19
エリーゼの予見通り雨が降る。
不快な湿度を保っていた樹海も、
雨という天候によってより一層湿り気を帯びる。
季節は秋。
当然ながら身の周りを漂う空気はうすら寒い。
それが雨水によって、さらに冷やされる。
既に指先の感覚は無い。
「……」
春香は両手を口に当て、はぁっと息を吐く。
あれから数時間経った。
携帯電話のアンテナはもちろん圏外。
電力はまだ余裕がある。
しかし電波を利用できないとなれば、
ただ時間だけを表示させる機械である。
背負っていたナップサックを開く。
空の弁当箱に空の水筒。
ハンカチやティッシュに汗拭き用のタオル。
それらは雨に濡れたせいで見る影もない。
濡れていなかったとしても、この状況で役立つことはないが。
「私、エリーゼに感謝しているんです。エリーゼがいなかったらこんなに楽しく過ごせなかったし、水谷さんや赤城さんとも話せるようになって……」
「いきなりどうしたのかしら?」
「まあまあ、良いじゃないですか。私そういう気分なんです」
そう言うと、春香はニコリとこちらを微笑む。
「私がここに来るときこころともなくて、ちゃんとやれるかなって不安だったんです。まあ案の定、絡まれちゃってたんですけどね」
春香は田舎の生まれだが、比較的裕福な家庭で育った。
田舎と呼べば聞こえは悪いが、
都市化が進んでいる方なので利便性はそれほど悪くない。
彼女には、ある憧れがあった。
それは少女漫画に出てくるような運命的な出会い。
例えば白馬の王子様に偶然気に入られ、婚約が求められる。
例えばある日何かの才能に目覚め、
その能力をイケメンな男子に興味を持たれて恋仲に発展していく。
春香はそんな夢見がちな女の子だった。
ある日、彼女に転機が訪れる。
それは教師の言葉がきっかけだった。
『学力もお家的にも問題ない、聖マリアンヌ学園はどうだろうか』
春香はそれを天命だと感じた。
日々憧れ続けた事が現実へと近づく。
彼女は必死に両親を説得した。
そしてついに聖マリアンヌ学園へと入学を果たす。
果たして彼女はこの学園でどのように過ごすのか――というのが設定である。
いや、彼女には現実の物であり、本物の過去である。
そしてその後はご存知の通り、エリーゼの取り巻き達に目をつけられた。
これはわたくしの責任。
「それは春香のせいじゃないわ」
「いいえ、私も悪い所はありました。あんな風にうじうじしてたら誰だって腹がたちますよ」
春香、貴方は何も悪くない。
普通なら加害者であるあの子達が悪い。
しかし、わたくしはそれを止める立場であったのに止めなかった。
様子見という理由。ただそれだけで。
一番悪いのはわたくし。
「そんな時、エリーゼは現れたんです。それはもうカッコよくて。私もそんな尊敬できるようになりたいなって思って。今でも本当に尊敬しているんですよ? 今だってさっきの私みたいに取り乱さないで冷静ですし。私とは大違いです」
「わたくしは貴方が思っているほどできた人間じゃないわ」
「そうですかね」
そう、わたくしは出来た人間じゃない。
本当の自分は酷く醜い。
とても自己中心的でわがままだ。
自分で言うのもなんですが、春香とは仲がいい。
しかしそれは心のどこかで彼女を利用するためだと思っているのかもしれない。
または取り巻き達を無意識に春香を虐げるように誘導していたのかもしれない。
そんな事はないと言い張ってもそれらは否定出来ない。
やはり、わたくしはろくでもない人間ですわ。
「あ、でも最近私の事変な目で見てますよね? あれはさすがにいただけないです!」
「そ、それはきっと気のせいですわ」
「いーえ、気のせいじゃないですね。たまにエリーゼを見ると、何故か私の足とか胸ばっかり見てますよね? もうバレバレですよ。まるで親戚のおじさんみたいです」
「お、おじ、おじさんですってぇ!?」
「そうです! おじさんです! あのいやらしい目つきとか瓜二つです」
「ええ……」
お、おじさん!?
ショックショック大ショック。
そのおじさんが誰だか存じませんが、何たる風評被害。
すぐにでもわたくしの横に並べてその方とは違うと訴えたいですわ!
己の手を血で染め上げるのも辞さない構えですわ!
「まあ、そういうところがエリーゼらしいですよね。嫌いじゃないです」
――ドキリ。
嫌いじゃないということは好き!?
