻を手で押さえた。指の隙間から、赤い血が流れ落ちる。真冬はそれを見て、更に腹に蹴りを入れた。鼻を押さえていたために反応が遅れ、直接蹴りを入れられた図体のでかい男は後ろに飛んだ。

そして、他の高校生が逃げる暇を与えず、圧倒的な力で真冬は高校生たちを屈服させて見せたのだった。自分を殴っていた五人の巨漢たちが、小柄な少女(正しくは男子高校生)の足元に転がっている。なんとも奇妙な光景、武生は唾を呑んだ。

くるり、と振りむいた真冬は、武生のもとに歩み寄った。

「平気か?ガキんちょ」

馬鹿にしたように、けれどどこか誇らしげに真冬は言った。武生は頷いた。

「お前、頑張ったなぁ」

ぐりぐりと頭を荒っぽく撫でた真冬は、ニッと笑った。綺麗な顔に、高校生集団の返り血が飛び散っている。スウェットにも。真冬は顔の血を服で拭うと、武生をひょいっと肩に担いだ。

「!?」

なんで担がれている?武生は驚き、暴れた。けれど、背中に乗せられた真冬の手が、武生をぎりぎりと押さえつけている。力の差は歴然としている、それは武生にもわかった。

「おい、暴れんなって。傷の治療してやっから」

「だ、だい、じょう、ぶッ…お、おろ、降ろせ」

軽く真冬の背中をたたくと、「そうかぁ?」と言った真冬はすんなり武生を降ろした。足元がおぼつかず、ゆらゆらとした足取りで真冬に背を向けた。

「お前さ」

不意に真冬が口を開いた。

「もちっと自分を大切にしろよ。友達思いもいいけど」

武生が振り返ると、真冬はくるりと踵を返して去っていった。

「あり、がとう」

武生の言葉に、真冬は「おー」と気のない返事をしてひらりと手を振った。真冬の細くて小さい背中を、見えなくなるまでじっと見つめていた武生は、胸の高鳴りを感じていた。

いつか、いつか。

自分もあの人みたいに…護りたいと思う人を護れるほど―――…強くなりたい。


その後、真冬がここらで有名な不良であることを知ったのは、それから数日後の話であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