雑草魂エクスプロージョン 4
思いがけないシェイドの発言―――何せ普段は他人事に路傍の石以下の興味しか抱かない男だ。だからこそ彼の目の前で六花に絡んだわけだが―――に一様にポカンと口を開けて
「な、何を言ってるんですのシェイド様!」
「おい!なに勝手に許可出してるんだお前!」
などなど、口々に叫んでいたが当の本人たちには全く届いていなかった
「な・・・・・」
何言ってんのアンタ、その一言すら言えなかった
だって、だってだってだって
「なんで」
なんでよりにもよって、紫ちゃんでもくぅ兄でもゆずりでもなくコイツが―――
「なんでだと!?そんなこともわからないのかお前、バカか!?」
――――って、はぁ!?
「だーれが馬鹿よ誰が!」
「お前だ!」
この野郎殴っていい?殴るべきよね!?
「確かにお前は魔女のくせに魔術らしい魔術は駄目過ぎて目も当てられないが」
ふざけんなコンチクショ――――
「その分他の奴らの何倍も努力してるだろ!!!」
握りしめた拳が緩んだ。鏡で見なくてもわかるくらい目を見開いて
「だいたい本当にカンニングしてたなら教授の質問にあれほど的確に答えられるわけがない!
まともな頭持ってるやつなら普通は気付く!二日一緒にいただけの俺でも気付いたんだ、他の魔女科の連中が気付いていないはずがないだろう!?
それでも、そういうことを言うってことは、そいつらは気付いていながらお前の努力を無視しているということだ!」
私は何も言えなかった
頭がついていかなかったのと、怒りたいのと嬉しいのがごっちゃになって
どうしていいかわからなかった
「確かに結果はまだでていない。でも、だからこそ、腐らずに努力し続けられるっていうのは並大抵の覚悟じゃできないことなんだ!」
だって、いつもだって、さっきだってムカつくことばっかり言うのに
「それにお前が身につけた知識は才能でもなんでもない、お前自身が努力で勝ち取ったものだ!お前はそれを誇っていい!それだけの価値があるものだ!」
空気読めないし最悪的に間が悪いくせに
「その誇りを、努力を、くだらない嫉妬ぐらいであの馬鹿共は侮辱した!
そのことをお前は怒っていいんだ!」
なんでこんな時に、私が一番
「何を気後れしているのか知らないが、お前がお前自身にそれを許せないというなら俺が許す!
怒れ!お前にはあいつらを畳んでいいだけの権利がある!!!」
いっちばん欲しい言葉をくれるかなぁ、この男は
ずっと、ずっと奥底から
湧水のように 溢れ出てくるモノは
怒りじゃない
「・・・・・・あ」
それを言葉で紡ごうと、口を開いた時
「お前らいい加減俺達の話を聞け!!!」
「シェイド様ぁ!わたくしの方を見てくださいな!」
・・・・・あ、すっかり忘れてたわ
意せずしてティエンランと同時に横を向くと、青筋浮かべた自己中坊っちゃんと伯爵令嬢
「さっきから聞いていれば偉そうに!よくもバカだかなんだか好き勝手いってくれたなシェイド!それに魔女!」
「知るか。お前らの下らない話を聞くより、俺が言いたいことを言う方が優先だ」
冷静さを取り戻したのか、いつものムカつく調子でティエンランが言う
・・・そうそう、あんたいつもこんな感じだったじゃん
いつものティエンランが戻って、私もちょっと落ち着いた
というかいつもの感じに戻ってきた。そもそもアイツあーいうこと言えるタイプじゃないのにさ
あんなこというもんだから調子狂っちゃったじゃん
「それに俺は好き勝手いったわけじゃない、当然のことをいったまでだ」
傲慢にも聞こえる言い様も、正論なら反発のしようがない
うぐっと喉を詰まらせたような声を上げるカーディナルに代わって、今度は伯爵令嬢が身を乗り出すように
「な、なぜそんな落ちこぼれ庇うんですのシェイド様!ま、まさかその魔女に一服盛られたとか」
や、人聞き悪すぎでしょそれ
毒なら盛るかもしれないけど、我がまま令嬢のいうようなもんコイツに盛るわけない
というかそういうの効かなさそうだよね、コイツ
我が強そうだし
自分がやり玉に挙がったわりに、いやに落ち着いて六花は分析していた
と、リアナの発言で再びつっつくところを見つけたのか、カーディナルが優越感を前面に押し出して
・・・・・・・ただし少しひきつった笑みで
「は、は、お前まさかホントにその魔女と出来てるのか?第二世界の名門、ローシェンナ家の親戚ともあろうお前が!あまり趣味が悪いと、ティエンランの家の名がさらに堕ちることになるぞ!