まさかの告白!?
思わず一瞬で春香を伴侶とした、
人生計画を組み立ててしまうところでしたわ。
危ない危ない。
ちょっとでもボロがでればおじゃんになりますわ。
冷静になれ、わたくし。
「っもう、春香はわたくしを褒めたいのか貶したいのかハッキリして欲しいですわ! まったく、さっきから春香らしくないですわ。熱でもあるんじゃないんですの?」
「……」
「? 春――」
すぐ隣で何かが倒れるような音が聞こえた。
頭が一瞬、真っ白になった。
音の方へ目を向けると春香が倒れていた。
不自然な状況が不自然過ぎて、あたかもそれが普通かのように錯覚する。
現実味のない光景が思考を邪魔するが、すぐさま緊急事態だと理解した。
「春香ッ! 春香ッ!?」
春香は眠るように目を閉じ、指一本動かさない。
エリーゼは彼女の肩を揺らし、頬を何度か軽く叩いた。
しかし反応らしい反応は帰ってこない。
もしかして春香が死んでしまった?
彼女の胸に耳を当て、確認する。
大丈夫。呼吸も脈もちゃんとある。
どうしてこうなった?
わたくしがいるから?
わたくしのせいで春香が死ぬ?
「春香? いやよ? わたくしを独りにしないで! 貴方がいないとわたくしは……わたくしは!」
エリーゼはハッとして周りを見渡す。
雨のせいで視界が悪いとはいえ、緑一色にそまった景色は変わらない。
当然、人や人工物なんてものは見当たらない。
着用していた上着をぬぎ、春香へそっとかける。
すでにそれは天候によって濡れていて気休め程度かもしれないが、
無いよりかはマシだろう。
その後、春香をあまり雨が当たらないところへ運ぶ。
どうして春香は倒れた?
“LOVE♡メーター”の数値が足りなかった?
いえ、わたくしの思った通りならポイントは足りるはずですわ。
では何故助けに来ない!?
どうして春香がこんなになってるのに来ないの!?
……だめよ。冷静にならなくては。
そもそもわたくしは悪役令嬢。
つまり主人公である春香にとって害をなす存在ですわ。
ではその仮設通り、
わたくしに“LOVE♡メーター”が設定されていた場合どうなるのか?
わたくしは春香にとって敵。
そうなればわたくしへのポイントは、
彼女にとってプラスではなくマイナスになる?
つまり、つまりの話だ。
――わたくしがいなければ、彼女は確実に助かる?
わからないわからないわからない。
どうすればいいのかどうすればよかったのかなにもわからない。
わからないわからないわからない。
どうすればいいのかどうすればよかったのかなにもわからない。
気付けばエリーゼの足は動き出していた。
「誰かッ! 誰かいませんの!? 水谷さん! 赤城さん! いるのでしょう!? 春香はここにいますの! だから早く!」
エリーゼは駆け足で木々を分け、喉が張り裂けそうなぐらい喉を震わせる。
しかしその問いかけに返事は帰ってこない。
大丈夫。ここまでの道のりは把握している。
戻ってこようと思えば戻ってこられる。
脳のリソースを全て注ぎこめば余裕のはず。
わたくしにはできる。
絶対にできる。
だが彼女の脳裏にいつしかBADENDで見た春香の姿が浮かび上がる。
エリーゼはそれを一心不乱にかき消す。
「お願い! 誰か助けて! 春香が危険な状態なんだ! わたしはどうなってもいい! だから彼女を助けてくれ! お願いだ! 誰ッ――!」
細かな段差に気を取られ、エリーゼは足元を滑らせる。
彼女は転ぶ一歩手前で踏みとどまるが、右足首に微かな痛みを感じる。
幹部に手を当てると、ほんの少しだけ温度が高い。
骨折した時特有の異音は聞こえなかった。つまり折れてはいない。
恐らく捻挫したのだろう。
エリーゼは痛みを伴いながら関節を動かせるのを確認すると、すぐに走り始めた。
何度も何度も心の底から助けを求めるが、やはり返事は帰ってこない。
あれからどれだけ時間が経ったのかわからない。
分厚い雲に覆われた空は明度を下げ、
辛うじて見えるが視覚に頼った移動を制限させる。
一抹の希望を抱いて春香の様子を伺いに何度か戻るが、
誰かが訪れた形跡はない。
俄然、瞳を閉じたまま。
エリーゼはその姿を見るたびに何かがこみ上げてくる。
何故か口の中に塩気が混じる。
頬を伝うのが涙なのか雨なのか定かではない。
これまで春香を中心として約百メートルの範囲で助けを求めていたが、
あまり芳しくない。
エリーゼの喉は度重なる摩耗によって熱と痛みを孕んでいる。
ガラガラとしたノイズを持ち始めるが、声は出せる。
痛めた足首はまるでボールが入っているように腫れるが、
今のエリーゼにとって気にもしない。
「お願い、お願いなんだよ……この際誰だっていいんだ。水谷でも赤城でも他人でも神様でも何だって良い……。もうわたしには春香しかいないんだよ……」
何度も何度も声を張るが、一向に助けは現れない。
わたしは失敗したのか?
