雑草魂エクスプロージョン 3
――――――そうか
柔らかい声音 それにすごく、すごく綺麗な 碧の
「ってえぇぇぇぇぇっ!!!」
跳ね起きた瞬間、そこがここ数日で見なれた紫ちゃんちの寝室だと確認する
あ、なんだ夢か・・・
――――って!なんであんな夢見てるの私!
いやいやいやいやだってだってだってだって・・・・・・・ビックリしたから
いつも仏頂面とか怒った顔とかすかした顔とかしか見たこと無かったから
うん、珍しかったから、だから印象残っちゃったんだろう
そう考えると一気に熱やら動悸やらがおさまっていった
落ち着いて、窓の外を見るとまだ少し薄暗い
・・・・・んー、まだ少し寝れるかな?
二度寝、二度寝♪
ともう一度横になろうとした時―――――目が合った
「・・・・・・・んあ」
焦点の合ってないティエンランと・・・・寝ぼけてる?
「え、えぇっと・・・・・起こした?」
んだろうね、この状況的に
「あ、あははは、ごめんねちょっと夢見が悪くて「リーア」
は?何言ってんのコイツ
と思った瞬間視界が反転した。視線は壁から一気に天井へ
抱きかかえるように回されたのは、筋肉がついてしっかりとした―――男の子の腕。見えないけどどうも布団の下では技かけるみたいに足も絡められている様子
・・・・・・・・・・・・・ちょっと待って
混乱する頭で首を左に回すと・・・心地良さそうに寝息を立てるティエンランの顔が
―――――鼻先が触れそうなほど近くに
「ギャ――――――――!!!放せバカァアァァ!!!」
三日目――最終日の始まりは絶叫と打撃音から
「あー・・・・・なんでシェイドくん、朝からそんなボロボロなわけ?」
「この凶悪犯に殴られたせいだ」
「なっ!よく言うわよ!もとはといえばアンタが悪いんでしょ!?」
人に抱きついておいて何を偉そうに!
頭の中に浮かんだ文句を並べてやろうかと思ったら、私が言うよりティエンランが口を開く方が先だった
「勝手に人のせいにするな!だいたいお前こそなんなんだ!?昨日といい今日といい、寝起きにしかけてきやがって!」
「はぁ!?今日は殴ったけど昨日のことなんか知らないわよ!」
「ふざけるな!人にステップオーバー・トゥホールドやクルック・ヘッドシザーズ、スコーピオンデスロックにベアハッグ、極めつけにはステップ・オーバー・トゥ・ホールド・ウィズ・フェイスロックまでかけてきたくせに!」
おかげで俺は昨日一日全身が痛くて仕方がなかったんだぞ!
・・・・・・・・え、なにそれ
疑問に答えたのはゆずりだった
「あーらま、見事なプロレス技のオンパレード・・・・・・・・はっはぁ、どうりで昨日シェイドくんビクついてたわけだ
どーうせ寝起きにこの子に技かけまくられた、ってとこでしょ?」
え?
視線を移すとティエンランがその通りと大きく頷いたところだった
「・・・・・・・・へ?」
「アンタ昔っからたまに寝ぼけると人にプロレス技かけてたのよ?誰に仕込まれたのかは知らないけど、まー足技手技腰技まで
・・・・・・打撃系ならともかく、寝技ばっかり」
・・・・・・・・・・・・・・・・・その含みのある視線は何なのよ
「六花ってば大人しい顔してv」
「誤解を招くような発言はやめい!!!」
と、そんなこんなでついに最終日
今日さえ乗り切ればこの手錠からは解放される・・・・・んだけど
一応当初の建前というか目的の、コンビネーションは・・・・・・・・どうなんだろう
まぁ確かにティエンランのことは多少わかったけど、それがいったい戦闘に何の役に立つのか?ってこともあるわけで
最悪の場合また手錠!?なんて思っていた矢先に
事件は起きた
その日は朝から伯爵令嬢の襲撃もなく、クローヴァーさんからの嫌味攻撃もなく、珍しく嫌がらせも軽め(嫌がらせレターに物落ちてくる、行く先々の陰口くらいで)で、割と平和な一日だった
朝に言い争いこそしたけど、まぁティエンランとも会話少なく喧嘩もせずに
このまま平穏に終わってくれないかな、なんて
――――――期待した私がバカでした
えぇ愚かでしたとも!ただでさえ普段から絡まれやすくて平穏には遠かったのに
・・・・・・・いや、でもまぁちょっと遠い?くらいだったか
とにかく普段がそれなのに、こんないかにもネタにして下さいな恰好で、その上タチの悪い噂まで流されて、しかもいかにも敵の多そうなティエンランが隣にいて
何も無いはずがなかったのよ
「おい魔女、この間はよくもやってくれたな」
出やがりました、あの時の本を粗末にしようとした最低剣士科野郎共
―――まぁ飽きもせずありきたりなセリフを吐くものだ
しかもそれに追従するように
「貴方また図書館で暴れたんですの?公共施設をなんだと思っているのかしら
設立に力をつくしたわたくし達に失礼だと思いませんの?」
ダブルアタックか。やりやがりましたよコイツら、手ぇ組みやがった
ティエンランと伯爵令嬢が最悪の組み合わせだと思ってたけど・・・・・下には下がいた
ごめんよティエンラン、あんた全然マシだったわ
空気読めないし間が悪いし無神経なとこもあるけど――――コイツラみたいにタチ悪くない
図書館で暴れた、うん確かにその通り、弁解のしようもない
けどねぇ!