あぁそれとも、その魔女が久我家と親戚筋だからか?まぁそれなら納得もできるが、あまりにあからさまだと浅ましさが目立つぞ、情けない
まぁそうでもしないとお前が上にいくなんてのは無理なんだろうが」
「馬鹿通り越して愚かなんじゃないのアンタ」
冷たく切り捨てるような声にカーディナルは一瞬固まり、視線をシェイドから左にずらした
しかし言い放った相手は彼が復活するまで待つ、なんていう良心は持ち合わせておらず
「なんでも自分の定規で測って決めつけるしかできないなんて器の小さい男ね
というか一通りでしか物事みられないなんて視野狭すぎ。親に手ぇ引いてもらわないとすぐ転ぶわよ。赤ちゃんみたいに。能なしもここに極まれり、って宣伝して歩くつもり?」
痛烈な皮肉がカーディナルの脳を殴打した
それでも≪名門≫のプライドから平然としようとして失敗した顔で、声の主を睨みつける
声の主―――六花は飄々としたものだったが
「な、な、お、お前、お前、俺を誰だと」
顔に反して動揺丸出しの声に、微塵の遠慮もせずに吹き出しながら
「ローシェンナ家のお坊ちゃま」
あからさまな揶揄に首から順にてっぺんまで朱に染まり、しかし怒声を口にする前に
「赤ん坊の方がコイツよりは利口だろ。少なくとも自分で歩こうとするからな」
またも毒矢がカーディナルにヒットした
「あーアンタもたまには空気読んで物言うのね」
「・・・・・・・お前って、俺に対して本当に容赦ないな」
「容赦してほしい?」
口角をあげて見上げると、
「冗談だろ」
うーわームカつく!鼻で笑うの三番目に似合うわアンタ
紫ちゃんとくぅ兄のが堂に入ってるけどね
「お、おい!お、お、お前ら俺に向って何を偉そうに!
勘違いするなよ!お前は久我家と親戚ってだけで、お前には何の価値もない、俺と同じ立場じゃないんだ!それが」
いつもなら聞き流したんだけどなぁ・・・・・なんか今日は調子がおかしいわ
多分ティエンランがあんならしくもないこと言ったから、うん、そうに決まってる。というかそういうことにしておこう!
「あんたなんかと同格にされるなんて、死んでもゴメンだわ」
それに同じことさっきから二回言ってる、痴呆症でも始まったんじゃないの?
「なにをっ!」
「確かに、な」
視線を左にやると、ティエンランがこちらを見下して――ちょっと、口角を上げた気がするのは
気のせいかな?
