事態は急速に展開す 1
「隣いいかな?」
座ってから聞くのは非礼じゃないかしら?
思わずそういいかけて、やめた。これ以上会話を続けたくなかったからだ
「ご自由に」
そっけなく言い置いて、紫は逆隣に座っているスマルトにカップを差し出した
隣に座った少年―――いや、紫と同い年なので青年と言うべきだが、見た目どう見ても13くらい―――ことスマルト・G・バーガンディはのほほんとした・・・いいかえれば間の抜けた笑みを浮かべて、茶を注いだ
女性にしては長身の紫の隣なので、そのチビさが余計に際立つ
「冷たいねぇ~紫くん。ウォルくんが拗ねちゃうよ。とばっちり喰うの僕たちなんだからさぁ」
「そんなもの上司権限で黙らせなさい」
隣にいるにもかかわらず、二人とも完全にウォルナット・ロウ・ローシェンナの存在を無視している
不愉快気にウォルナットは眉をひそめたが、相手が何様女王様生徒会長様の紫と立場上上司、というか執行部会長でスルースキルが高いことで有名はスマルトでは、何も言えない
言えば最後、無視か100倍で返ってくることがわかりきっていた
「無理むり~、僕君みたいに王様ではいられないから
というか面倒だしね~、だからウォルくんが勝手にやってくれてて助かってるの。だから執行部員じゃさぁ、僕が会長って知らない子もいるんだよ」
それじゃぁ何故執行部会長などに納まったかといえば、もちろん家柄と成績だ
一応上位で、おまけに第三世界―――天界では高位の天使一族なのだ―――そうは見えなくとも
ちなみに天使とはいっても、他の世界にいる時は邪魔らしく羽根は閉まっている
ので見た目、普通の人や魔女と区別はつかない
唯一区別がつけられるとしたら名前くらいで天使は全員、ミドルネームにアルファベットが入っている
「それでも最高権力者はあなたでしょう?
だったら一言の下で黙らせなさい。ああいう家柄気にする連中は、所詮身分には勝てないのよ」
「だったら紫くんがやってよ~騎士王の娘で魔女王の孫じゃないか。それで生徒会長に、総監の娘、僕より二つも称号が多いしさぁ」
「あんなのに関わりあっていたら無駄なストレスがたまるから嫌よ。自分の部下くらい自分で処理なさいな」
「え~面倒だよー、そう言うのはルーに頼んで
お金はかかるだろうけど、君にとったらはしたがねだろうしさぁ」
ルーとはスマルトの部下の愛称である。このボケボケ会長に相当苦労させられているらしい
ちなみに後半の会話、今までにましてあけすけないのは、ウォルナットが席を外したからだ
6人の代表しかいないはずの部屋で、堂々と取り巻きを連れてたむろっている神経は流石というべきか
それとも軽蔑するべきか
紫は後者を、スマルトは気にしないという第三の道をとった
「そういえばスマルト、どうしてあなたがここに?確かチーム代表はその学科の首席よね」
「んー代理ー、神経が糸のように細い子だからさぁ
海千山千な学科代表達と顔合わせ、っていったら緊張しちゃって、急性盲腸炎」
――大丈夫なのかしら天使科代表は
という良心的な考えが紫に浮かんだのは、その代表が彼女の機嫌を損ねる人物でなかったからである
面白い人間以外は特に気にかけなくても、真面目な人間は嫌いではないのだ
「まぁ大丈夫だよ、天使は体が丈夫だし。治癒は僕らの専門だからねー
でもなぁ、なんで代理が僕なんだろ。めんどうだよー、今日はサボって寝ちゃおうvと思ってたのにさー」
「相変わらずやる気のないこと」
笑みの混じった声に、のほほーんとした調子で頷く
「だってめんどうだもーん」
代表に選ばれたくて仕方のない輩達が聞けば、腹立たしくてしょうがないようなことでも平然と言う
色んな意味で正直なのだ、彼は。本人曰く
『んー僕タテマエって苦手だしね。社交性がないっていうのかなー』
とのことだが