私は本はもちろん本棚にだって傷一つ付けてないし、背もたれにしたこともないし、貴重な文献を傷つけようとしたこともない!
だいたいわたくし達がってなに、わたくし達がって!
あれを設立したのは久我家を筆頭とする各世界の王様達で、確かに貴族も支援したけど一般市民だって微細だけど寄付はした!
ていうかそれ以前にそれやったのは私達やコイツらのご先祖であって、コイツら自身じゃないでしょ!
それをなーにを偉そうに、いかにも自分がやりました的にいってんのよ!
しかしそれを言うより前に
「お前、久我会長と親戚らしいな」
何で・・・・と思ったら、伯爵令嬢と取り巻き、その後ろの方に見知った魔女科の制服が
――――――まぁいつかはバレるだろうとは思ってたけど
「そうだけど、それが何よ
アンタ達に血縁関係とやかく言われる筋合いないでしょ」
そのまま横を通り過ぎようとしたら、体格のいい剣士科数名に邪魔された
「ずいぶん偉そうだな、魔女の、それも最下層の奴が」
剣士科のボスみたいな奴―――カーディナルとかいったっけ―――がニヤニヤ笑うと、他の連中からも哄笑が起こる
あー面倒くさい、だいたい廊下の真ん中でつっかかってくんなっつーの。通行妨害じゃん
・・・・って言ったって、だいたいは見て見ぬふりだから問題ないのか
「もうばれたから、堂々と恩恵に与ろうっていうことか?」
「・・・・・」
どういうこと、なんて聞くほど馬鹿じゃない
もう魔女科では何度も何度も言われたことだし、予想の範囲内ってやつね
にしても今回やっぱ伯爵令嬢いるからティエンランは無視っぽい?
まーどうでもいいけどね、はっ!
「だんまりなんて、良い身分だな。いつから俺達のことを無視できるほど偉くなったんだよ」
無視っていうのは上の人間がやることだぜ
「勘違いするなよ、お前はただ久我家とちょっとしたつながりがあるってだけだ。お前自身にはなんの価値もないんだからな
俺達はわざわざそれを忠告しに来てやったんだ」
・・・・・・・・・・・ちょっと誰かこの思い上がり野郎共殴る許可をください
なんなの?なんなのこのいかにも俺が上だぜ、って態度は
アホらしい
面倒だけどこれ以上関わるのも嫌だから引き返すか・・・・なんかコイツいると、ティエンランの方も空気悪いし
そう思い、背を向けた六花に投げかけられたのは
「だいたいおかしいと思ったんですわよ、わたくし」
――――落ちこぼれの貴方が、筆記は学年一位なんて
足が止まった
そんなつもりはなかったのに
「どうした?」
ティエンランにそう聞かれて、別にと答えてそのまま行く
そうしたかったのに
答えることが出来なかった
「いいですわよねぇ、公爵家と微細ながらも繋がりのある方は
わたくし達がどんなに努力したって届かないものが簡単に手に入るんですから」
もう何度だって聞いたことだし、無視してそのまま行けばいい
慣れてる、私はもう慣れた
慣れた、慣れた、慣れた!だからどーってことない!