自分のために彼女を危険な目に合わせて、挙句の果てに死なせる?
あーそうか。わたしは悪役令嬢だったんだ。
わたしが生き残るための簡単な方法は彼女を殺すこと。
水谷とか赤城の事とか気にしなくてよかったんじゃん。
わたしは悪役令嬢だし彼女を殺してもしょうがないよね。
やっぱりこの世界に神様は存在したんだね。
わたしは彼女を殺す。
どうしたって殺す。
どう嫌がっても殺す。
この世界はそういう風にできてる。
あーあ。
最っ高だね。
――ごめんね、春香。
エリーゼは歩みを止め、片足を引きずって春香がいる方向へ歩く。
春香、ごめんね。
わたし、なんとかしてみようと頑張ったけど、駄目だった。
本当にごめんね。
わたしがいなかったら幸せになれたのに。
全部全部わたしが悪い。
許して欲しいなんて言わない。
だけど最後のその時は貴方のそばにいさせてほしい。
それに、そのほうが寂しくならないじゃない。
だからもう少し、あともう少しで着くから待っててね。
今のエリーゼに先ほどの気力は残っていない。
足取りもどこか不安定で、一歩一歩が怪しい。
彼女は諦めてしまった。
春香が意識を失ってなければ、
数日かかっても助かる見込みはあったかもしれない。
しかし今の彼女にタラレバなどどうだって良い。
エリーゼが重い足取りを進めていると、雨音に紛れて何かが聞こえた。
確信はない。
虫の知らせのような、第六感のようなものがエリーゼに訴えかける。
――まだ終わっていない、と。
彼女は声がしたような方へ耳を傾ける。
「――ぅぁ――! ――ぃ――!」
環境音では絶対に出せない音。
動物などが発する単調な鳴き声とも違う。
「春香ちゃーん! エリーゼちゃーん!」
「石浪! エリーゼ!」
今度はハッキリと聞こえた。
それは聞きなれた二人の声。
目を凝らすと木と木の間から二つの人影が見えた。
エリーゼは断定できる。水谷と赤城だと。
「こっちよ! 春香はこっちにいるわ!」
目一杯、最大限出せるだけの声量で彼らに答える。
足の痛みなんて感じない。
身体が軽い。
春香の位置は把握している。
エリーゼは彼らとの合流を待たずに駆け急ぐ。
そのほうが断然早い。
やがて彼らはエリーゼの案内で春香の下へ到着する。
「春香ちゃん!? 大丈夫かい!?」
「大丈夫じゃありませんわ! 見ればわかるでしょう!?」
エリーゼは春香の上体を起こし、その場で抱きかかえる。
赤城の不要な質疑に腹を立てる。
対して水谷は冷静であった。
「意識はないが息はある。目立った外傷も特にないな」
すると春香の指が、微かにだが動いた気がした。
「春香!?」
彼女の瞼がゆっくりと上がっていく。
やがてそこから栗色の瞳が現れる。
「え、水谷さん!? あ、なんで皆さんここに?」
「春香っ!」
腕の中にいた春香を抱き寄せ、彼女の存在を確かめる。
息もちゃんとしてる、心臓の音も聞こえる。
「よかった、本当に良かった……春香が無事で」
水谷と赤城が来たことで、現時点での春香の生存は確定された。
やはりわたくしには見えない形で“LOVE♡メーター”は機能している。
本当に良かった。
春香は助かった。
「無事ってなんのことですか?」
「春香ちゃん。君はさっきまで意識を失ってたんだよ」
「え、そうなんですか? 意識失うのって睡眠と結構似てますね! 昨日は楽しみ過ぎて寝れなくて、そのせいでうっかり寝ちゃったのかと思いました」
「それ、普通に寝てたんじゃないのかな……」
ふふふ、と笑う春香。
なんとも言えない表情になる他三人。
……え? 寝てたの?
