追加要員募集もとい拉致 1
“ ”
声がした
自分の名 名を呼ぶ声 聞こえるはずのない声
目を開ける
見える、光が、空が、闇が、緑が、川が、大地が、人が、町が
でも
あの人はいない
一番会いたいあの人はいない、見えない、声が聞こえない
だから目を閉じる
光を、空を、闇を、緑を、川を、大地を、人を、町を
あの人のいない世界の全てを
――――――拒絶した
「貴女の顔、配色、パーツ、どれをとっても好みドストライクなんです!付き合ってくれません!?」
何のときめきも感慨もなく、それどころかメンドクセェと本気で思える告白場面なんてそうそうないと思う
いやそもそも、相手に馬乗り状態で告白っていう時点でときめきも何もないか
状況が飲み込めないのか、目を白黒させるシェイドの横で六花はフォローもなにも忘れて早々に傍観を決め込んだ
出会って5秒、や、10秒くらいは経ってたかな?
まぁどうでもいいわ。どっちにしたって非常識には変わりないし
ともかく覚えてる限り歴代最速で告白に踏み切ったゆずりは、こちらの白けた視線もなんのその
「・・・誰だ?」
至極まっとうな相手側(当然の如くイケメン)のツッコミに対しては
「あ、アタシは獣士科2年の桃山ゆずり16歳、第四世界出身で家族構成はおじいちゃんに両親兄姉弟の7人+魔獣達多数の大家族、趣味はイケメンウォッチングと情報収集と色ボケした親友をいじり倒すことで目下の悩みは師匠がめんどうくさい人なのと食堂の限定スペシャルプリンサンデーが手に入りにくいってことです!さ、とりあえずこれだけ知ればもう他人じゃないですよね?で、どうします?付き合います?一緒に青春しちゃいます?付き合いましょう!」
拒否の選択肢がないですよーゆずりさーん
あと最後、選択肢じゃなくて断定系だし・・・ここまで食いつくってことは、かなり好みだったのね。めんどくせぇなんでよりによって美形チョイスしやがった
“冷静に”分析する頭の片隅で、お決まりの文句がうずく
なんでこうなった
そもそも、本日の私の予定にゆずりの告白場面に遭遇、なんてなかった
そんなもん入れるより、有意義な時間の過ごし方は一瞬で20通りくらい思いつくほどに、お呼びじゃなかったわ。んな予定!!!
最悪の出逢いから早二ヶ月
面倒事はけっこう、いやかなり色々あったけど、朴念仁で空気読めない・・・けど嫌なやつではない相方と面倒な友人達ができたし、念願の“三日月”レベルにあがったし、なんだかんだと絶好調だった
今日帰って来た小テストの結果も予想より良かった・・・ま、相変わらず同科の子達には嫌われてるけど
でももういいか、とそう思えるから別にいい。うん、大丈夫、絶好調だ
その上天気は快晴、手には前から読みたかった魔術史の本
うん、空いてたら外のベンチで読書もありかな。今日の講義はもうないし・・・
考えつつ中庭へ続く回廊を進んでいくと、腕に違和感
『キゲン、よい? あるじ』
するりと腕に絡みついてきたのは、ついこの間契約したばかりの“使い魔”アシュ
蛇に似た体に羽を生やした姿は慣れると結構かわいらしい。まだ意思疎通がうまく言ってないから会話はおぼつかないけど・・・いやそれも可愛いかな、うん
蛇っぽいっていっても腕ひと巻きくらいしかない長さだし、小さい羽をぱたつかせて飛び回る姿は小動物に懐かれてるみたいでなんか、こう、きゅんとする
・・・って言ったら男連中はドン引きしやがったけどね!
