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Musica Elaborate  作者: 柊
本編~学園編~
42/59

追加要員募集もとい拉致 2




紫ちゃん曰く


『目を付けてる子はいるんだけど、なかなか捕まらなくて困ってるのよ

私達も色々(・・)しかけたのだけれど、警戒されてるのか今じゃ近づいただけで逃げられちゃってねぇ


だから新顔でいけば意外といけるかもしれないと思ってv』


言ってることはもっともらしい。でも


「あのメンツで捕まえられない人相手に、私らだけでどうしろと?」


強制お茶会という名の会議から放り出され、私とゆずり、それにシェイドは最後の犠牲・・・じゃないメンバー候補を探しに獣人科へ向かった


もちろん自ら進んで・・・のわけがなく、



『よ、ろ、し、く、ね?3人とも』


――――しくじったらどうなるかわかってるわよね?

脅されて、だ!


「獣人科5年、黒駒ねぇ・・・・・・うーん、獣人科って死神とか天使と同じくガードかったくてさぁ、情報あんまりないのよねぇ」


愛用のペンでこめかみをつつきつつ、ゆずりはイイ男データとはまた違うマル秘帳を取りだす


「特にこの黒駒さんって獣人科内でも交友関係少ないのか、それとも影薄い地味系なのか、他の人の交友関係情報に全然名前ないしさぁ」

「・・・そのガードの固い獣人科の交友関係、いつもながらどうやって調べてんのよアンタは」


よくぞ聞いてくれました!とばかりにストーカーどころか犯罪一歩手前の、いわく情報収集のための“苦労”を暑苦しく語るゆずりを適当に流しつつ、私達は獣人科の門の前で足を止めた


獣人科は学園北西の、獣士科と魔女科の間にある

マルーン学園は各学科共通の講義室や多目的ホールなんかのある共通棟を中心に、各学科が円状に配置されてて、それぞれ森だったり壁だったり・・・時には結界なんかでそれぞれの領域を区切ってる

ちなみに北から獣士・獣人・魔女・死神・職員・天使・一般・剣士で・・・・・・もちろんこの並び、諸々の事情ですったもんだの末決定されたものらしい


だから各学科に出入りするなら専用の門から出入りしなくちゃいけないんだけど・・・


「獣士科のゆずりはともかく、私達まで入れるかな・・・」


剣士科はいわずもがな不仲だし、魔女は・・・良くも悪くもない感じ

魔女と獣士との間なら我慢できる、といわれたくらいには評価良いだろうけど、お互い積極的に関わり合うような仲じゃないし・・・


なんて心配は杞憂だった


こっちの制服を見てあからさまに顔を顰めた熊(熊っぽいじゃなく本当に熊)の門番さんは、紫ちゃんの手書きメモを見た瞬間怯えた様子で門を開いてくれた・・・・・・いつもながら、何したんだろう紫ちゃん

ともあれ、なんとか中に入れたのはいいけれど


「悪いが、いくら会長の命令でも勝手に動き回られるわけにはいかんのでな」


結局門番さんが黒駒さんを連れて来るまで、門の近くの切り株テーブルで待たされることに

まぁ門番のリアル熊さんお手製蜂蜜ミルクもらえたからいいけど


・・・しかし獣型獣人、手がもろ熊手なのにティーカップ仕様とは器用な


なんて妙なところに感心しつつ待つこと5、10、30・・・1時間以上



「・・・・・・遅い」


最初に口にしたのはシェイド

手持ち無沙汰に剣振りまわしてたけど、ついに飽きたみたい


「だいたい、普通は放送で呼び出して終わりだろう。なんでこんなに時間がかかるんだ」

「・・・えーっと、出かけてるとか?」


一応フォローは入れたけど、本当にそう思ってるわけじゃない

出かけてるなら出かけてるで、そう言えば済む話だから。ってことはつまり―――


居るのに――――見つからない。意図的に無視してるか、逃げ回ってる可能性があるわけで・・・


どっちにしろ、面倒な事にはなるんだろうなぁ。ああもうなんで私がこんな貧乏くじを・・・っ!

なんて、ネガティブ全開で頭抱えてたから気付かなかった



「六花!」

『あるじ!』


叫びと同時、重いのと軽い塊にぶつかられる感覚

視界が目まぐるしく変わり、地面と平行に―――押し付けられた形になって


ほぼ同時に


目を開けていられないほどの風圧が、来た



――――っなに!?