「少なくとも、俺やコイツはお前と違って集団で家名を使わなきゃ喧嘩も売れない腰ぬけとは違う
お前と同じ土台に落とされるなんて侮辱もいいところだ」
カーディナルの顔が朱から赤に、そして爆発した
「ふざけるな!魔女もだが、お前も何様のつもりだ!父上が後ろ盾にならなきゃ、お前なんて」
言いかけて、カーディナルは口角を上げた
歪んだ優越感が端から零れ、悪辣な笑みが深まる
「・・・・・・そうだ、お前俺が妬ましいんじゃないか?そうだろうなぁ、お前にはもう誇れるだけの「寝言は寝て言え」
遮ったティエンランの声は冷え切っていた
でもそんなの、コイツの眼よりは随分マシだった。見た後で後悔したくらいだ
無
表すならこの一言に尽きる
これなら、いつもの不機嫌面の方がまだマシだと思った
アレは≪感情≫だから
でも今は何もない――――人形みたいな、無
それから既視感
―――なんで?・・・そういえば、前にもこんなこと
並の上くらいはあるんじゃないかと自負している脳がはじき出したのは、一昨日の図書館
そうだあの時、こんな顔を見た気がする
無関心装って聞き流してた自分が情けない。というよりも、こんな・・・忘れられないような目を忘れていた私は、自分で思ってるよりも相当バカなんじゃないだろうか
「・・・・・・ティエンラン?」
無理矢理絞り出した声は、自分でも驚くくらい小さかった
でもティエンランには聞こえたみたいで、無機質な目だけが動いて・・・視線が合った
初めは、怖いと思った
でもその言葉がしっくりこない
よくわからない感情に眉をひそめた時には、もういつものアイツに戻っていた
「練習相手にもならないお前を、なんで俺が妬まなくちゃいけないんだ。馬鹿馬鹿しい」
睨みつけるように、小馬鹿にするように言い捨てた
いつもの、あのムカつくティエンランと同じように
「なっ!どういうことだ!」
お約束的に驚くカーディナルにティエンランはニヤリとも、鼻でも笑いもしないで
「ついに言語も理解できなくなったのか?お前が俺の相手にもならないくらい弱いといってるんだ」
当たり前のことを当たり前にいうように、淡々と言うものだから
――――絶句した
私じゃなくて、周りの連中が
人数に対して異常な静寂
しかしそれは長くは続かなかった
「お、俺がっローシェンナ侯爵家の俺が、お、お、お、お前に劣っているだと!よくも、よくもそんなこと!」
全身を怒りで震わせ、しかし周知の事実であるために強く否定することも出来ない
ただし、たとえば自己中坊っちゃん、たとえば伯爵令嬢のように粘着質・・・柔らかく?いえばしつこいタイプは追い詰められると迷惑な悪あがきをするもので
怒りと高すぎるプライドで煮えたぎっている目が、六花を捉え
―――瞬間、六花的に言わせれば『しょーもないけど自分的には名案を思いついた悪役』の顔が『目の毒だから見たくない、っていうか顔向けないで、視力が下がる!』な笑みに変わった
マズイ
私の第六感が言ってる、っていうかそんな不確かなものに頼らなくても嫌でもわかる
このままじゃぁぜええええぇぇったいに間違いなく面倒なことになるっ
思うより早く戦略的撤退の姿勢に入る、けど隣の最強に空気の読めない男が動かない!
あんたには危機退避センサーもついてないわけ!?それとも敵前逃亡は考えないタイプ!?
なんて頭の中でいってたって、どうにかなるわけもなく
「・・・・・お前は、口で言っても理解できなさそうだな
だったら俺が直々に格の違いを教えてやった方がいいだろう」
ほらキタ、面倒なことになりそうな前振り!