まぁわかってくれたのがゆずりだけっていうのは、ちょっとアレだけど
『あるじ?』
「ん?あ、ごめん何でもないよアシュ」
笑って、アシュの真っ白な鱗を撫でてやる。使い魔との身体的スキンシップは結構大事だ
まだ意思疎通がうまくいってない時は特に重要で、その辺は人間とも変わらない
ただまぁ私の場合・・・交友関係が狭い上にちょっとアレだから、そこらへん上手くできるか心配なんだけどね・・・・・・あーつるつるしてて気持ちいいなぁ~・・・・・・えへへ
人差指で鱗を撫でながら、思わず顔がゆるむ
正直なところ、使い魔が蛇系って聞いた時はちょっとスキンシップとかできるか!?とか思ってたけど、この感触はけっこうくせになりそう。うん
満足いくまでアシュを撫で、気を取り直して意気揚々と中庭へ踏み出す
瞬間
『遠きは近く 近きは遠く 月求める夢追い人 手にせよ満ち月――――六花ちゃん、確保v』
足元に魔力を感じた。かなり強い、というか強引なのは術者そっくり。ついでに放つ光も紫がかっている
紫ちゃんが近くにいないってことは使い魔を介した転送術かな
= 緊急招集
= 面倒事キタコレ
「私の平穏、ここまでかっ!!!」
頭を抱えるのと同時、足元から地面が消えた
ぽすりと尻もちをついたのは、冷たい床ではなく二人掛けのソファだった
柔らかく、深く沈むソファは間違いなく高級品だろう。鑑定眼なんて持ち合わせてないけど、たいていよく沈むソファー=高級品だ
部屋の中央、ティーセットとお菓子が盛られたテーブルを囲うように二人掛けのソファが4つ
私から見て右側には桜さんと篁さん、左は空、そして正面は予想通りというかまぁ・・・お呼び出しの張本人が
「呼び出しってプチお茶会?」
目の前で優雅に足を組む―――ああなんで美人は無駄に足も長いんだろう―――紫ちゃんに、軽く眉をひそめて見せる
と、紫ちゃんはぱっとみ優雅、深読みすればうさんくさいことこの上ない笑みを浮かべて
「いいえ、作戦会議よ・・・・・・といっても、まだ全員そろってないんだけれど」
言って私とアシュに紅茶をすすめてくれる・・・アシュって紅茶飲めるんだ
また何かろくでもない事が起こるのは確定としても、とりあえず美味しい(確定)お菓子をいただくことにした
そうこうしているうちにくぅ兄がやってきて、紫ちゃんの膝を枕に昼寝を始める。あれ、作戦会議?
じっと見てると、くぅ兄が薄く目を見開いて一緒に寝るか?とか聞いてきたので丁重にお断りしました
とりあえず従兄妹相手に流し眼はやめようくぅ兄。見慣れてても心臓に悪いよ美形は!
とか思ってるうちに、私の右側に魔術の気配
・・・他のソファも空いてるのに、なんでわざわざ隣に呼ぶかな紫ちゃんは
思うのと
「うわあっ!」
と情けない叫び声が上がるのはほぼ同時だった
もう慣れた・・・というかほんと、あんたねぇ
「いい加減慣れたら?」
ソファの端まで寄って限りなく私から―――というか、私の手からマカロンをつついているアシュから身を離そうと無駄なあがきをしているシェイドに、半目を向ける
「無理だ」
そして即答。ちったぁ頑張りなさいよアンタ!
ちなみにこのやり取り、多分もう50回は超えてる
なんたってこのヘタレ、アシュを使い魔に選んだ日にわくわくをこらえきれず、半分自慢で紹介しに行ったら・・・
こっちを見た瞬間、思いっきり顔をひきつらせて逃げやがったんだから!
しかも第一声が『気持ちが悪い、近づけるな、こっちに寄るな!』はないでしょ!アシュはこんなに可愛いのにっ!
「トラウマだかなんだかしらないけど、仮にもコンビ組んでるんだから、見るたび悲鳴上げられると迷惑なんだけど?」
眉を寄せるとシェイドはさらに掌一つ分、私達から離れて
「だったらお前も、大量のそれらと一晩過ごしてみろ」
恐怖で泣くぞ!