――これが第三次歴史的邂逅の、ほんの三十分前のことである
六花は桜の研究室を後にして、食堂で二人の友人と合流した
これから始まるイベントに目を輝かせているゆずりと、いかにも面倒だといわんばかりにやる気0なパティ
それに見るのは楽しいけど参加はしたくない、というある意味中間点な自分が入るのだから、自分達は上手くバラけたものだと何となく思う
統一性がないとも言うが
「お待たせ、じゃぁいこっか?」
「待ってましたーっ!いやぁ楽しみねぇ!何せ学園中の綺麗どころが集まるんだからv」
「・・・・綺麗どころとは決まってないんじゃないの?」
もっともなパティの意見だが、ゆずりはちっちっち、と指を振る
「リサーチが甘いわよパティ」
「別に興味ないもの」
「あたしが調べたところによると~」
全く聞いてないのもいつものことで
ゆずりは都合の悪いことは右から左へ抜けていくという、本人には便利な耳の持ち主だ
「過去選ばれた代表は、ほとんどがトップ実力者で、そのうち半分近くが美形なのv
つまり学園内で実力のある将来有望イケメンがそろい踏みってことよ!」
「・・・・・・いつもながら、どこから調べて来てるんだろ」
「上級生か教師に張り付いてたんでしょ、ねばっこく、糸引き納豆みたいに」
当然、六花とパティのこの発言も耳に入らない
そのまま講堂に向かう途中も、着いてからもゆずりのイケメントークはとまらなかった
全校生徒が集まっているためか、普段は広い講堂も少し狭く感じる
その中で人目もはばからず大きな声で語るゆずりのおかげで、六花とパティは無駄に注目を浴びる羽目になった
まぁパティは全く関係ない、という顔をしていたが
と、そこで六花は違和感を覚える
「あれ、でもチームって代表以外抽選でしょ。そんなにうまい具合に実力者ばっかり集まらないんじゃない?」
「あぁ、いかさま」
えらくあっさりした調子で言われた。パティも頷いている所を見ると、公然の、という奴らしい
「学科混合とは言ってるけど、その実学科代表同士の意地のぶつかりあいみたいなもんよ
まぁ流石に一チーム全員同じ学科まではいかないけどさ、剣士科代表のチームには絶対魔女科と死神科は入らないし」
「魔女科も、契約を結んでいる剣士以外は入らないでしょうね。あと獣人科に剣士が入るっていうのも聞いたことがないわ」
なんかそれって、もう抽選の意味ないんじゃない?
最初から選抜チームにすればいいのに
「それじゃぁ色々まずいんでしょ、大人の事情ってやつ?
だーから、いかさまでも公に平等に選びました~ってことでこうやって抽選会やるの
まぁ六花みたいに、そういう事情知らない子もいるからそれでいいんじゃない?」
「なるほどね」
・・・・あれ、でもそれなら余計に藍さんやりたくなさそうなのに
そういうの嫌いなのに、暗くて陰険だから面倒だしー関わりたくねーっていって
・・・・・・・・まさかまたなーんか企んでたりするのかね、あそこの親子は
藍が企めば、まず間違いなく紫が気付く。その上で自分も意気揚揚計画に乗っては騒ぎを大きくするのが常だ
そのことを、六花はよーく知っていた
なにせ幼いころから、その犠牲になっていく人々を間近で見ていたのだから
「な~に難しい顔してんの、六花?」
「聞こえてないわよ、気が済むまで放っておいたら?」
そんな会話が展開された直後、周囲のざわめきが大きくなった
生徒たちより一段上、壇上に理事長の姿が現れたのだ
ドーム状の天井には、いくつもの球形の光が浮かんで講堂全体を照らしている
その光の強さに目を細め、シェイドは樫の長椅子に座り直した
が、いつもは余裕のある長椅子も、今日は全員が詰めて座っているために思うような姿勢がとれない
知らずに眉間のしわが寄った
・・・・・・くそ、面倒だな