確かにどこかぶつけたとかで意識を失ったとかではない。
今の春香を見ても具合が悪そうでもない。
むしろ朝みた時よりも血の気がいい。
「じゃ、じゃあわたくしは……」
春香は頭上に疑問符が見えてきそうな顔をして、周りの表情を伺う。
エリーゼはさっきまでの言動を思い出す。
うん。結構はっちゃけてた気がしますわ。
あれ? これ結構恥ずかしい?
耳の端から徐々に熱くなるのを感じる。
「ま、まあ遭難してたのは本当だからな」
まさかの水谷からのフォロー。
その優しさが妙に心を抉る。
三人は顔を見合わせ、一つ頷いた。
――さっきのやり取りはナシの方向で!
エリーゼは彼らとの間で何かが通じ合ったのを感じた。
「よ、よし。ひとまず合流はできた。ここから移動するぞ」
「水谷様。帰り道は把握しているんですの?」
「ふん。当たり前だ」
「さすがは水谷様ですわね」
こういう時の天才設定は頼れますわね。
伊達にゲームの看板やってる男は違いますわね。
水谷を先頭に木々の中を歩く。
気が付けばあんなに降っていた雨も止んでいる。
何はともあれ、彼女は助かった。
当面の危機は脱した。
本当に、本当に良かった。
・・・・・・
うっそうとした木々を抜けると、そこには茜色に彩られた空が広がる。
欠けた太陽は彼女らの生還を祝福するように優しく照らしていた。
長らく歩いていた一行は、整地された地面を踏みしめた。
「あれ? エリーゼちゃんどうしたのそれ?」
エリーゼは指差された自らの足首を見る。
最後に確認したときより少し腫れていた。
赤くなっているものの、
骨折はしていないと分かっているので気にも留めていなかった。
「ああ、これですの? 恐らく知らないうちにぶつけたのですわ。ご安心ください、この通り、痛くもなんと――イタッ!」
足を曲げたり伸ばしたりグリグリすると、鈍い痛みが患部に走った。
やばいですわ。結構痛いですわね。
恐らくこの状況に安心したのか、
抑制されていた痛みが顕著になったのだろう。
あまりの痛みに歩く姿が酷く不格好なものになる。
「エリーゼ、大丈夫ですか?」
「え、ええ。このくらいへっちゃらですわ」
口ではなんとでもいえるが、痛いものは痛い。
「はあ、お前はそういうやつだったな。意味のわからないところで虚勢を張ろうとする。ほら」
水谷はエリーゼの前で背を見せ、身体をかがませる。
「え? これはなんですの?」
「わからないならそれでいい。腕を出せ」
意図が分からないまま言う通りに腕を出すと、
すぐさま引っ張られて水谷の背中に乗る形となる。
「ちょ、ちょ、ちょぉお!?」
彼は姿勢を上げ、エリーゼの太腿を腕で抑える。
長時間による移動で酷使されたせいか、
太腿を腕で触れられただけでくすぐったい。
明日は筋肉痛が予想されるであろう。
こ、これって今、わたくしおんぶされてませんの!?
「い、一体なんのつもりですの!? 皆さんが見てる前で股を開かせるなんて……。水谷様! 早くわたくしを降ろして! こんなはしたない恰好したくないですわ! だから降ろして!」
「まだそんなに騒ぐ元気があるのか? もう少しは静かにしたらどうだ?」
「どうだ? じゃありませんの! いーから降ろしなさい!」
怪我しない程度で水谷の頭を殴って見せるがびくともしない。
ぐぐぐ、これはステュアート家の恥ですわ……。
「春香ちゃんもおんぶされてみるかい?」
「いえ、今の私は元気なので大丈夫です!」
「本当かい? 実はおんぶされたいって思ってたり?」
「いえ! そんな事はないです!」
「ははは、そんなきっぱり言われるとちょっとへこむね……。でも少しでも気持ち悪くなったりしたら言ってね? いつでもおんぶするから!」
「はい! 大丈夫です!」
エリーゼは後ろから聞こえる二人の声で危機感を覚えた。
水谷とわたくし、そして春香と赤城。
わたくしがおんぶされることによって二組に分かれている。
当然わたくしは水谷と。春香は赤城と会話をする。
まさか! これは赤城の策略!?