咄嗟に杖を出して、防護用の結界を展開する。同時にぶっ飛んだ木のテーブルが結界にあたって跳ね返った―――セ、セェェェェェェッッッフ!!!

初級用とはいえ、結界練習しておいてよかった!!!


視線をあげる。土埃で見通しの悪い視界に入ったのは黒い人影

でもそれも一瞬で、また新たな風を起こして人影が消える―――なんなの一体!



疑問はすぐに解決した


「ぐおらぁ黒駒!お前さんいい加減逃げるのやめいっ!」


叫びというよりは、咆哮


反応したのは、きっと3人同時

一斉に目を向けた私達に、熊さんは気圧されたのかすこししどろもどろで


「す、すまん、うっかり会長の使いが来たと言ってしもうて!ああああのボケ!テーブルが目茶苦茶やないか!」


次の反応は、ゆずりが一歩早かった


「へぇ、こりゃ確かに問題児。でも―――――追いかけっこなら負けないわよ」


やばい、なんか火ぃついたみたい―――目が異様にキラキラしてる


ゆずりがにやりと不敵に笑い、懐から石を取りだす。召喚用の“血盟石”だ

赤、そして白と砂色が混じり合った石を宙に投げ



“ ()んだ ”


『開け 狭間の門  繋げ 血の道  応えよ 盟友  ―――赤夜!白砂!』


獣士の召喚術。学園内でみたのは久しぶりかも!


不覚にもわくわくしてしまった私の目の前で赤と白の光が弾けた。視界が開けた時にはもうゆずりはまだらの獅子の背に飛び乗っていた

その進行方向と、一匹だけ残った白いコウモリっぽい魔獣―――白砂に、私も察してローブの飾りに手を伸ばす


あんたせめて一言くらいいいなさいよ!――――言わなくてもわかっちゃうけどさぁ!


ローブの留め金についている鈍い黄金色の飾りに力を込める。瞬きの間に光の“陣”が広がり、黄金は箒に形を変える


自然と宙に浮く箒の柄に飛び乗り、精神的に置いてきぼりをくらっているシェイドに手を伸ばして



「私たちも空から行くわよ!」


胸倉をひっつかみ、左足を叩きつけて柄を上むきに跳ねあげ、ほぼ垂直方向に箒を急上昇させる。うん、やっぱ立ち乗り気持ちイイ!

――――掴んだ手の向こうと、下でなんか叫んでた気がしたけど、まぁいっか










「お前、そのなんでも力業にでる癖どうにかしろ!」


空中でなんとか箒の後ろにまたがったシェイドが吠える(無理だ!と叫ぶので立ち乗りはやめた。楽しいのに)


「だったら呆けてないでさっさと動いてよ!なんかもうよくわかんないけど、とにかく黒駒さんとっ捕まえないと紫ちゃんに何されるかわかんないでしょ!?」


怒鳴るように言い合うのは怒ってるからじゃなくて、声を張り上げないと聞こえないからだ

件の黒駒氏、かなり移動スピードが速くてさっきから最高速度出しまくってるから、風がうるさくて普通に話しも出来やしない!下をのぞくと獣人科の森エリアに入っちゃったらしく、木々の間からかろうじて赤夜の姿が見える程度の視界しかない


『六花―っ今アンタ達どの辺飛んでる!?下からだと見えないから小まめに報告ちょーだいっ!!!』


ふわふわの白コウモリから聞きなれたゆずりの声が飛ぶ

ちょっとシュールだけど、今はそんなこと気にしてる場合じゃない、か!


「えーっと・・・今ゆずり達の進行方向から見て右後ろ辺り!赤夜後には付いていけてるけどこれ以上は無理!・・・とりあえず、ギリギリのとこまで高度下げるよ!」


最後は後ろのシェイドに向けて

初めての箒飛行で最初はギャーギャー言ってたけど、流石剣士だけあって運動神経はいいらしい

体重移動も上手くて高度を下げるのに特に支障はなかった。ああ、その運動神経スキルちょっと社会性とか気遣いに回せたらいいのに


「どう!下、見える!?」

「なんとかな!黒駒とかいうのは5テスくらい先を行ってるようだ!」


視界はちょっと良くなったみたいだけど、この位置だと余所見したら木に衝突!なんてこともありうるから私は視線を動かせない

ゆずりとの通信はシェイドに任せて、とりあえず飛ぶことに集中したけどっ


「なんとかしないと、はっきりいって体力勝負じゃ勝ち目ないわよ!」


魔力は足りるけど、箒移動は基本体力勝負

普段ならともかく自己最高速度維持しつつの2人乗りは思ったよりきつい!