「え、普通に過ごしたけど?」
それもついこの間のこと
基本的に一つの魔女一族に一つの使い魔一族が代々つくようになってる。たとえば紫ちゃんのところは真珠色の蛇で、パティはコウモリ、桜さんは・・・まぁあそこは特別ね、うん
で、我が家の使い魔達はここ何代か魔女がいなかったから、親戚でもある紫ちゃんのところに預けてた
普通は契約した魔女の一族が世話するのがいいんだけど、魔力皆無だと会話も出来ないし、なにより使い魔としての訓練もできないからね
それで三日月レベルになって直ぐ引き取りにいったんだけど・・・
まぁ何代も放置状態だったもんだから、意思疎通が大変で
使い魔の契約が生きてたから面倒にはならなかったけど、主人認定してもらうのに何日か寝食ともにしたり・・・うん、大変だったけど怖くはなかったわ
言うと思いっきり不審者を見る目を向けてきやがった、近くに合ったクッションを思いっきり投げてやった
ドゴッとかちょっとクッションにあるまじき音がしたような気もするけど気にしない、うん
「はいはい、じゃれるのはそこまでよお二人さん」
「「じゃれてない(です)!!」」
叫ぶけど、先輩方は誰も気にせず優雅にカップに口をつけて
「それじゃぁ全員そろったところで
――――そろそろ残り2人のメンバーを決めようかと思うんだけれど」
・・・ああ、そういえば2人足りなかったんだっけ
気付かなかった。というかメンバーが1人頭常識人1.5人分は存在濃すぎて忘れてた
え?酷い?
・・・・・・これからまたトンチキな連中(確定)が増えるかと思うと喜んでなんかいられるか!
「はいはい六花ちゃん、色々察してくれているようだけれど・・・今のうちのチームに足りない人材は何だと思う?
シェイドくんも、アシュから逃げるばかりじゃなくて考えてみてちょうだい」
紫ちゃんの声に意識を現実に戻す
今まで紫ちゃん・くぅ兄なしで何度か学ゲー模擬戦があった
8対4とかあからさまに不利な状況だったけど、人数だけじゃなくて・・・
考え、口を開いたのはシェイドとほぼ同時だった
「獣士」
「獣人」
ちなみに獣士が私で、シェイドが獣人
割れた意見に紫ちゃんが面白げに笑って
「理由は?」
一瞬視線をかわし、ゆずる
一応そのくらいのアイコンタクトは通じるようになってきた・・・まぁ密度濃かったしね、この数カ月
一瞬遠い目になった私に構わず、シェイドは居住まいを正して
「うちに足りない機動力と敵の探索能力を補うためです」
お、と思ったのは考えてる事が同じだったから
先輩方もシェイドの答えには満足したのか、黙って頷いて先を促す
「探索魔術だけでは魔術防護で防がれますし、限界があります。ですが獣人なら五感を使うので確実性は多少おちても、術の穴を埋められる
それに速攻が必要な場合、獣人の瞬発力・機動力は有用かと。魔術の肉体強化では限界もありますし、なにより基礎能力が違う分、人型種族だけでチームを組むよりも攻撃の幅が広がると思います」
獣人―――魔獣とは違う、半獣半人の種族。魔獣の一部が人間と交わった種だとか、人型になる魔術を使い続けた末にそれが定着したとか・・・色々説はあるけど、未だに謎の多い種族
基本は第六世界に住んでいて、他世界と交わることは滅多にない。唯一交流があるのが学園と軍くらいかな
迫害された過去―――や、過去ってことにしてるのはお偉方だけだけど――があるから、当然の結果だけどね・・・
獣人は大きく分けて灰くんみたいにほぼ完璧な人型と(見たことないけど)獣型の姿を自由に変えられるタイプ
童話みたいに獣の姿そのままで(多分)二足歩行してるタイプに分けられる
どちらにしても獣の特性を受け継いでいて、特に人間に比べて五感なんかが発達してることが多い
あとは種族によるけど鳥族なら飛行能力があるし、狼族や虎族なんかだと身体能力が人とは段違い
だから敵の探索なんかでは有利だし、実戦的な事でいえば肉弾戦なら獣人の一般人は人間の軍人レベル・・・・・・学生レベルじゃ素手なら最強って言ってもいいだろう
うん、確かにスピードある接近戦面子は欲しい