水谷という臭い物にわたくしで蓋をさせて、春香を美味しくいただく作戦!?
そうはさせませんわよ?
エリーゼは振り向き、なんとかして会話に入ろうと画策する。
「あら? 赤城さんなぜそんなに汚れているんですの?」
「あ、これ?」
彼は恥ずかしそうに自らの身なりに目を向ける。
「もしかして道中に泥遊びでもしたんですの?」
本当にくっそ汚い。
赤城の服は茶色が多く占め、汚れていない部分を探すのはとても難しい。
「足を滑らせてスッ転んだんだよな? なあ赤城?」
「いやちょっとぐらいはカッコよく言ってくれても良くないかい? 例えばクマと死闘を繰り広げたせいで汚れちゃったとかさぁ」
「え!? この山にクマさんがいたんですか!?」
「いや春香ちゃん、例えばの話だよ」
「あ、そうなんですか……」
眉を下げ、しょんぼりする春香。
よし。その調子でどんどんヘイトを稼ぎなさい。
「おいエリーゼ、さっきから後ろ向いてるだろ? おかげでバランスが取りにくい。ちゃんと掴まってろ」
「ふふ、水谷様はそんな女々しい事言うんですのねぇ。赤城さんと比べて筋肉が少ないからかしらねぇ? オーホホぉおふヴッ!」
瞬間的に身体の重心が上下する。
そのせいでみぞおちの辺りに負荷が掛かる。
「言っただろう? ちゃんと掴まっておけって」
く、変な声が出てしまいましたわ。
水谷修。このクソガキ覚えてなさいよ……。
この恨み末代まで忘れさせませんわ。
しかし彼のお陰で助かったのも事実。
仕返しとばかりにエリーゼは水谷の背中に全体重を乗っける。
悔しい事に彼の背中は暖かく、ささやかな安らぎが得られた。
ふむ。思ったよりも水谷の背中は大きいですわね。
足を抑える腕も中々安定感がありますわ。
彼の髪からは汗のようで不快じゃない香りもしてくる。
むしろずっと嗅いでいたいような。
密着しているせいか手足が痺れたような感覚を覚える。
微妙に頭はボーっとしている気がする。
……あれ? わたくし、なにを考えていますの?
もしかしてわたくし、水谷に惚れてますの?
いえいえいえいえ。
何故わたくしが彼に惚れなくてはいけないのか。
気色悪過ぎて無理ですわ。
ええ。無理ですわ。
ないないない。
――ゾクリ。
エリーゼが葛藤を繰り広げていると、背後から何者かの視線を感じた。
その視線からは背筋をなでられるようで、
何かおぞましいような印象を受けた。
たまらず後ろを振り向く。
「――でさぁ」
「ふふふ、そんなことがあったんですね」
談笑している二人を覗いて他の者は見当たらない。
それもそのはず、とっくに予定到着時刻は過ぎているからだ。
だからエリーゼ達の他に生徒はいない。
気のせい、ですわね。
エリーゼは水谷の方へと向き直る。
「水谷様、今日は本当に助かりましたわ。心より感謝いたしますの」
「ん? 俺に感謝する義理なんてないぞ?」
「何故ですの?」
「今回、赤城がお前たちが帰ってこないのを疑問に感じたおかげだ。俺はそれについていっただけで、あいつがいなかったらお前たちは助かっていない。感謝はあいつにしてやれ」
「いえいえ、そんなことはありませんわ。水谷様がいなかったら今とは違った形になっていましたわ」
「そうか」
「水谷様、ありがとうございました」
そういうとエリーゼは疲労をためていたため、
溶けるようにまどろみへと落ちていった。
かくして波乱の校外学習はお開きとなる。
今回の一件で一悶着あったが、
行方不明者はいなかったということで大事にはならなかった。
何か問題があるとしたら、
それは水谷の肩に大量の唾液が付着していた事ぐらいか。
当然、彼女は目を覚ました後ドヤされるのであった。
すみません。今回で完結とさせていただきます。
自分の文章力に自信がなくなり、続けていく気持ちが薄れてしまいました。
ですが、今後も何か書いていきたいと思います。
いずれ自分の文に自信がついてくるようになったら
改めて「転生!?悪役令嬢エリーゼの優雅な日々」を投稿させて頂きたいと思います。
もしこの作品を楽しみにしていた方がいたのなら、
どうかその時までお待ちいただけると嬉しいです。




