表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/56

生まれ変わっても。1+2



『グリコの橋に15時だよ』


君が電話で日本語でそう言った。


『うん。すぐ行く』


僕は日本語でこたえた。


『大丈夫そう? 今日は間に合う?』


『うん。間に合う。起きてたもん。』


『ホント? じゃあ15時にまたね。』


『うん。またね』


全部が嘘だった。

一昨日からなぜか僕は、ハンガリーにいて、

なぜだかわからない。わからないっていう事はきっと大した意味なんか無いので、わかろうとするだけ無駄だと思って、ワインを飲んだ。おいしいエグリ・ビカヴェール。ってワインなんか飲んでいる場合じゃないよ。

15時までに日本に戻らなきゃ。ワイン屋さんの時計を見ると、今は10時。日本とは時差があるはずだけど、それを計算している時間さえもったいない。

『とてもおいしかったです。メルシー』って、

グラスワインの代金を支払い、空港。

空港へ急がなきゃ。



空港ついた。

床がピカピカしていて、光を反射して、

かっこいい。ルンバもいた。

なんだか騒がしい。空を見ると曇っていて、

赤くて黒い。おかしくない?

チケット取れて、飛行機に乗れたなら、きっと

君との約束に間に合う。飛行機は速いから。

チケット取れた。もう何も心配しなくていい。

せっかくだから、

ワインでも飲んじゃおっかな。



赤くて黒い空から、黒くて赤い大きなものが、

大きいくせにゆっくりと落っこちてきた。

空港はさっきよりも、とても騒がしくなって、

空港の建物ごと揺れるものだから、僕はワインをこぼした。あああ。

それはとてもとても大厄災。


空港は、崩壊して、地面はわれて、鳥が逃げた。


『うああ。……映画みたい。』


言ってる場合じゃないよ。飛行機飛ぶのかな?

多分、絶対に飛ばない。

どうしても15時までに……なのに。

逃げないと死ぬから、仕方なく走って逃げた。

空港からできるだけ離れなきゃ。

飛行機は僕からどんどん遠ざかった。


暗くて赤い大きなものは、暗くて赤くて空を覆い尽くすほどに大きかった———


世界中の海が沸騰して、海が死んだ。

あちこちに落ちた、赤と黒は

あちこちに大厄災をもたらして、

あちこちが死んだ。




何もかもが死んだ。





終わった世界に、ひゃん。

みたいな灰色雲の隙間から、お日様のひとすじ。


照らされた大地に僅かな生命の動き。

はあ、危ないとこだった。大変だった。

って語っているのは僕。


生きてます。良かった。


命を救ってくれたのは偶然たまたま、

胸ポッケに入れていたカントリーマアム。


赤黒暗い未曾有の大厄災の爆風、

爆風に伴う土砂瓦礫の飛来、建物崩壊、地盤沈下、火災旋風、また爆風、

その他、人体を破壊せしめるアレコレから、

まるでクッションのように、

僕を守ってくれたのだ。ありがとう。

カントリーマアム。


マアムの事は、ずっと……忘れないよ。

ココア味。


タクシーとか通らないかなあ。

僕は約束の地へ行かなきゃなんだけど。


世界は一度、死んだ。

そうして、ゆっくりと再生が始まる。

海のお湯加減が良い感じに落ち着いて、

生命の呼吸。


海が呼吸を始めれば、風が吹く。

風が吹けば、雲がはれる。

雲がはれたなら、空が見える


空が見えたなら


月が見える。




月に祈れば……



そうして、静かに月の光を浴びながら

長い年月をかけて

ゆっくりゆっくりと、だけども決して祈りと歩みを止めなかったおかげで、再び良い感じに復活してきて

最近ではタクシーも通るようになった。


僕ら人間達は、学んだ。

この感じで調子こいちゃうと、またいつか痛い目を見るかもしんない。やだな。

って、常に月への祈りを。大切に。


月ばっかを見上げていると

足元がおろそかになるので、

みんなはドミノを並べ始めた。

砂浜に、草原に、てぶくろ屋さんに……



キャンディハウス。キャラメルハイウェイ。

ミルクシティ。クリームクリームクリーム。

ニコニコシアター。オレンジの滑り台。

アーモンドチョコ。琥珀糖。八ツ橋。

イタリアンジェラート。トルネードバター。

たい焼き屋さん。もちもちおだんごもちもち。

いのり。



涙。



世界の全てにドミノを並べた。



歴史家たちが整理整頓のために、

滅びてしまった旧文明を 


『あの頃。』


滅びの中から新しく生まれた

この新世紀の文明を、


『ドミノ』と呼んだ。


あの頃に、

神様と呼ばれていた得体の知れないあやふやは、すっかり忘れ去られ、

僕らは月に祈る。

月はいつしか、あの頃の名残もあるのか、


『ケミ様』


と呼ばれるようになった。






『お客さん、どちらまで?』



タクシーの運転手さんが、僕に聞く。




『グリコ橋まで。』




君に会うために










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