メンバーの半分は接近戦しめてるけど、篁さんは大鎌使いだから素早い行動は難しいし、くぅ兄は体格良いしシェイドも細身だけど背丈はあるからスピード派ってわけじゃない
にしてもなぁ。戦闘系に関しては頭まわるのに・・・・・・・・・・・・・なんで同じ対人でも人間関係になるとあんなダメダメなんだろうコイツ ←今さら
シェイドの説明に満足したのか、紫ちゃんはにこりと3割増し輝かしい笑顔を浮かべる
ほっと隣でひっそり息をついたのが聞こえたから、頑張って手を伸ばして(遠いのよアンタ!)肩を軽く叩く
お疲れさま
なんて他人事のようにしてたら、いきなり矛先がこっちに向かう
「六花ちゃんも、同じ意見なのかしら?」
頷く、でも問いかけは続いて
「じゃぁ獣人じゃなく獣士を選んだ理由は?」
流石、授業と違ってそう簡単には終わらない
試されてる、その事実には緊張する。でも――――こういうの、嫌いじゃない
学科の中じゃ、試されることもなかったし
一瞬過去の諸々を思い出しかけて、頭を振る
だめだめ、一度ネガティブ思考にはまりだすとずるずるいっちゃうし
誤魔化すように紅茶を一口含み、喉を潤す
うん、大丈夫
「通信も出来るから。学ゲー模擬戦だと桜さんの魔術で連絡し合ってたけど、本戦になったら長期戦もあり得るでしょ?」
図書館で調べた過去の学ゲー記録を頭でなぞる
確か最長1週間も戦い続けたグループがあるらしい。その間授業どうしてたんだろう・・・てのは野暮よね
「そうでなくても、他に魔術も使うのに通信魔術を全員分繋ぎっぱなしってかなり負担になると思うの
その点、魔獣を使った通信なら負担もないし、なにより魔獣の分人員が増えれば人海戦術も出来て戦略の幅も広がるし」
そうね、と頷きが一つ――――良かった、及第点みたい
「2人共、いいところをついてるわ。じゃぁ全体として欲しい人材は一致するわけね?よかった」
ほっと肩を落とすと、シェイドが自分の皿に山盛り乗せていたマカロンをひとつ寄こしてきた
ひとつっていうのがまたシェイドらしい、かな・・・アシュに威嚇されてすぐに退くところも
でもせっかくだから、ありがたくもらっておく
ちょっとお行儀は悪いけど一口で放り込んで、喉を潤すのにもう一杯―――――
「実はもう目星付けてあったから。ね、ゆずりちゃん」
飲んで、噴いた
そりゃあもう盛大に。ついでに噎せた
『あるじ!?』
「お前・・・噴くなら食べ物が無い方に噴け」
言うに事欠いてこの男っ・・・!いやいい、とりあえず今は良いわ
問題は
「ちょっと六花ぁ、あんたどこで良い男が見てるかわかんないんだから、常に立ち振る舞いには気ぃ使いなさいよ!そんなだから彼氏出来ないのよ?」
入学以来連戦連敗の女に言われたくない、というか
「・・・なにしてんのゆずり」
いつの間に・・・は、この際いい
どうせ自分の魔獣だか紫ちゃんだかの力で隠れてたんだろう
――――私を驚かすため“だけ”に
この暇人
毒づいて半目を向けるとゆずりは反省など微塵も見せず、相変わらずのけたたましい声で
「なーにもどうも、この状況で察せないあんたじゃないでしょ~
あ、それとも色ボケして頭鈍っちゃった?」
とか戯言ほざきつつ肩に回してきた手を跳ねのける
もちろんゆずりは気にもせず、逆に後ろから抱きつく形で思いきり体重をかけてきて
「つれないわねぇ、親友のあたしが同じチームなら心強いでしょ?」
「今は心と肩が潰れそうよ、“重くて”」
最後を強調してやると、回された腕がビシリと固まる。最近体重気にしてたしねぇ・・・
ちょっとだけすっきり
気が晴れたところで冷静になってみると、ゆずりって選択は妥当だと思う
今から知らない相手がメンバー入りするよりも、見知った人の方がチームワーク乱れなくていい。幸いゆずりはくぅ兄と篁さん以外とは馴染みだ・・・この2人はそもそもあんまり他人に興味ないしね
「で、ゆずりはいいとして・・・もう1人は?」
視線をやると、紫ちゃんは二コリと笑って
「それはこれから―――――拉致ってきてね、3人でv」
は?
言ってることもやってることも犯罪な生徒会長、久我紫(笑)
次回、黒い人を拉致りに行きます




