目が合っただけ
「あの、ほ、ほんとうに、うちまで来るの…?」
「おう」
武生くんが、うちまで送ってくれるそうです。トモも、一緒に。困った、ものすごく困った。
青空商店街、つまり私のご近所さんには、スーパーウルトラ情報網によって、武生くんのことは伝わり切っているだろう。青空商店街は、恋愛に関しての情報が特に早く伝わる。よって、武生くんは既に私の周りで有名人である。
それもこれも、噂を流したフユさんのせいだが、残念ながら口止めしておかなかった私が甘かった。まぁ、きっと私に言われたところであの人はバラさないことなんてないのだろう。
「ごめんねぇ、カップルで帰りたいところ邪魔しちゃって。俺、花屋の綺麗な人を一目見たくて…俺の…はつ、こい……うぅあああ」
「お、お、落ち着いてッ」
トモが両手で顔を覆って、泣き叫ぶ。焦った私は、ぽんぽんとトモの背中を叩いて、なんとか落ち着かせようと必死になった。なんで私が慰めているのだろう、ていうか私は同年代が怖かったはず。でもなんか、トモは、少し…平気かも。
それは、トモの明るい性格のおかげかもしれない。よく笑い、よく騒ぐ。そこに裏表を感じず、話していて安心感がある。
でも、武生くんはやっぱり怖い。外見が怖いのもあるけど、口数が少なくて、声が低くて、威圧感があって、何を考えてるのか全然わかんない。
ああ、私なんで武生くんと付き合っているのだろうか。そもそも、なんで武生くんは私なんかと付き合いたいと思ったんだろうか。
私がちらっと武生くんの顔を見ると、ばちっと目が合った。びっくりした私が目を逸らそうと思ったその瞬間、私より早く武生くんが目を逸らした。は、早い…ていうか、なんで全力で目を逸らされたのか。
落ち着いたトモは、にやにやと武生くんを見ていた。武生くんが右手で顔を覆った。その仕草に、トモが噴き出す。
「ぶッ…あっははは!アサちゃん、こいつ照れてるよ!なんだこの草食系男子!見た目超肉食で女とっかえひっかえしてそうなのに、目合っただけで照れるかふつうぐおッ……!!」
爆笑していたトモの背中に、武生くんの足跡がついた。トモは背中を武生くんに蹴られて、前のめりになる。なんとか体勢を立て直したトモの顔を、武生くんの大きな手が鷲掴む。めりめりめり、頭蓋骨が軋む音。
「ぎぃああああごめんほんとごめん悪ノリが過ぎたあああ」
トモの必死の叫び声もあってか、武生くんが手を離した。あれは、やばい。まじであのままだったら頭蓋骨割れてた。
…て、待って。
「照れて、たの…?」
目が合っただけ、だったのに。
私の弱々しい呟きのような言葉に、武生くんは近くの電柱に頭をぶつけた。




