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らせんのきおく  作者: よへち
静編
67/205

第067話 『それは日本人として』



カッポカッポと市街を走る馬車。


「母さん、馬車なんて乗れたの?」


手綱を弾くのは静だ。特に操縦に迷う様子もなく手綱を操り、街中で馬車を走らせる。


「まさか。馬車なんて初めてよ。買った時に乗り方を教えてくれたからそのとおりにしてるだけよ」


なんとも恐ろしい。まさかのペーパードライバー以下。交通ルールとかないのだろうか。


「こんなの『習うより慣れろ』よ」


と高らかに笑う静。

別に他の通行人達とも違和感なく走れているようなので問題は無さそうだ、たぶん。

それよりも結月には気になってた事があった。


「ねえ母さん…なんか視線感じない?」


結月の感じる視線。しかし周りを見回した所で誰もこちらを意に介してはいない。なのに何故か街行く人々から妙に視線(?)を感じるのだ。自意識過剰というつもりでもないのだが…


「ああ、それね。私も気になってさっき遥に聞いたんだけど、ここの人達ってみんな精神力が少しずつ漏れ出してるんだって。それを肌で感じてるみたいよ。ほら遥が言ってたじゃない、『精神力で物理干渉ができる』って。」


そうなのだ、この世界の人々は『魔法』を使えるのだ。それに使う精神力が溢れ出し、『視線』や『気配』として感じられるようだ。


「魔法ねえ…それって私たちも使えたりするのかなぁ?」


今更『魔法少女』に憧れる年齢でもないが、だからと言って全く興味のないワケでもない。なんせ魔法だ。夢の力だ。しかし


「使えないんじゃない?私たちを取り巻く環境は激変したけど私たち自身は何も変わってないからね」


と静は興味を示さない。そして腰に挿した剣を掴み


「それに私たちにはコレで十分よ」


と言った。とことん現実主義な静。

だがそうなのだ。静もそうだが結月も『剣の道に生きる者』だったのだ。しかも意識を集中して『暗示』を解けば、人外の速さで動き、あり得ない跳躍力を得ることもできる。

剣と魔法の世界に、この技術と能力は圧倒的に有利だ。

それを考えると結月にもこの『未知の世界の冒険』は然程さほど怖いものでもなく感じられた。


と、馬車は前を行く人々とともに停車する。前の方で何かあったのか、道の先のほうからずらっと並んで停まっている。


「何かあったのかしら…?結月、ちょっと馬車で待ってて、母さん見て来るわね。永遠、あなたも来なさい」


静はそう言うと御者台を結月に譲り、永遠と連れ立って渋滞の前の方へ行く。

その先頭には見窄ますぼらしい格好をした1人の小柄な少年がいた。

通りを行く人や馬車に片っ端から声をかけている。


「お願いです!誰か助けて下さい!お願いします!」


誰もが気まずそうに無視して避けて通って行く。だが道の往来のど真ん中だ。避けて通るにしても見ての通り渋滞は発生しているし、気の短い馬車主にねられかねない。


「おーい、そこの少年ー。危ないからちょっとコッチ来なさーい!」


静がそう声をかけると、少年は永遠に駆け寄り


「お願いです!助けて下さい!僕たちの、僕たちの集落が魔獣の群れに…!」


「はい。わかりました。案内して下さい」


「「へっ!?」」


なんの躊躇ためらいもなく少年の願いを受ける永遠。思わず静と少年は異口同音。


「し、少年、ちょっと待っててね」


静はそう言うと少年に背を向け、永遠にヒソヒソ話をする。


(永遠、あんた何考えてんのよ!?私たち今から東の果てまで行かなきゃなんないのよ!?)


「ですが少年は困っていて『助けて下さい』と言ってました。助けないのですか?」


まったく空気を読まない永遠、静はヒソヒソ声で話しかけているのに普通の声で返答をする。

振り返った静の目に入ったものは、すがるような瞳で2人を見つめる少年だ。

その状況に、静ももう諦める。


「はぁ〜…しょうがないわね。少年、あなた名前は?集落まで案内できるわよね」


静のその言葉に少年の表情がパァーっと明るくなる。

その後ろ、渋滞の解消した道を


「母さーん!コレどうやって止めるの〜!?」


と、結月の乗る馬車が走り去って行った。


---


「僕は北にある『カブール』の集落に住む『アレク』と言います」


そう自己紹介する、猫っぽい顔をしたエルフの少年・アレク。そして集落での出来事を語り出す。

だが話は単純だ。ある日、集落は魔獣の群れの襲撃を受け、這々の体で逃げ出したアレクは助けを求めてイミグラまで来た。そして路上で助けを求めているところで静の一行に声を掛けられた、と。


「そうなの…大変だったね」


とアレクに同情する結月。だがその目は憐れむというより愛玩動物を見る目だ。大丈夫か結月?


「この街より北方60kmあたりに小規模な集落があります。名称までは存じ上げませんがそちらの事ではないかと推測されます。ですが…」


と説明する永遠の言葉を静はさえぎ


「永遠、それ以上はいいわ。はぁ、まあ仕方ないわね、乗りかかった船よ。そのカブールとやらまで行くとしますか」


静は溜め息をついてそう言うと、荷物の中から剣を取り出す。


「永遠、あなたは剣なんて必要ないわよね。結月、あなたも帯剣しときなさい。何があるかわからないからね」


結月の渡された剣は静と同じ、柄を付け替えて両手で持てるように改造された片手持ちの刺突剣。だが先は折られ刃もない。


「あ、それから結月に注意だけど『意識を集中』して剣を振る時、気をつけなさい。この世界の物、案外脆いわよ」


そして静は真剣な表情を見せると


「ねえ結月。今から大切なことを言うわよ。さっきも言った通り私たちを取り巻く環境は激変したけど私たちは何も変わらない。どんな事があろうと決して、絶対に、『人』は殺しちゃダメ。それだけは母さんと約束して」



それは結月がこの世界で目覚めて初めて見る『静の真剣な表情』だった。








この出会いも、後の歴史を創る『始めの一歩』になります。

想定外の出来事で赴く事となってしまったカブール。そこで静達を待ち受ける運命とは。



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