ミルフィーユ
『あーあ。死にたい。』
ってゲルニカちゃんが言うのを、
スンスンに無視して僕は算数を続けた。
『ねえ。聞いてる? 私……』
ゲルニカちゃんは、はだしでカーペットにごろごろしてて、算数が上手だから、
とっくに、算数の宿題を終わらせて、
僕に死にたいアピールしてくる。
『欠けてるの。』
知らねえ。僕は今はそれどころじゃねえ。
算数やんなきゃ。
とか思いながらも、僕はゲルニカちゃんに嫌われたくないから、いつまでも僕に依存していてほしいから、ごっこに寄り添うふりをした。
『そうだね。ゲルニカちゃんと僕は、
普通には生きていけない、心の迷子だから……』
ゲルニカちゃんの、耳がピョコっと反応した。
『その死にたい気持ちよくわかる。』
僕は、遠くを見つめるふりをして
『僕も、たまに死にたくなるもの……』
ゲルニカちゃんはほっぺをてれてれさせて、
お口はにんまり。
暖色に囲まれた安全で清潔で良い匂いのする
ゲルニカちゃんのお部屋の中で、
僕とゲルニカちゃん。
女の子ふたり。
そろそろお腹空いてきたから、僕、帰りたい。
ゲルニカちゃんとの思い出。
夜の田舎の海でね、
まわりは怖いくらいに真っ暗で
なんにも見えなくて、星は見えたかな?
覚えて無いけれど。
公共のトイレから盗んできたトイレットペーパーを砂浜にいっこ置いて、ジッポオイルをかけて、
それに火をつけた。
トイレットペーパーは、淡い炎のミルフィーユみたいに、外側から2.3枚ずつゆっくりとめくれて燃え上がり、炎はまわりながらチリチリとしながら、記憶に残るために赤くてオレンジで丸くて
なによりも光で燃えた。
『ミルフィーユみたい……』
ゲルニカちゃんの頬がミルフィーユ色に照らされて、息をのむほどにキレイキレイだった。
炎に包まれながらミルフィーユは崩れて、
海からの弱めの風にさわさわされて、
ゆるやかな砂浜のでこぼこに流れ、そのひとつひとつが生きているみたいに時間を止めて。
焼かれながら舞う、蝶みたい。
『涙でるね。』
『うん。 』
夜中の間、それを見つめて、
2人で寄り添ってた。
この恋が冷めてしまうまで、
ずっと忘れないようにしよう。
ミルフィーユを。
キレイキレイな頬を。
夜が明けて、トイレットペーパーは、砂浜のあちこちに焼けて焦げたゴミを撒き散らかす環境破壊だった。
僕とゲルニカちゃんは、誰かに見つかって怒られちゃう前に逃げた。
それから、すっかり僕たちは平和になって、
ゲルニカちゃんはあの夜みたいに、壊れたがりをアピールしてくるけれど、
いつまでも生きていて、僕もそんな簡単には壊れないで、生きたまんま、おいしいの食べたり、お笑い見たりしてんだから、人のこと言えない。
あの時、ふたりが見ていたもの。
輝いていたもの。
なんだっけ。
平和だね。
———
遊びに来たら
ゲルニカちゃんは首吊りして死んでいた。
第一発見者は僕。
冬の朝に。
汚かった。
法的手続きもめんどくさそう。
ゲルニカちゃんだった塊は
あの夜のミルフィーユみたいでは無かった。
外側から、チリチリと燃えるのではなくて、
中身を全部だして死んでた。
いろんな穴から。
とても汚くて、
そのうえ臭い、
ゲルニカちゃんを
この恋が冷めるまで、
僕は、ずっと忘れない。