人が集まっているところは好きじゃない。ついでにいえば、学園の行事なんか興味がない
だから正直今日だってさぼりたかった、のに
「ちょっとシェイド、君のために来たんだからちゃんと探しなよ」
隣の灰につつかれて、仕方なく頭を巡らせる・・・ふりをする
『今日は全校生徒が集まるんだし、その例の女の子探してみたら?』
なんて、いかにもお前のためみたいなこといってたけど、その実灰は単に、俺の嫌がる顔が見たいだけだ
昔、嫌いだっていった果物を誕生日に箱(一メートル四方はあった)いっぱい詰めて贈られた時
『僕、シェイドの嫌がる顔って大好物なんだよね』
とサドっ気全開の発言かまされた時は、本気でこいつと友達やめたくなった
などと考えていれば、隣から真面目にやれという冷凍光線・・・・・オマエ、何で心が読めるんだ
て、いってもな・・・・・この学校何人いると思ってるんだよ
しかも目立つ奴ならともかく、見た目は普通だったし・・・行動は面白かったが
・・・・でも図書館であんな奴らと一緒にされた時は腹が立ったな
腰ぬけとか卑怯者とか、好き勝手いいやがって
だいたい人が絡まれてたら助けるのが普通っていわれたって、俺は助けられたことはないぞ
別に助けなんかいらないだろ、なのにあんなに怒って
やっぱり女は意味が分からない
・・・・・・・・あー会いたくなくなってきた
いや、泣かせたからには謝るのが筋なんだろうけどな。会ってまた口論になったら意味ないしな
だったらお互い犬にかまれたと思って忘れるのが賢明―――
「はぁ!?」
突如起こった大声に、シェイドの意識は現実へと戻された。いつの間にか抽選が始まっている
そして彼から見て斜め前
生徒の波から一人突出した―――立ち上がっているのだろう―――少女が一人
肩をこす程度の黒髪に、魔女科の証しである黒いローブ
それにわずかに見える横顔と、その声には見覚え、聞き覚えがあった
「・・・・・・・あ」
「あぁ、あの子なんだ」
思った矢先に、これ―――運は悪くないはずなんだが
「剣士科 シェイド・ラ・ティエンラン!!!」
無駄に甲高い声が、自分の名前を呼んでいた
「は?」
間をおいて、歓声と驚嘆の混じった叫び声が講堂を揺らした
「・・・・・・うそ、シェイド選ばれたよ」
何に、と言いそうになって自分がその場にいる意味を思い出す
そして訂正しておこう、シェイド・ラ・ティエンランは自分で思っているよりずーっと
運は悪いのだ
藍が無理やり整えられたんだろう礼服で軽く挨拶をし、抽選は始まった
舞台中央に据えられた、背丈ほどある鳥かごの中に、見目鮮やかな鳥が一羽
それが記憶する、一年生を除く全校生徒の名前からランダムにメンバーを選んでいくのだ
ゆずりのいった通り、名前を呼ばれて行くのは各科の実力者達ばっかりで・・・・・・・ゆずりの反応を見る限りは、顔もいいことで有名らしい
「やっぱり5年生以上の実力者がそろい踏みみたいね」
いいつつも、半分夢の中のパティ。いかにも面倒、早く帰りたいって顔して・・・
まぁでも流石に次は魔女科だから起きとくみたいだけど
「獣人・獣士科は4年生もいたけどね。まぁウチのところかは学年あんまり関係ないから当然か」
「あぁそういえばレベルもないんだっけ?・・・・・と、紫ちゃん出てきた」
途端会場がざわめく
まぁなんて言っても紫ちゃんは理事長の愛娘で、生徒会長で、将来の魔女王
となると公然のいかさまで選ばれる=実力を認められる
まぁつまり、実力者の太鼓判を押されるってわけで
いつもにまして、威圧感?というか何だか空気が重い
平然としてるのは当の本人だけって・・・・まぁ紫ちゃんの神経は竹の束みたいなのだからなぁ
と、行ってるわりに至極落ち着いて考察している六花
そしてゆずりが目を爛々と輝かせている中、一人目が読み上げられた
「死神科 篁・蘇芳」