『ゆずりさん頭脳労働は苦手なのー、アンタに任す!』


この野郎


いいつつも頭の中はフル回転。面倒だけどやるっきゃない、というかやらなきゃ後が(むらさきちゃん)怖い!


「六花、あの黒駒ってやつ、さっきから直進しかしていない」


息が耳元にかかって、ぞわりと肌が粟立った。シェイドの顎が肩にあたる

ちょっ、あんた!近い近い近いっ!


「俺達を巻きたいなら蛇行するはず、多分相手は直進方向に・・・っておいこら離れるな!」

「だってくすぐった・・・いや違う!こんな近くで話さなくてもっ!」

「離れたら叫ばなきゃいけないだろ!聞こえたらどうする!相手は獣人だぞ!」


・・・あぁ、そういうこと。確かにそれなら納得。でもせめて前フリくらいしてよね!心臓に悪い!


ってこいつにそんな気遣い期待するだけ無駄か。私は黙って耳をシェイドの方に傾けた

それを了解と取ったのか、シェイドは再び距離を詰めて


「前に灰に聞いた。獣人は人型の時でも獣型の習性が行動に現れやすいらしい

ならアイツが直進しかしないのはその習性故と考えていいと思う」


なるほど。だったら



「ゆずり、ちょっと速度緩めて距離とって。出来れば自然に。でもいざって時飛びだせるくらいの距離は取っといて」

『・・・りょーかいっ!なんかひらめいたわけね六花!』

「一応、ね!けっこう行き当たりばったりだけど、やらないよかマシでしょう!」

『はいはーいんv、追加でなんか喚んどく?』

「今はいいわ。嗅覚特化タイプなら気付かれるし・・・その時になったら合図するから、“緑玉(りょくぎょく)”によろしく」


ひとまず終わり、と白砂の頭を軽く撫でる。赤夜達と違って白砂はわりと人懐こいから、獣士以外が撫でてもあんまり怒らない


「あとは・・・・・・ねぇシェイド」


私は出来るだけ柔らかい声になるように努めた。それから可能な限り優しそーな笑顔になるように

いや、だって、ねぇ?



「あんた――――――高いとこ、平気よね?」


私なら、絶対やりたくないもん













黒駒は背後の気配が離れていくのを感じた

諦めたのか、引き離したのか、わからないが油断は出来ない。もう少し引き離すべきだろう


彼はそう判断し、再び地を蹴って




噎せかえるような花の“匂い”がした





直後、耳をつんざく爆音が響いた


軽く眉をしかめ、背後に飛ぶ

左右と前方にはまだいくらか花の匂い―――魔力が残っている。まだ罠があるのかもしれない




日が、陰った


視線をあげる。落ちてくる。



「・・・・・・・・・・・・・・・・毛玉?」



の、ようなものが  背後に


大きさから推測し、後ろに傾けた体を無理矢理前に倒す

魔力はまだ残っているが、近づかなければどうにかなるほどの“力”ではない


粉塵が巻きあがる


振り返ると、森の緑に混じって明らかに異質な・・・緑色の毛玉が、赤い8つの目でこちらを見ている

――――大蜘蛛か


見た目は醜悪だが、思ったより大人しいのか攻撃は仕掛けてこない

ならば強行突破とつま先に力を入れる






日が、陰った


視線をあげる。落ちてくる。



「ぜったい、あとで、おぼえてろ!」


悪態をつく、人間の男が 真上に



反射的に力を込める

一瞬甘い匂いがした後、鈍い煌めきが目に入った―――刃物、剣士か


咄嗟に匂いの薄れた右側へ避けて、気付いた




はめられた






「確保―――――っ!!!」


地面に引き倒されたのと、威勢の良い人間の女の声が上がったのはほぼ同時だった






もはやスカウトというよりハンティング(笑)

一番楽しかったのは箒に乗る六花です。本以外でテンションが上がる六花を書くのは貴重なので

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