「お前らと俺達、2対2で模擬戦をするぞ」
お前らって誰のこと?なんてボケたりはしない
無駄だし、この場で好意的にツッコミ入れてくれる奴はいないだろうし
・・・・・・・って現実逃避してる場合じゃない。こんな、いかにも企んでます的な面倒な申し出誰が
「いいぞ、いつだ」
受けるかって思ってたのは私だけみたいね・・・
「面倒だから早く済ませろ」
「面倒だったら受けなきゃいいじゃないの!」
私の正論はかんっっっぺきに無視された
「この期に及んで偉そうに!明日だ!明日剣士科の第三演習室で待っていてやる!」
「いいだろう、そっちはお前と誰だ」
良くない、ちっとも良くない
なのに私が何か言う前にティエンランが勝手に話を進めていきやがる
「お前達に合わせてやる・・・・・・おい、お前、いいな」
視線の先には私を売りやがった・・・・いやいや、情報漏らした、あの子
よく見れば見覚えがある。魔女科の中でも剣士寄り―――――要するに第二世界出身の子だ
面倒なことに、剣士と魔女の対立だけじゃなく魔女と魔女でも派閥があって対立したりしてる
・・・・・・で、第二世界、剣士科よりの貴族派閥魔女に私はものっすごく嫌われてるから
「ええ」
そりゃぁもう臨戦態勢バッチリな感じで睨まれましたとも
マズイことに私以外はみんなヤる気まんまんなもんだから、ストッパーがいない
唯一のストッパーと言っていい私は口が挟めない
「これで負けても魔女がいたからだ、なんて惨めな言い訳は許されないぞ!」
「自分で自分の首を絞めるなんて、器用な奴だな」
ティエンランが皮肉を叩いたすぐ後に、私はやっと口を挟めた
・・・・・・・固まってた伯爵令嬢がやっと解凍されて、『シェイド様に怪我をさせるつもりですの!?』なんてローシェンナにつっかかっていったからだ
「ちょっとアンタ!何勝手に決めてんのよ!?」
「なにが」
「何がじゃない!アンタだけならともかく、私まで巻き込まないでよ!」
そりゃぁもう挟めなかった分、力いっぱい、言ってやった
けど
鼻で笑う一歩手前の顔で、物理的にも精神的にも上から
「自信無いのか?」
・・・・・・・なって言って来やがったもんだから
分かってる。ただの挑発だって
こんな空気読めない灰くん相手じゃヘタレな男の思うとおりになるなんて冗談じゃない
でも
実は私相当に負けず嫌いで、ついでに目の前の連中みたいなタイプは大嫌いで
戦略的撤退はするけど敵前逃亡はしないんだよね
普段ならこんな面倒事、何言われたって絶対流す
今さら一つ二つ陰口増えたって変わらないし、こんなことしてるより図書館で本読む方が有意義だから
でも
ティエンランの笑みが深まる
視線をスライドさせると、伯爵令嬢がローシェンナに文句言いつつ明らかに私の悪口、しかも九分九厘捏造話を言い立てる
もう内容は言わずもがな、というか言っても仕方ないから省くけど
考えた
ティエンランの思い通りに面倒事に巻き込まれるか、アイツらに後ろ指さされて面倒事を避けるか
予想外に、天秤は前者に大きく傾いた
「・・・・・・・冗談でしょ」
全部の思考を数秒で終わらせて、私は不敵に笑って見せた
半分フリだけど。言った今だってこんな面倒事ゴメンだと思ってるし・・・・・・・半分だけ
やっぱり今日は変だ、私
でもなんか―――――嫌じゃない
「話は決まったな。帰る」
「え」
いや、ちょ、まだ時間とか決めてないんじゃ・・・・・・って面倒なわりにのってるなー私
そんなのんびりしたことを考えながら、踵を返し
「あっくそ!逃げるなシェイド!明日、講義が全部終わってからだ!逃げようなんて思うなよ!
――――――今度は誰もお前の代わりになってくれないんだからな!」
え?
思わず立ち止まって振り返る
けど
「な、ちょ!?」
同じように――でも一瞬だけ止まったティエンランは私の手を掴んで、引きずるように、その場から離れた
どういう意味、さっきの
聞こうとして視線をあげて―――固まった
無じゃない、さっきみたいに無じゃないけど
じっと前を見据えるアイツは、どこか――――――悲しそう?怒ってる?辛い?憎い? 悔しい?
全部当てはまって、全部当てはまらない
ただ触れちゃいけない
物理的にじゃなくて、触れちゃいけない 全部壊れてしまいそうな気がして
合せるように、逃げるように足を速めた
それ以外どうしようもなかった
何も言えなかった、何も出来なかった
行き場のないものをぶつけるみたいに、痛いくらい握られた手を――――離すことも
見えているはずなのに見えないことって色々あると思います




