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hello goodbye  作者:
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13/27

昔の憧れが恋敵

武生涼と、宮井智大は驚愕していた。

「おお、アサちゃんおかえり」

「ただいま、修造しゅうぞうさん」

「あ、おかえりアサ姉」

「ただいま、あんたちゃんと宿題やったの?」

「まだだよー、あとでやるもんね」

アサの家がある青空商店街に近づくと、アサを見て声をかけてくる人が急激した。お年寄りから、小さなガキんちょまで。今声をかけてきた人は、これで何人目だろうか。学校ではあんなに目立たず、周りとの関係を一切許さないという雰囲気で自分を守っているアサだったが、ここでは別人のようだ。声をかけてくる人たちと話すときのアサは、とても楽しそう。下を向かず、よく笑っていた。


「お、アサが二人彼氏連れてるぞ!二股だ!」

小さな子供が、アサを茶化しにかかる。いや、俺は彼氏じゃないんだけどね。智大が呆れたようにつぶやいた。

「武生涼はどっちだ!?」

小さな子供の一人が叫んだ。アサの肩が大きく跳ね、武生の眉が小さく跳ねる。あわあわしているアサ、武生の顔色を窺っているようで恐る恐る武生の顔を盗み見た。武生は相変わらず無表情、反応がないことが一番怖い。


アサは意を決して、武生に話しかけた。

「あ、あ、あのね…」

「ん」

「武生くんがこっちに来た時、フユさんと話したでしょ。あの、ほら…」

「あれか、結婚の挨拶か」言いにくそうなアサに変わって、横から智大がフォローした。

「フユさんが、ばらしちゃったみたいで…」

「あんなチビたちが知ってるなんて、どんなばらし方したのさ。あの美人さん」

智大が、心底驚いたように、それでいて楽しそうに言った。アサは真っ青になって、ひたすら武生の様子を窺っていた。当然だろう、色恋沙汰を言いふらされるのは誰だっていい気はしない。

「あの、ごめんね…」

「ああ、別にいい。それよりも…」

武生はちらりとアサを見て、頭を掻いた。

「フユさん、て言ったっけ。あの人は、男なんだよな」

「うん?」

まぁ、一応。頷いたアサ、武生はアサの返事に眉を顰める。

「あ、…お、お前はあの人と、どんな関係なんだ?」

「ぶふッ」

智大が噴き出す。アサ、と呼ぼうとして、お前、と言い換えた武生に対して。どんだけ奥手だよ、口から出そうになったツッコミを必死に飲み込み、息をついた。

アサは首を傾げて、智大に視線を向けた。どうすればいいの?と目で話しかけたが、智大は軽く首を横に振って笑った。智大にとっては、とてもおもしろいらしい。武生が、あの武生が。ひとりぼっちで嫌われ者、だからこそ周囲に壁を作っていた武生が、ヤキモチなるものを妬いている。そのことを思うと、とてもおもしろい。

にやにやしている智大。アサは諦めずに智大にヘルプを出しているが、どうやら答えはもらえないようだ。どんな関係か…という質問。アサは諦めて答えた。

「えっと…フユさんと私は、幼馴染だよ」

「幼馴染?」

「う、うん…」

食いついた智大に動揺しつつ、アサは続けた。

青空商店街ここはすごく近所同士仲が良くて、お向かいだったフユさんちと私んちはもう家族同然で…親同士も仲が良かったんだけど、それよりフユさんと私の両親がいろいろやんちゃしてて、それで…まぁ…」

最後の歯切れの悪さは、言いにくいことなのだろうか。武生は首を傾げて、アサの言葉を待った。けれどこれ以上アサが教えてくれるわけでもなく、武生は息をついた。

幼馴染、だと言った。それなら仲が良くて当たり前か?武生は真冬を思い浮かべた。

真冬は人気者だった。それは、噂に疎い武生でさえ知っている。ここら辺で、あの美貌であの体型、そして物腰柔らかい雰囲気、全てにおいて有名な真冬が、アサの幼馴染。しかも男だと言う。真冬よりも自分が優っているところなんて、何一つない。武生は、小さく落胆した。

真冬が恋敵なんて、到底太刀打ちできないではないか。


武生の脳裏に、昔の記憶がよぎった。

ふわふわの癖っ毛と、部屋着のようなスウェット姿。舞うように、しかし力強く、次々と巨漢をなぎ倒す一人の女の人―――だと今の今まで思っていた、高校生。顔は、覚えていなかった。しかし、一瞬にしてわかった。

アサと仲よさそうに話していた真冬が、その高校生だということに。

だからこそ、そのときからずっと憧れていた男子高校生(当時は女だと思っていた)とアサの繋がりを知った時は、運命だと思った。


当時、武生は小学生だった。



「てめぇ、なんだ?そのツラは!!ガキのくせによぉ、生意気なツラしてやがるなぁ!!」

ふぅ、ふぅ、息をすると体中が痛くて辛い。口の中が、鉄の味でいっぱいだ。痛みからくる涙が、目から落ちた。座り込み、痛みに耐える当時小学生だった武生を取り囲むのは、図体のでかい男子高校生五人。高校生の影が、武生にかかった。

「このあいだは…俺の仲間が世話になったなぁ」

にやにやと笑い、武生の前にしゃがんだ高校生一人は、まだ小さい武生の頭を鷲掴みにした。

「まさかガキンチョ一人にやられるとは、なぁ!!」

高校生はそのままもう片方の拳を、武生の頭にたたきつけた。武生は無抵抗だった。


武生はこのあいだ、この高校生の仲間を殴ったのだった。体格差はあったものの、武生はこの喧嘩に勝った。喧嘩の理由は、武生の同級生が高校生の仲間に殴られたから。

武生の同級生は、顔の骨にひびが入った。それが許せなかった武生が報復をしたのだ。

しかし、同級生は武生を避けた。同級生を思ってやった行動が、同級生を怯えさせたのだ。また同じ目に―――否、それ以上の目にあうのではないか。そう思った同級生は、武生を見捨てたのだ。


そうして、このような状況に至った。案の定、武生は報復された。しかも、人数が多すぎる。分が悪いを通り越して、勝算なんかない。小学生相手に高校生五人、周りから見れば卑怯だと言われてもおかしくはない。

ぼろぼろになった武生、しかし屈服はしなかった。殴られても蹴られても、高校生を睨み続けることはやめなかった。その結果、更に高校生たちの苛立ちを煽ることになっていたのだが。


武生が地面に倒れる、頬に小石が刺さった。

「むかつくガキだ、殺しちまおうか」

「おいおい、そりゃあねえよ」

嘲笑を含む声が、聞こえる。

「じゃああと一発で許してやるか」

ああ、くる。そう思った武生は、ギッと高校生を睨んだ。高校生の一人の足が飛んでくる、そしてものすごい勢いでこっちに向かい、顔面に届く―――…ことはなかった。

鼻先まで来た足が、消えた。と、同時に鈍い音が響き渡る。何度も何度も。そして叫び声も、助けを請う声も。何が起きたのかと体を起こすと、そこにいたのは高校生集団と、小柄な人間だった。


それが、真冬だ。

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