「卑怯者」
小さな小さな声は、剣士科からでも伯爵令嬢達からでもなく
隠れるように、埋もれるようにいた魔女から
聞こえるはずのないそれが、なんでかハッキリ聞こえた
「まったく、何でそんな真似をしてまで魔女科になんかいたいんだか
わたくしだったら恥ずかしくて、大きな顔して歩けませんわよ」
「何考えてんだか、さっさと自分の分てもの見極めて諦めればいいのに」
また哄笑
これ以上こんなとこにいたってストレスたまるだけだ
「さっさと行こう、遅くなると学食混むし」
ティエンランが何か言った気がするけど無視だ。悪いけど文句は後で聞くから今は動いて
背に向けて投げかけられる言葉を無視して踵を返す
振り返った先―――遠巻きにしていた野次馬の中に見慣れた顔
ウイスタリア・フィ・クローヴァー
筆記は二位で、実技は一位、文句なしの実力者で優等生
落ちこぼれの私とは正反対の人
剣士科嫌いで、誰よりも魔女科であることに誇りを持っている彼女の顔が
後ろの連中に賛同してるみたいに、見えて
頭をふった
―――これじゃぁ被害者意識過剰なヤツみたいじゃない
嫌になる
そのまま野次馬をつっきって
「ふざけるな!」
行こうとしたら怒鳴られた
ティエンランに
全員が呆けたような顔になったが、残念ながら六花には見えなかった
無関心主義なシェイドが何か言うとは思わなかったのと、何で自分に向って怒鳴ったのか理解できず
口を半開きにしたまま、青筋浮かべたシェイドから目が離せなかったからだ
「な、なんだシェイドいきなり!」
一番先に我に返ったのはカーディナル・ロウ・ローシェンナだった
その声で六花もつられて我に返る
「なんなのよいきなり!文句だったら後でちゃんと聞くから」
今は行こう、そう言う前にまた怒鳴られた
「後じゃ遅い!今言わせろ!」
「なっ!何でよ、いいじゃない別に!アンタに迷惑かけたのは謝るけど」
続く言葉は鋭い碧に射ぬかれ、途切れた
「はぁ?何言ってるんだお前は!そういうことを言ってるんじゃない!」
それから後ろで「人の話を聞け」とか「シェイド様!?」とか言ってる連中を睨みつけ
――・・・・見てるだけでもちょっと怖かった
固まったあいつらに、さらに指を突き付けて
「あんなこと言わせといて何で黙ってるんだ!いつも俺に言ってるみたいに怒鳴りつけてやればいいだろ!」
「はぁ!?何であんたにそんなこと言われなきゃならないのよ!
別にあんたが言われてるんじゃないからいいでしょ!?それにあーいうタイプは一々相手してたら余計に増長してくるのよ!無視するのが一番!慣れてるからそのくらい平気だし!」
「嘘つけ!」
さっきから何なのコイツは!なんで私が嘘吐き呼ばわりされなきゃ
「慣れてなんか、平気なんかじゃないくせに意地張るな!」
「っ!」
咄嗟に、違うって言い返せなかったのは
「普段の嫌がらせにしたってそうだ!お前全然平気じゃないだろ!
慣れてるだぁ平気だぁ言ってるわりにあんな顔しやがって!中途半端なんだよ!」
コイツの言ってることが当たってるからだ
平気じゃない、平気なわけがない
練習しても練習してもなかなか上手く出来なくて、ならせめて勉強くらいはってそう思ったのに
―――――理事長の家と知り合いだから贔屓されてる
って
そんなことしてないって言っても、落ちこぼれの私のいうことは誰も信じてくれなくて
みんなが私は贔屓されてる――カンニングしてるなんて言いだして
否定しても何にもならないなら、我慢するしかない。勉強し続けて、一番とり続けて、もっと練習して実技も出来るようになって
認めてもらえるまで、我慢するしかない
落ちこぼれの私は人の何倍も努力しないと駄目だから
だから―――――でも
「っあんたに何がわかるのよ!」
私の中で確実に何かが焼きキレた
―――――人に言わせれば、それは堪忍袋と言う奴らしい
「私だってあんなムカつく連中四つに畳んで埋めたいけど、そんなことしたって何も変わらないんだもん!
口で違うっていっても誰も信じてくれないしっ・・・!何言ったって噂は消えないし、鬱陶しい言いがかりつけられるし!でもこれで逃げたら私負けたみたいで悔しいじゃない!
だったら平気な顔してるしかないでしょ!でも辛くないわけないじゃない!」
支離滅裂だ
でも一度キレた理性を戻せるほど、私の冷静さは残っていなかった
「辛いのずっと我慢してられるわけないじゃない!なのに中途半端ってなによ中途半端って!
悪かったわねぇ!今度からはアンタがお気に留めないようにちゃーんと平気な顔して「だったら我慢することないだろ!」
言われた言葉の意味が分からなかった
・・・・・・・いや違う、頭で理解できなかったんだ
だってこんなこと、よりにもよって
「辛いんだろ!腹立つんだろ!だったらなぁ」
アンタがそんなこと言ってくれるなんて、思わないじゃない
「我慢なんかするな!畳んでやれ!俺が許す!」
あとがきは活動報告にて