一発目から、反応が真っ二つに別れた
半分は驚愕、半分は唖然
そして静寂の後には、全員一致で疑問が飛び交った
「え、なんなのこの反応?」
「・・・・・・ゆずり」
パティが目くばせすると、意気揚々とゆずりがメモを取り出し
「死神科 篁・蘇芳(名前・苗字) 5年生ね。よく言えば神秘的、悪く言えば意味不明の死神科の中でも特筆して変
まずほとんどしゃべらないし、前髪が顔の半分以上を隠してるのに、なぜか前が見えてる
だけじゃなくて、50メートル先の小さい文字までばっちりだってんだからすごい視力よね
実力は死神科の中でもトップクラスらしいけど、淡々淡々と全てそつなくこなして、どんな酷い作業だって顔色一つ変えない、鉄仮面
おまけに魂狩りの時は鬼神の如く冷酷無比、血に塗れて興奮してただの、チームメイトすら狩るためには平気で犠牲にする、なんて話まであるの
ってことで死神科はもちろん、他学科からも恐れられてる危険人物
で、一応生徒会所属らしいわ 会計ね
2年の時に当時4年生で生徒会長だった紫さんが推薦したんだって・・・・ってことは身内中心で選ぶってこと?」
長々と説明ありがとう。だからこそあの反応なわけね
チームプレイなんて考えられない人間を、チームプレイ重視のこれに参入させるわけだから
そしてざわめきも収まらぬ中、さらなる名前が読み上がる
「剣士科 久我紅」
今度こそ、疑問の声が爆発した
久我紅といえば剣士科きっての問題児。素行不良で授業何かほとんど出ない、家柄と金だけで進級できたとか何とか・・・とにかく、こんなところで選ばれるわけがない人間ナンバーワンといっても過言ではない
酷い言われようだけど、前半はホントのことだからなぁ
くぅ兄・・・・・いや、何も言うまい
二人目にして、すでに唖然騒然な抽選会
は、いよいよ三人目
「魔女科 叶桜」
「うそ!?」
思わずさけんじゃったけど、仕方ないと思う。パティも難しそうな顔してるし
「・・・・・何を考えてるのかしら、会長は」
「うーん・・・・生徒会関係者か身内?で選ぶ人かねぇ。にしたって桜さんってどう考えても実践向きじゃないでしょ?
あの人研究職じゃない!」
「それどころか。攻撃系は苦手って聞いたわ・・・・会長ははなから勝負を捨ててるの?そうとしか思えないメンツよ」
という会話を繰り広げる隣で、苦笑する、というより引き攣った笑みを浮かべる者が一人
―――いや、あれはもうむしろ・・・心なしか頭痛がしてきた
紫ちゃん・・・・・・絶対基準『面白い』で選んでるよ
間違いないって、だって生徒会役員=変人を基準に選んだ人なんだから
となると、残り5人だってどんなビックリドッキリが仕込まれてるかわからない
いったいどんな奇人変人パレードを繰り広げてくれるんでしょうかお姉さん
いっきに混沌と化した講堂
次はどんな爆弾発言が繰り広げられるのかと、身がまえた瞬間
「魔女科 白峰六花」
・・・・・・・・あっれー同姓同名?
すっごい偶然だね、あはは、親近感わくわー
「・・・・・・六花?」
「マジ?」
なわけないですよね、はい
自分で言うのもなんだけど珍しい名字だし、同姓同名なんていたらすぐわかるし
つまり紛れもなく、わたし本人ってことで
「はぁ!?」
叫んで、思いっきり立ちあがっちゃったって不可抗力だと思う
っていうかありえない、アリエナイ、意味わからないよホント
ていうかわたし奇人変人の類じゃないのになんで選ばれてるの!?
周囲の視線をものともせず、というか気にする余裕もなく、立ち尽くす六花
その耳に飛び込んできたのは次なる選抜者
「剣士科 シェイド・ラ・ティエンラン」
最近メチャクチャよく聞くその名前
嫌な予感を告げる警報が、頭の中でガンガンなっている
そして第3次歴史的邂逅の舞台は整った
いよいよサードコンタクト(笑)