第069話 『適材適所?』
「あ、ちょっと待って」
緊張が高まりつつあった結月とゲオに待ったをかける静。そして結月に耳打ちをする。
(暗示解いちゃダメよ。正々堂々とやりなさい)
(えーっ!?何それ!?万が一あんなのに斬られたら死んじゃうよ!?)
(大丈夫よ。もし危ないって思ったら私が止めるから。本気でいきなさい)
結月は渋々といった表情でゲオに向き直り、大きく息を吸って吐き、そして剣を構える。
「待たせたわね。いいわよ、かかってらっしゃい」
その言葉の終わるのと同時にゲオは結月めがけて駆け出す。速い!
地に顔が着かんばかりの低姿勢で距離を詰めるゲオ、そして瞬時に結月の懐に入ると下から曲刀で斬り上げる!
剣道をやっていた結月は上半身や上からの攻撃には強かった。だが逆に下半身や下からの攻撃にはあまり慣れていない。
無論、それを知るゲオではなかったが、先ほどまでの獣人達との乱戦でゲオはそれを察したのだ。
咄嗟に仰け反ってそれを躱す結月、その流れのまま行儀の悪い脚でゲオを蹴ると、そのままバック転し身構える。
「へぇ〜。やるじゃない、彼」
静もゲオの動きに感心する。
結月は…顔がニヤけるのを止めるのに必死だ。
ゲオ、彼は強いし頭も良い、何より戦い慣れている。
そして彼の攻撃には『攻意』はあれど『殺意』や『敵意』を感じない。武人なのだ。
これは殺し合いではない、『合意の上での力比べ』だ。勿論、あの曲刀が当たればその限りではないが。
楽しい!なんて楽しいんだ!
「やるじゃない。次はこっちから行くわよ」
そう言うと結月は、剣道の試合では絶対に見せない連撃を繰り広げる。蹴りや拳も入り混じる、少し行儀の悪い結月の連撃。
と一瞬、結月はゲオに背を見せる。その隙を逃す彼ではなかった。
「もらった!」
結月の背中めがけ真一文字に斬りつけるゲオ。
だが結月は後ろを一切見ずに地に這うような姿勢でゲオめがけて足払いを繰り出す
「うおっ!?」
そしてバランスを崩し転倒したゲオの首をめがけて剣を振り下ろす!
「そこまでよっ!」
咄嗟に静が割って入って結月の剣を止めた。
結月の剣は静の剣によってゲオの喉仏の上でギリギリ止まった。もし静が止めなければ、たとえ刃がないとはいえ結月の剣は彼の喉を砕き、殺してしまっていたかもしれない。
首元にある静と結月の剣を見つめるゲオにも脂汗が滲む。
「あぁ、母さんごめん。やっちゃうトコだった」
我にかえる結月。
「いいわよ。言ったでしょ、私が止めるって」
そして大きく息を吐くゲオ。
「やはり完敗だな。加減もされてたのに負けちまったよ」
と自嘲的に笑う。
「加減なんてしてないわ。『ズル』をしなかっただけよ」
と結月は釈明するが
「どっちにせよ全力じゃなかったんだろ?どのみち敵わないのはわかってた。戦いの技術的な面でも完敗だ」
ゲオは両手を上げて『降参』のポーズだ。
「で、どうすんだ。俺たちは教会にでも突き出されるのか?」
その言葉に真っ先に反応したのはアリエルだ。
静と結月の元へ駆け寄ると
「シズさん、ユヅキさん、あんたらを騙したことは謝るよ!暴言吐いたことも謝るさ!あたいは何だってするよ、だから教会に突き出すのは勘弁しておくれよ!あたいらが捕まったら子供達が…」
とアリエルの視線の先には、棒立ちした永遠を落ちていた剣で必死に攻撃する2人の子供。
「こんにゃろ!母ちゃんをイジメんな!」
永遠をげしげしと斬りつける。もちろん効かない。が、それを見て青ざめるアリエル。
「や、やめな!あんた達!」
子供達へ駆け寄り、永遠からひっぺがすと2人を抱きしめてへたり込む。
「とまあこんな感じなんだが、どのみち俺たちには選択権はない。姐さん達に任すぜ?」
と丸投げするゲオ。
「ははっ!あなたいい性格してるわね?私たちが教会に突き出すわけないってわかってて言ってるんでしょ」
と笑う静。とゲオ。
「えっ、母さんいいの?」
結月としても彼らを教会へ突き出すのは少し心苦しいと思っていた。しかし厳格(?)な母のことだ、悪人は容赦なく断罪するんじゃないかと思ってたのだ。
ましてや剣を交えたからわかる、ゲオは悪人かもしれないが誠実だ。こうなったのには何か理由があったのだろうと思いたい。
「昨夜ね、遥に聞いたのよ『この辺りの野盗に殺された人いる?』って。誰も殺されてないそうよ」
その言葉にゲオが答える。
「俺たちが欲しいのは物と食べ物だからな。命なんて貰っても恨みを買うだけだろ?まちょっと怪我させたヤツはいたかもしれないけどな」
と笑うゲオだが
「けどね、人から物を奪う事も許されることじゃないわよ。その分の断罪は後々させてもらうわね」
と言い、ニヤリと笑う静。
ゲオは慌てて話題転換をする。
「て言うか姐さん、『シズ』ってんだな、さっき『ハルカ』に聞いたって言ってたけどよ、それってまさか『天人教』の『天人・ハルカ様』の事か?天啓をもたらすってのは聞いた事あるけど実在すんのかよ?」
と、胡乱げな視線で静を見る。
そのゲオの視線も尤もだ。言うならば『天人・ハルカ』の存在は『神』に等しい。
『神に聞いたから知ってる』なんて言ったら、少し頭の怪しい人扱いされかねない。
「まあ私は何でも出来るの。それ以上を聞くと斬っちゃうわよ」
と静は可愛く言うが、全く誰も笑っていない。シャレにもなっていない。
と、先ほど静達に熨された獣人達がやや呻きながら起き上がり始めた。それを見てゲオは大声で宣言する。
「皆、聞け!今日この瞬間からこの群れのボスはここにいる『ユヅキの姐御』だっ!文句があるヤツぁ出て行けっ!」
「ええーーーっ!?なんであたしーー!?」
横では静が腹を抱えて大爆笑していた。
ファンタジー物で戦闘や決闘もあるのに『人が死なない』というのはなかなかに難しいです。
でもやはり『人の死』や『戦争』、『国家の争い』を持ってくるのは私の性分ではないのです。
まあ初っ端から祐樹は死んじゃったんですが。
私自身も先だって父と祖母を相次いで亡くしたんですが、やはり『人の死』というのは軽々しく描いて良いものではないと実感します。




