第二話 英雄だった頃〜変化
夜に森へ行くことが、いつの間にか日課になっていた。
(いつも見せる、あの照れた表情がたまらなく可愛いんだよな)
桃李は一人、クスリと笑う。
静かな夜だった。
だが――
森の中は、いつもと違っていた。
虫の声がしない。
風も止まり、
森全体が息を潜めているようだった。
「……?」
桃李は辺りを見回す。
そこには、彼女の姿は無かった。
「なんだ? 今日は来ていないのか」
少しだけ残念そうに息を吐き、
桃李は村へ戻ろうと踵を返す。
その時だった。
地面に、赤黒い液体が落ちている
「……血?」
胸騒ぎがした。
桃李は血の跡を辿る。
暗い森の中を進み、
やがて一人の人影を見つけた。
「桃李さまっ……!」
血に塗れた村娘だった。
「なんだ、これは……」
服は裂け、
全身が小刻みに震えている。
だが。
桃李は違和感を覚えた。
娘の周囲には、黒い靄のようなものが漂っている。
それはまるで、感情そのものが滲み出ているような、不気味な気配だった。
(どこかで感じたことがあるな……)
桃李は眉をひそめる。
「ここで、何をしている?」
「森で……襲われてしまって……」
娘は苦しそうに息を吐く。
「わたし、一人では歩けないのです……」
「……」
「桃李さま?」
桃李は静かにしゃがみ込む。
「怪我をしているのか。すまない、おぶっていこう」
そう言って、娘へ手を伸ばした。
――ガサッ。
草むらが揺れる。
「?」
桃李が振り向く。
そこに立っていたのは――
血に塗れた彼女だった。




